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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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310-王獣革命


 賢い獣は吠えない。


 冷徹に物事を見定め、無闇に喉を震わさず、ただ獲物を睥睨する。殺気を前面に出すのはナンセンスだ。そういう野蛮な色は懐に忍ばせて、ゆっくりと獲物を観察する。

 怯えさせてはダメだ。

 気付かれてはダメだ。

 腹を空かせていないのなら、獲物が一番油断した隙を、日常の延長線上を狙うのが一番いい。無駄に疲れさせては肉の味の質が落ちる。上質な肉を求める賢い獣に、そんなスパイスは必要ではない。

 もしも自分を取り繕うことができるのならば、友好的な隣人の振りをするのもありだ。

 交友関係を築き、殺意を笑顔の下に潜め、時間をかけて相手を最高の餌にする。油断も慢心も、安堵も幸福も全て美味しく、最後に頂くのだ。

 無闇矢鱈に吠えて、唸って、警戒させるなど。

 虎視眈々と狙い、その時を待つ。この世は結果が全て。過程などどうでも良いと言われがちだが……その過程に、どれだけの時間と労力を割いたかで、手に入る“勝ち星”の美しさは左右される。

 時間かけろ。狡猾であれ。悪虐であれ。勝者であれ。

 そして───“王”であれ。全てを欲し、手にする王獅子であれ。


 黄金に支配された世界で、ただ一人。玉座に君臨する、王であれと。


 そう教えられたレオードは、ふと考える。


 吠えるのは野蛮な獣。王たる獣に、咆哮はいらず。その睨みをもって、全てを従えよ。そんな前時代的な、意味のわからない持論を展開する一族の老人たち。

 今はもういない、枯れ木同然の薄肉たちの言葉。

 レオード的には、何を言ってるんだ。自分の理想勝手に押し付けんじゃねぇ以外の感想が出てこない、くだらない思想なのだが。


 一部。計画しろ、耐え忍べ、時を待て───それだけは受け入れられた。


 今の自分だって、そうやって時間をかけて今に至る。


 だが。


「咆哮しねェ王なんざ、ただの傀儡だ。要は、テメェらにいいなりのお人形が欲しかっただけだろ……殺した後から気付くのも、なんだけどよ」

「俺ァ、吠えるぞ」


 賢き獣だって咆哮する。


 玉座に座る、小さな暗黒星雲をその身に纏う蛇の王に、聞かせるように。


 咆哮はうるさいのではない。感情の発露、威嚇、そして存在誇示。王たる者の証として、己の力を示す為に、咆哮こそがもっともポピュラーな誇示の仕方だろうに。

 有象無象をそう鼻で笑いながら、レオードは前に進む。

 そう、吠えるのだ。

 己は未だ、王であって王ではない。今この時から、真に王となるのだ。


 故に。


「ガアアァァァァァァァァァァァァァァ───ッッ!!」


 余裕を崩さず、平然としたまま玉座に坐す蛇への殺意。溢れて止まらない渇望。そして、自分に仕える兵たちへの鼓舞も兼ねて。


 宙の魔城を劈く、王獅子の咆哮を。開幕一発目に皇帝へお見舞いする。


「むっ…」


 “星喰い”ニフラクトゥにとって、獣の咆哮などさしたる脅威ではない。だが、レオードの魔力を帯びた咆哮は一味違う。真正面から音圧を浴びたニフラクトゥは、否応にもそれを理解してしまう。

 前例を挙げるとすれば、第七師団のダラコイル。

 彼はドラゴン形態の時のみ、魔力に干渉し、魔法出力の減衰や敵の動きを鈍らせることができる。だが、この男。レオードの咆哮<スタン・ロアー>は毛色が違う。

 王獅子の一族共通とされる咆哮の特性。

 “あらゆる魔法の完全消滅”。放たれた攻撃も、治癒も、その身を守る障壁さへも消し去る。本来は味方を問わず、咆哮を聴いた者を、そして、咆哮が当たった者を容赦なく無力化してしまう咆哮なのだが……

