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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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351-灯火が絶える時

誤字報告ありがとうございます


 侵入経路は胴体の噛み傷。

 命燈魔法の再生によって癒えた筈の傷が、今更になって痛み出す。捨て身の一手、何もかもを出し尽くした男の、絞りカスとしか思えなかった無駄な抵抗。

 心の何処かで、きっと彼を軽視していたのだろう。

 ずっと、ずっと、心臓の真上にいながらも燃え尽きず、発芽する瞬間を待っていた。きっと、リリーライトがその気配に気付かない限り、発芽しなかったであろう種子。

 戦闘後、若しくは命燈魔法を使っていなければ、確実に気付けたが……その存在感の小ささは、あまりにも微弱で脆弱だった。


 だが、今この瞬間───活性化した“死の森”が、天馬の胸より開花する。


「こ、れ…は……ッ!」


 上裸の胸を引き裂いて、沸騰する血液から悍ましい色の植物が生える。凄まじい成長速度で草が生い茂り、枯れ木のような老人の手のような、何処か生き物めいた枝が胸を苗床に伸びていく。

 サジタリウスを土壌に、死の森は繁殖。

 コズミックカラーの花々が咲き乱れ、無数の枝が絡まり森を作る。


「ッ、ここでカリプスの黒堊が出るとは、ね……予想外、完璧に意識の外だった……ッ!」

「将星の地位は伊達じゃない、ってことだね」

「ふふっ、全くッ……こうなることなら、コシュマールで殺しておくんだったよ……例えこれが、偶然による必然であったとしても。僕は、彼を認めるしか、できなくなったわけだ」


 身体に蔦が這う。

 サジタリウスの生命力を枯渇させんと、命を吸い取って急速に成長していく。辛うじて残っていた岩の塊にも蔦は伸びて、遂にはサジタリウスの馬体と結んでしまう。

 身動きが取れない。

 溢れんばかりの魔力で焼こうと、膂力で振り払おうと、呪詛は溢れて止まらない。破壊速度を上回って、サジタリウスを動かさせない。活性化した呪詛は、サジタリウスの放出が止まらない生命力を逆手にとって命を育む。