 レオードは、己の咆哮に指向性を持たせた。

 味方に届かないよう、相手にだけ。ニフラクトゥにだけ影響するように。


 今まで一度も見せたことの無い、秘匿してきた隠し玉の一つによって。


 ニフラクトゥ・オピュークスを守る全ての魔法障壁が、ガラスのように音を立てて消滅。

 強制的に丸裸にされた王は、驚きに目を見開く。

 想定よりも早く、通常装備の障壁を一つ残らず消滅してみせた獅子に。


「これは驚いた。やはり、我に全てを見せていたわけではなかったか。やるな、レオード」

「褒めんには少し早ェだろ。逸んじゃねェよ」


 感心する皇帝に、親指を下に向けて首を切って返して、せせら笑うレオードは前進する。

 傍に控えるフェリスと、飛翔したコルボーを連れて。

 これは王位を奪う戦いである。叛逆者であり、簒奪者となる獅子の戦いである。革命を起こし、己のモノではない暗黒銀河を手中に収めるのだ。

 己の勝利を疑っていない蛇を噛み殺す。

 一先ず、今はそのことだけを考えて───研ぎ澄ませた牙を向ける。


「飾ってやるよ、テメェの黄金像」


───黄金魔法<ミダス・マリーゴールド>


 足元から生まれた黄金が、濁流となって玉座に向かって大挙する。触れれば同じ黄金となって、その身を蝕まれ、命を落とす。

 それはニフラクトゥも変わらない。

 数多の命を喰らい、その身に内包する蛇は、泰然とした居住まいで黄金を眺める。


「生憎だが」


 怒涛の勢いで襲いかかる黄金に、ニフラクトゥは欠片も危機感を感じられない無表情で、徐ろに、フィンガーレスグローブに包まれた右手を持ち上げる。

 迫り来る黄金に、人差し指を突き付けて。

 魔力が迸る。


「オマエに飾られる程、我という玉体は軽々しく扱われるモノではない」


───淵星(・・)魔法“(ネメシス)”<アートルムホール>


 指先から暗黒球体を発生させ、黄金へと差し向け。


 黒い星が花開き、空間に小さな穴を開き───小規模なブラックホールを発生させる。ニフラクトゥの魔法により現れた虚空の穴は、流れ込む黄金を逃がさない。

 空間は捻じ曲げられ、大理石の床や絨毯を巻き込んで。

 不可避の黄金は、レオードの魔法は、この世界から完全消失した。


 役目を終えたブラックホールが収束して、玉座の間から消滅する。


「……おい、なんだその名前は」


 わかりきっていた光景。

 だが、レオードは困惑した。今、唱えられた魔法に……この日までは一切聞き取れなかった筈の、ニフラクトゥ・オピュークスの星を司る力に。

 その音色を理解できることに、困惑が勝る。

 名前の無かった筈のその力。名が無いからこそ、極めて異質だった魔法。


「む?あぁ、淵星(えんせい)のことか。なに、今までは気にせず我ら星喰いの古びた固有言語を使っていたのだが……魔法少女たちの戦いを覗き見て、改めて思ったのだ」

「───故に、当て嵌めたまで。十二に分けたがな」


 必要性を感じていなかった。

 所詮は力。“外宇宙”からやってきた正真正銘異邦の一族生まれであるニフラクトゥは、この世界の生命体ではまず理解できない言語でその力を行使してきたが……

 その考えを改めた。

 魔法少女たちの戦いを見て───自分もそのステージに降りて戦った方が、面白そうだとわかって。名も無き力に名を付けた。


 故に“淵星”───十二に細分化した力、淵源の魔星。


 “(ネメシス)”は、ブラックホールといった重力支配に由来する力の結晶だ。


「土俵にでも上がったつもりが?」

「そうだ。ここまでの反旗を我に見せつけたオマエにも、適したやり方であろう?ある意味、我はオマエたちと同じステージに、漸く立ったわけだ」

「そうかよ」


 頬杖をつき愉快そうに笑うニフラクトゥは、追加で迫る黄金をまたしても破壊する。

 新たな力を見せつけるように、魔力を渦巻かせて。


───淵星魔法“(アグニ)”<グロウ・アストレアレーザー>


 プラズマを収束させた光束レーザーを、横に薙ぐように指から放つ。光が触れた途端、壊せない黄金はあっさりと蒸発。その火力は黄金を焼いても止まらず、レオードにも襲いかかるが……舌打ちをしながら、レオードは天井まで跳び上がって回避。