 なんとか三本の手の自由は効くが……それも最早時間の問題。胸から咲き誇る大きな一輪の花が、サジタリウスを完全な土壌にせんと蔦を広げる。

 いつ死んでもおかしくない状況。

 命燈魔法の影響もあって、サジタリウスの時間の残量はもって数分。


 ……決着を付けるには、その程度の時間ではお釣が出るぐらいだ。


「で、もう負け?」


 冷たく見下ろすライトは、聖剣を携えて問いかける。


 普通であれば、ここで勝敗がついても不思議ではない。死の森の侵蝕はそれだけ致命的だ。だが、ライトはこれで戦いを終わりにする程生易しくはない。

 その状態でも抗ってみせろと。

 終幕を下ろすのがそれでいいのかと、小首を傾げて問いかける。


「……全く、人を焚き付けるのが上手だね」

「え〜?だってさぁ、納得できる?私的に、黒山羊くんの呪詛パワーは戦術の一つでしかないし……必殺のトドメに採用したわけじゃないんだもん。で、終わり?」

「それは早計ってヤツさ……いいだろう。君のご要望に、応えようじゃないか!」

「そう来なくっちゃ」


 身体が悲鳴を上げる。

 血反吐が止まらないが、それが呪詛なのか、命燈魔法の代償によるものなのかの判別もつかない。

 それでも、サジタリウスは力任せに蔓を引きちぎる。

 常人では脱出など不可能。逃げられないから“死の森”であるというのに……この男は、またしてもその呪縛から、力任せにその身を解放させる。

 呪詛は焼けない。執拗にもその身を蝕み続ける。

 ならば、蝕ませたままでもいい。だが、己の戦いを邪魔することは許さない。止められないのは呪詛の侵蝕だけ。拘束を解くのは、まだ容易だ。

 身体に凄まじい負荷がかかり続けても、サジタリウスは笑みを深める。


「それじゃ───私の、最後の戦いと行こうじゃないか」


 もうわかる。

 長時間に渡る命燈魔法の運用。それに加え、黒堊による呪詛侵蝕。ただでさえボロボロの身体が、全身を支配する毒素によって更にガタガタになっている……

 それでも、サジタリウスは戦いをやめない。

 死にゆく身体に鞭を打って、無茶を効かせて、満足行く戦いを求む。


「さぁ、どれだけ持つかな?」


 奮起したサジタリウスは、滅びゆく身体を震わせて……最後の、突貫を。


「楽しもうね!」

「目一杯、ね!」


───極光魔法


───天域闘舞


 魔法少女と将星の、最後の戦いが幕を上げ───極光が全てを平らげる。








꧁:✦✧✦:꧂








 一方その頃。

 戦線を離脱したカリプスたちは───ダビーが建造した脱出ポットの上に乗って、星空を飛んでいた。

 背後に見えるのは山脈の残骸。

 後一歩遅ければ、星の崩壊に巻き込まれて、脱出は容易ではなくなっていた。


「今の気配は…」

「どうした?」

「……俺の魔法…呪詛が発動した感覚があってな。なんでなんだろうって思ってた」

「あん?あー、なんでだ?」


 首を傾げるカリプスに、ビルは最後の最後に噛み付いたアレが実ったんじゃねェのと思いながら、確証がない為、それ以上は口にせず。運転に専念するダビーと、窓からの景色を楽しむナシラに、集中しろよ〜と声をかける。