 無論、その方向にも光線は飛んでいくが。

 固形化した黄金が盾となり、更に盾を足蹴にすることで回避。


 砕け散った黄金の破片を払い除けながらも、レオードは動きを止めない。


「悪足掻きを…」

「本当にそう思います?」

「ふむ」


 鬱陶しそうに黄金を見上げていたニフラクトゥは、ふと耳に届いた別の声……大して視界に入れていなかった敵の側近たちに目を向ける。

 脅威度は明らかにレオードよりも下がる。

 だからこそ、大して気にもせず放置していたのだが……どうやら失敗だったらしい。


「えいやっと!」


───曙光魔法<ダウン・オブ・ニューホープ>


 挑発的に皇帝を見る山猫、フェリスの指先が淡く光る。決してこちら側には近付かず。距離を置いたまま、安全圏から攻撃を補佐する戦士。

 目障りだと攻撃するよりも、早く。


「ぜーんぶ吹っ飛べ───鳥葬魔法ッ!!<スカーヴェ・レーザー>ッ!!」


 飛翔していた闇鴉、コルボーが汚れたユメエネルギーを凝縮したレーザーを空中から放つ。フェリスの小さな奇跡を起こす光を補佐として、別口から皇帝を狙う。

 死の匂いの濃い破壊光線。

 鬱陶しそうに天井を見上げたニフラクトゥは、緩やかに魔法陣を構築。


───淵星魔法“(アテネ)”<スター・アイギス>


 星型の魔法陣が盾となって、破壊光線を一切の苦もなく防ぎ切る。


「無駄だ」


 僅かな希望を頼りに奇跡を起こす、その補佐があろうとなかろうと、根幹たる僅かな希望が無ければ意味がない。そう言って力で捩じ伏せるニフラクトゥだが。

 奇跡は、その想定を少し上回る。


 なにも、破壊光線は決め手の技ではない───全ては、王の為の繋ぎに過ぎず。


「後ろがガラ空きだぜ」


 フェリスの奇跡で無意識にレオードを思考から外して、背後からの強襲を許してしまう。

 本来ならばありえないこと。

 本来でなくても、そんなことはできやしない。

 だが、フェリスは一つ一つの小さな奇跡を繋ぎ合わせ、実現させるのが仕事だ。配下二人で囮になって、目的地に王を運ぶのは当然の務め。

 わざと声を出して、自分の存在を伝えてやりながら。

 レオードは、黄金色に輝く獅子の大鎌を、皇帝の首へとかける。


「ほう…」

「まずは一殺」


───黄金魔法<ミダス・ギヨティーヌ>


 黄金の剣閃が駆け、ニフラクトゥの首を刎ねる。魔法で切断箇所から黄金に染め上げられ、床に転がり落ちた頭も胴体も黄金像に変化した。

 障壁を張り直そうと、その障壁ごと黄金にして断頭台に相手を送る斬撃。玉座ごと切り裂いてやった黄金像から、レオードは喜ぶこともなく跳んで退避。

 あまりにも呆気ない。手応えのない終わり。

 だが、それも当たり前のこと───死に忌避感のない、終わりのない生命にとって。命をたった一つしか奪えない斬首など、警戒するに値しない。


 黄金にされようと───リセットしてしまえば、全てが元通り。


「───よく頑張るな」


 一秒と経たずに、五体満足のニフラクトゥが玉座の前に立っていた。できあがった黄金像は影も形もなく、3人が認識できない瞬間に復活したのが想像できる。

 ニフラクトゥは命を無数に持っている。

 その数は誰も知らない。今の今まで調べてきたが、一切情報はなかった。それこそ、眉唾物な噂に嘘の情報すらも存在しなかった程だ。

 残機制の復活は、時が巻き戻るかのように発動する。

 本人の意志関係なく、魔法に由来しない、術式も方陣も存在しない。ただ、そういう“モノ”としてニフラクトゥに備わった機能なのだ。


 何も無かったかのように。今まで受けた攻撃の全てを、リセットする。


「相変わらず厄介だな」

「わかっていて何故挑む。無理なら無理でも、我は決して嘲りはしない」

「テメェの感情なんざはどーでもいいわ。無理だ無理だと言われようと、やり遂げんのが普通だろうが。安心しろ。ちゃーんと奪ってやるよ。全部の命」

「大言壮語だな。やってみせろ」


 同時に、レオードとニフラクトゥは踏み込んで……拳と大鎌が激突する。

 強化するまでもなく硬い拳に、斬撃は受け止められる。

 ニフラクトゥの攻撃速度、移動速度は共に速く、暴風が巻き起こる程速い。その凄まじい動きに、レオードは歯を食いしばって追いつき攻撃する。フェリスとコルボーも、2人の動きについて行こうとするが……ニフラクトゥには敵わず、全ての攻撃が軽々といなされる。

 入れ替わり続ける攻防、目まぐるしい近距離戦。

 明らかに分があるのはニフラクトゥ。レオードは拳撃を捌き切れず傷を負い……終いには強烈な腹パンを食らって吹き飛んでしまう。


「……ぺっ、痛ッてぇな」


 壁にクレーターを作りながらも、床に倒れずに這い出たレオードは、口に溜まった血を吐き捨てながら、落とさず握っていた大鎌をくるりと回す。

 差は歴然。ただの殴り合いで胃が潰れかける始末。

 遅れて吹き飛ばされたフェリスとコルボーも、血反吐を吐きながらも立ち上がる。

 心は折れない。

 こんなもので心が折れる程、ズーマー星人の精鋭たちはやわではない。


「どうします?」

「ただ続けるのは愚の骨頂。どうする、オーサマ」

「ハッ、決まってんだろ。嫌味かってぐらい抗って、蛇の心臓を貰い受けるだけ……その為にこれでもかってぐらい小細工を用意したんだ。せっかくだ、全部使い切るぞ」

「おっ、早速ですね?」

「了解!」


 出し惜しみする必要は無いと。泰然とした雰囲気のままこちらに歩み寄る怪物に、レオードたちは笑みを浮かべてまた挑みかかる。

 勝算はある。勝つビジョンは、既に見えている。

 この日の為に用意した全てを、ここで使い切って───宇宙の王になる。


「策は豊富なようだな……いいだろう、全て見せてみろ。我を飽きさせてくれるなよ」

「その上から目線、いつまで続くか見物だな」


 強者の余裕をもって対戦を受け入れるニフラクトゥは、余程のことがない限り警戒しない。例え死のうとも、命は軽い消耗品でしかない。何回死のうと、何十回死のうと、何百回終わりを迎えようとも。

 “星喰い”の歩みが止まることはない。

 この世の全てを平らげ、滅ぼすその時まで……怪物は、暴れ続ける。


 再び、レオードとニフラクトゥが激突する。黄金の鎌が張り直された障壁を切り裂き、黄金で侵食しながら皇帝の殺害を目論む。


 レオードは強い。

 ちゃんと力を持っている。

 それこそ、ニフラクトゥが彼との戦闘に意識を割いて、周囲への対応を疎かにせざるを得なくなるぐらい、王たる獅子は脅威と認識されている。

 フェリスとコルボーは、その認識を利用する。

 自分たちに注意が向けられない状況下。手始めに、この魔導具を。


「戦闘用じゃないけど」

「わかんねーもんをわかんないままにすんのは、それこそバカの所業でしょ!」


 そうして懐から取り出したのは、紫色の瞳型の魔導具。アリスメアーの“夢瞳”。悪夢に染まったユメエネルギーを集積する仕事道具を、ラピス監修の元タレスが改造した、ニフラクトゥの“それ”を測定する為の機械式魔導具。