 その間も、カリプスは疑問に首を傾げ……

 結局、なんか上手くいったんだろうと楽観視。万が一で呪詛が残ってしまったら、戦いの後にでも除去しようと、視線を外すことなく疑問に蓋をする。

 敗戦した彼らは、総旗艦に帰投する……のではなく。

 突発的に現れた謎の集団───絵の具のような異形が、恒星異空間を回遊しているのを止めに行く。最初は遠目に見えていたが、徐々に近付いて来ている。

 絶対によくないであろう存在を、根絶する為に。

 航路をそちらの方向に向け、一行は絵の具に染まりつつある星空へ。


「もう無様は晒さねェからな…」

「……なぁ、同僚が魔法少女になってるみたいなんだが、どう思う?」

「は?」


 困惑の声を上げた、その背後で。

 今まで以上の輝きが───特大の極光が、星空を大きく震撼させた。








꧁:✦✧✦:꧂







 “(13th)”───権能:【極光】


 十三代目である彼女を意味する、妖精女王最後の権能。リリーライトの魔法出力を極端に上げ、彼女からの裁きを待ち望む罪人を、痛みなく浄土に送る慈悲の光。

 その力は絶大である。

 その力は強大である。

 その力は破格である。

 あらゆる面から見ても、その輝きは類を見ない程強く、眩く、美しく。


 かつて、多くの敵性存在を断罪した輝きが───天馬の星を、両断した。


 幕引きは、呆気なく。


「ガハッ、ハハッ!ごほっ、げほっ…」


 命燈は燃え尽きた。

 袈裟斬りの形で、サジタリウスは胴体を斜めに斬られ、胸から下とお別れした。

 パチパチと、下半身の馬脚が燃えている。

 地に落ちた上半身は、いつの間にか片腕のみの、本来の姿に戻っており……喀血するサジタリウスは、満足そうに星空を見上げていた。


 周囲に突き刺さった武具は、もう握れない。


 最後の一矢は、己の全生命力を、魔力を一滴も残さずに投入した。長年連れ添った、名前の無い強弓がひしゃげて砕けてしまう程の、絶大な破壊力。

 相対したライトも、流石に無傷では済まなかった。

 左腕は吹き飛び、胴体も幾らか抉れた。それでも彼女は止まらず、聖剣を煌めかせ……サジタリウスを、斬った。

 どちらか勝者なのかは、言わずともわかること。

 悲鳴を上げる身体を無視して、聖剣を振るったライトが傍に立つ。


「満足した?」

「あぁ、とっても……楽しかったよ……ふふっ、全く……年甲斐もなくはしゃいでしまったね…」

「いーんじゃない?歳とか関係なく、人生楽しんでなんぼでしょ」


 嘘偽りなく応える。

 狩人として、将星として、多くの敵と相対してきたが。技と技のぶつかり合い。己を糧に成長しようとする、若き強者。時間を忘れてしまう程の、激闘。

 過去の戦いと比べても、これ以上とない死闘だった。

 命燈魔法を最後の一瞬まで使ってしまったのは、大きな痛手だったが……使ってよかったと本心で思えるような、そんな戦いになったのは幸いだった。

 ……唯一の気掛かりは、将星としての職務を果たせないことだが。若干放棄していたようなものだったのは、秘密である。


「ハァ、ハァ……うぐっ、カハッ!」


 そして、身体を蝕む呪詛も未だ健在。胸の中から外界に生い茂る木々も、血管や皮膚を伝って体内を寝食していく呪詛にも、サジタリウスは抵抗できない。

 直に彼は植物となり、死の森の新たな土壌となる。

 ……そんな末路を辿るよりも前に、サジタリウスの命は消えるだろうが。


 気色の悪い花が生い茂るのを見下ろしながら、ライトは回復魔法を自分にかける。

 魔力は豊富にある。左腕を生やすなど造作もない。

 失った血肉のダメージは残るが……彼女はまだ、ずっと戦える。


「フフッ、そう傷を治されてしまっては……僕の頑張りが無駄になったみたいで、嫌になるなぁ」

「別にいーじゃん。治さないと、勝てないもん」

「そうかい」


 矢を射られる前に意識を昏倒させるか、魔力を封じ込み命燈魔法を使えなくするか……サジタリウスを容易に封殺するやり方は、五万とある。ムーンラピスが魔城を襲撃、数秒で帰って来た時のがいい例だ。まぁ、あと数秒あれば前線復帰して矢を番えて来たのは想像に難くないが。

 それでも正面突破を選んだのは……偏に、真っ向勝負で挑みたいと思ったから。これで相手が正気ではない怪人であれば、手早く仕留めるやり方を喜んで選ぶが……

 魔法少女は飢えている。

 対話のできる敵との戦いを、めいっぱい楽しめないのは辛いのだ。


「遺言、聴くよ」

「……そう、だねぇ。うーん……うん。いらないや。必要ないかな。僕に、遺言は」

「え、いいの?こう、いないの?」

「いるよ?いるけど……伝えたいことは、会う度に伝えているからね。それに、将星は……いつ死んでもおかしくはない地位だからね。後はもう、潔く散るだけさ」

「!」


 言葉はいらない。

 ここに遺すモノはない。

 その意思を、明確にするかのように……サジタリウスの身体が、ボロボロと、指の先から、胴体の切れ目から……灰になって崩れていく。

 いつの間にか、下半身の馬体も灰の塊になって崩壊し、風に乗って散っていく。咲き乱れていた死の森も、徐々に灰に染まって、生命力を喪失させ……崩れ行く。

 命燈魔法を最後まで使った、その代償。

 燃え尽きた肉体は、あとはもう、灰になる以外に未来は無い。


「……ねぇ、それじゃあ、さ」


 灰となっても、戦士としての余裕な笑みを浮かべる男。尊敬すべき狩人たる将星の、その末路。終わりを見届ける役を羽織らされたライトは、ふと声を零す。

 遺言は無いのならば。

 勝者として、我儘一つぐらいは融通を効かせて貰うと、言葉を強く。


「あなたの灰、貰うね?」


 勝利記念に。そう言って、腰のポーチから小瓶を見せたライトは、拒否権なんかないぞと軽く笑う。

 彼女の申し出に、サジタリウスは目を点にして。

 ハハッ、と、どうしようもないように声を漏らして……仕方がないなと半笑いを浮かべて。普段よりも穏やかな、笑顔を見せて。


「ふふっ……全く、本当に……君みたいな子に負けれて、よかったよ」


 リリーライトは、その笑顔を忘れない。

 ガラスの小瓶に収まった、少量の灰を星空に掲げて……追悼を捧げた。


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