 ニフラクトゥが持つ一番の未知を明らかにする装置。

 その未知とは、命の数。

 わかっているのは、彼が星の具現である“夢星”を食らう形で命の補完をしていること。ニフラクトゥ本人の過去の言動から、その数には限りがあるということ。

 明確な数値は、今まで誰も調べられなかった。

 だが、長い年月をかけて、ニフラクトゥが内包する命が発する波長を観測し続けたタレスが、それを明らかにする手段を構築した。


 それがこの“ライフ・ディテクター”。一発勝負、試行もできていない夢瞳を、フェリスは手を突き出す形で皇帝に向ける。


 使い方は簡単。ただ、対象に翳すだけで───その内に秘められた命の数を測定する。

 それ以外にはなにもできない。

 機能を制限することでどうにか完成に漕ぎ着けた、蠍と月の秘密道具。


「……む?」


 妙な力の波動を感じたニフラクトゥは、フェリスたちに視線を送る。


 そして。


ピピッ…ビーッ!!


 特徴的な機械音が、エラーを吐くように止まることなく鳴り続ける。


「な、なん……」


 魔導具の反応に戸惑うフェリスだったが、手の中の瞳は正確に作動しているようで。

 機械的な瞳孔に、幾つもの数字が並ぶ。

 内包された命の数、消費された命の数───その全てが多すぎて、機械は故障しかけながらも、自身の役目を意地でも果たす。


 やがて瞳型の液晶に映った数字が、加算されていくのが止まる。


「……は?」


 その数値を見て、フェリスとコルボーは絶句する。




─── 31,193




 夢瞳は壊れていない。

 文字通り、今、ニフラクトゥが内包している命。残機の総数を提示している。


「なんだ、我の命の数か?」

「あと三万もあんのかよ、キメェな……」

「酷いな……それと、正確には31,201だ。今しがた、一つ減らされたのでな」

「キリが悪ぃ」


 生まれた時からある大量の命。減れば、夢星を食らって減った分を取り戻すだけ。

 地球に赴いた時、蒼月と極光に削られて三回。

 クイーンズメアリーに処刑されて四回。

 そして、今回の一回───8つ分の命を、彼は癒さずにまだ残していた。


「魔法少女から受けた傷は、彼女たちを支配してから癒すつもりだからな」

「チッ、しょーもねぇプライドだが……お陰で、七回分は楽になったわけだな。ありがてぇことこの上ねェよ」

「ククッ、安心するといい。オマエの一撃も、終わるまで残しておこう」

「そうかよ」


 死は敗北ではない。

 ニフラクトゥにとっての本当の敗北とは───それこそ彼自身もわからない。なにせ負けたことがないから。敗北知らずの皇帝は、勝利以外の未来を知らない。

 だからこそ、強者を追い求める。

 世界そのものと言ってもいい怪物は、王獅子にも期待を送る。


「仕切り直しと行くか?」

「そんな必要ねェよ───ここで二回目。通算九回目の、復活と行こうぜ」

「ほお?」


 自信満々に吼える獅子に、蛇はニヤリと笑みを向け。


 黄金の煌めきと淵星の揺らめきが、ドゥーンビーレルを震撼させる。


「黄金に沈め」

「深淵に挑むか」


───黄金魔法<ミダス・カレンデュラ>


───淵星魔法“(アグニ)”<グロウ・アストレアレーザー>


 大理石を突き破って生えた黄金の華から、特大サイズの黄金化光線が放たれる。それに対抗するように、宇宙色の破壊光線が黄金を迎え撃つ。

 両者の光は拮抗。だがそれも、ニフラクトゥがわざわざ力を抑えてやっているからに他ならない。レオードの全力を見たいが為に、全てを出し切らせ、その上で彼の全てを捩じ伏せる為に。

 不本意だが、レオードはその強者の余裕に賭ける。

 殺せばせずとも、行動不能にできればレオードの勝ち。全てがリセットされるなら、殺さず動きを止めて、永遠に動けなくすればいい。


 不殺の勝利───要は、“封印”にこそ勝ち目がある。


「強すぎるヤツは排斥される。生憎、あの魔法少女共は、お互いで支え合って生きてけるだろうが……オマエは孤独でしかねェ。尻尾振る弱者共と、お行儀のいい強者しか、お前の周りにはいない。だから」

「こうなるんだよ」


───黄金魔法<ミダス・エル・ドラード>


 今まで以上に輝く黄金色の煌めきが、玉座の間を一瞬で染め上げる。拮抗し合っていた破壊光線も、更なる黄金によって固形となり、床に落ちて。天井のシャンデリアも、大理石も、肖像画も、燭台も、柱も、全てが黄金に。

 コルボーはフェリスの肩を鳥脚で掴み、飛んで避難。

 濁流といった流動体の黄金ではなく、“光”の形で世界に解き放たれる。


「これは…」


 その輝きは、障壁で防げるモノではなく。ラピス謹製の黄金化対策を施した呪符を、身体に直接貼り付けていればどうにか防げる、その規模の呪い。

 フェリスとコルボーも黄金に晒されるが、問題はない。

 ニフラクトゥも、光の奔流に逆らうことはできずに……黄金が支配する。


 指から腕へ、胴も足も、その頭も、髪の一本一本、己の周囲に漂わせた暗黒星雲に至る、ニフラクトゥを構成する全てが黄金に染まっていく。

 筋繊維の一つ一つ、細胞の一つ一つが、黄金に。

 精神の芯まで───殺すことなく、時が止まった世界に取り残されたかのように。


 死ではなく、終わりではなく。故に、復活には至らない封印の光。


「……」


 一瞬にして、ニフラクトゥの黄金像ができあがった。


 あまりにも精巧な、それが生身の異星人であると誰かに知らされなければ気付けない程、完璧な黄金像。質感も、匂いも、全てが黄金そのもの。

 躍動感のある唯一無二の完全な黄金像。

 黄金に封印されたニフラクトゥ。もう、彼には挽回する手段はない。一度黄金像になってしまえば、もうそこから復活する手段はない。


 本来ならば。


「…チッ……」


 黄金像に仕立て上げたレオードは、一切満足せず。


 その反応に応えるこのように、ニフラクトゥの黄金が、僅かに震え始め。

 パキパキと、小さな音が鳴り響き……

 ヒビ割れが、全身に生じ始める。

 不壊の黄金像。絶対に壊れない、対象を封印する手段にするには最適解である筈の、それが。徐々に、破壊される兆候が全員の目に映る、

 絶句するフェリスとコルボーを他所に、レオードはまた破壊光線を放つ、が。


 その光線を、黄金を突き破った右手が受け止めた。


「───残念だったな。言ったであろう。我が玉体、像にするには力が足りん」


 パラパラと落ちる黄金の破片。ニフラクトゥは、黄金化などモノともしない。やるのであれば、魂の髄まで黄金に染め上げなければ、彼には効かない。

 改めてその脅威度を、遥か天上の異質を垣間見ながら。

 呆れ顔のレオードは面倒臭そうに溜息を吐き、髪の毛をガシガシと掻く。


「ヤになるよな、マジで……んまぁ、こんなんでも想定の範囲内だ。気張ってこうぜ」

「やっぱバケモノでしたねぇ。怖い怖い」

「んー、魔法少女も同じことできそう」

「ムーンラピスだけでしょそれ。絶対言わないで下さいよ御本人には。絶対に」

「呑気に喋ってんじゃねェ」


 配下と一緒に皇帝の異常性に心からドン引きしながら、もう一度気合いを引き締める。

 やはり、封印という手段は望めない。

 殺し尽くすしかない。ならば、戦い続ける以外に、もう選択肢はない。


「降伏するか?」

「んなわけねェだろ、バカが……楽しもうぜ?人生最後の殺し合いをよォ!」

「ふっ」


 戦いは楽しむモノ。

 命の奪い合いは日常茶飯事。最大限に楽しむのが、この世界の当たり前。


 残り31,193回。戦いの果ては、まだ見えそうにない。


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― 新着の感想 ―
三万回以上の復活回数だが、最終頭目ではない(200話の紹介)そして最終頭目である「蒼月」はどの程度だろうか(笑 また、前の30秒以内に3回殺して計算すると、普通の方法でクリアした場合、完全に殺すまで…
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