309-雷鳴轟く天上のアヌ
───シニスター分子雲領域。
そもそも、“極黒恒星”はニフラクトゥの星を司る魔法によって生まれた人工恒星だ。その領域の全ても、彼が有す星の魔法によって創り出されたモノ。
箱庭と言ってもいい。
皇帝の領地として造られた箱庭の中で、このシニスター分子雲領域は少しだけ異質な空間となっている。
地面などはなく、霞がかった星雲が漂っているだけ。
凄まじいまでの低音で、並大抵の生命体は活動できない死の環境であり、本来ならば星が生まれる空間であるにも関わらず、その予兆が一切ない、時の動かない異界。
足の踏み場などなく、飛べなければ話にならない異音が鳴り響く異界。誰も立ち寄らない、近付こうとしない……それだというのに、皇帝はこの領域を破壊しない。あって当然とでもいうように、破壊することなく、六百年以上も恒星内異空間に残している。
それは、何故か。
「儂の領域じゃからじゃ!」
将星最強───“天魚雷神”、アルフェル・トレーミーの領地、“宮”の代わりであるから。
自らの惑星を持たない彼は、この空間を領域と言い張り統治のとの字から掛け離れた将星生活を送っていた。
そも、彼の役目は“星喰い”に次ぐ最強であること。
王域防衛の最高戦力、侵略戦争の最終兵器。
後方で座して待ち、敵惑星にトドメを刺す天雷の裁定者である。
「最強たる儂の相手をするんじゃ。生半可な強さでは話にならんぞ?」
雷鳴轟く戦場で、見定めるように相手を睨みつける。
「知らねぇよんなこと。もっとワクワクさせるようなこと言ってくれや。ピロートーク下手か?」
「どうでもいいのです!」
暗黒銀河随一と豪語するその美貌、スキンケアもせずに千年以上前から維持しているアルフェルの顔ばせに見つめられているのは、2人の魔法少女。
魔法少女の戦争屋、“戦車”のカドックバンカー。
魔法少女の運び手、“汽笛”のゴーゴーピッド。
地球史で見れば歴戦の古英雄であるカドックも、流石にアルフェルの前では赤子に過ぎない。二千年の終わらない乱世で戦いに明け暮れる怪物を、若輩者がどうこうできる筈もない。
だが、彼の相手は魔法少女。
討伐不可能とされていた“暴食婦人”と、相討ちという形ながらも勝ってみせたカドック。周囲の生き物の生存本能を歪め、自死を促す“気狂いヘアー”を轢き殺したピッド。悪夢の住人という、宇宙規模で見ても上澄み以上の怪物と渡り合ってきた魔法少女は、最強相手に臆すことはない。
自分たちが捨て駒にも等しい時間稼ぎ要員であることを受け入れながら、それならばと、精一杯“自分”が楽しめるように戦いを挑む。相手のことなど考えず、自分が、自分たちが気持ちよくなれれば、それで。
素直に口を開けば怒鳴られるようなことを内心宣って、2人は吶喊。
「オレらは繋ぎだがな」
「易々と負けをあげるほど、弱くなんてないのです!」
「カカッ、よく吠える。だが、そうでなくては……此方も楽しめんからのぉ!!」
「ッ!?」
───天雷魔法<ケラウノス>
笑いながらアルフェルが指を天に掲げると、カドックの頭上に黄金の特大閃光が突き刺さる。全身を劈く天雷が、彼女の身体を焼き焦がし、痺れ、ズタズタに引き裂く。
本来ならば致命傷の一撃。避けきれない雷撃。
加えて、魔力の繋がりをバラバラにする特性を宿した、魔法殺しの雷。その力は、魔力で身体を動かすカドック、否、彼女の同類である六花全員にとって脅威である。
だが既に、その天雷の特性は共有知識としてラピスから伝達されている。
「カハッ……クッ、ククッ……成程、なぁ。魔力で生きる俺らにとっちゃ、劇薬にも等しいじゃねぇの…」
「平然と立ち上がるか。対策が練るのが早いのぉ」
プスプスと黒煙を上げながら立ち上がったカドックは、軍帽を深く被り直して敵を見据える。眼帯をつけていない赤色の瞳は、余裕を崩さぬ美貌を捉えて逃さない。
ラピス考案の天雷対策。それは、至って単純な方法。
炉心である心臓。そこに、乱された魔力の流れ、繋がり全てを再接続する魔導具を埋め込んだだけ。十字架の形の杭は、鼓動しない形だけの臓器を媒介に、復活魔法少女の歩みを止めさせない。普段は魔力を発していないが、雷に体内魔力を刺激された途端自動的に発動して、十字架から魔力の乱れを制御する通信が送られる。乱れていた魔力は通信に従って整列し、繋がり直し、元に戻る。
魔力電力両方に作用する特殊な絶縁帯。文字魔法により属性を植え付けられた部品で守られた十字架は、カドックたちをアルフェルの雷撃から守り通す。
その根幹まではわからずとも、何らかの対策をしてきたことをアルフェルは認めて、そうこなくてはと愉快そうに笑う。
「じゃが、そんな作用などオマケにすぎん。それぐらい、お主らとてわかっておろう?」
「そりゃそうだろ。でもよ、そのオマケをまんまと無効化されちまったことをまず反省しろよ。どっちにしろテメェの力なんだからよ。嘆かわしいことこの上ねェだろ」
「そうじゃな〜。ムーンラピスに情報を与えたのは軽率であったか」
軽口を叩き合いながら、カドックとアルフェルは同時に飛び出す。
「兵仗魔法ッ」
「天雷魔法!」
焼き焦げた鉄の雨が吹き荒び、裁きの天雷が迎え撃つ。幾重にも別れた雷光が、弾丸一つ一つを纏めて包み込んで破壊する。無論、それだけでは終わらず、雷光は戦争屋を呑み込まんと迫り来る、が。
その軌道を邪魔するように、列車が差し込まれる。
「む!」
「バチバチはヤなのです!」
止まらないピッドの列車が雷光を遮り、そのまま線路を頼りに旋回。加速をつけて、アルフェルを横殴りにせんと突き進む。
「そのような見え見えな攻撃、回避するまでもないわ!」
───天雷魔法<サマカー・レーヴァティ>
好戦的に笑いながら、傷一つない華奢な手を伸ばして、掌から指向性を持った天雷を解き放つ。その天雷は“鯉”のような形状をしており、列車の正面に着弾する寸前、口を大きく開けるように開いて、加速する列車を呑み込んだ。
貫くのではなく、広がって、包み込むように。
魚型の雷に包み込まれた列車は、圧縮されるかのように雷の中で形を歪め、異音を奏でながらぐしゃりと粉砕……魔法由来だった為か、そのまま魔力の粒子となってこの世から消滅した。
「わぁ!」
「成程なァ……形状変化も自由自在。やっぱ、魔法は魔法だな」
意図も容易く、塵も残さずに消え去った列車にピッドは感嘆とした声を上げ、カドックは冷静に分析しながら次の魔法を行使せんと魔法陣を展開。
視界を掠める鬱陶しい星雲ごと、全て吹き飛ばさんと。
───兵仗魔法<デストロイ・ボンバー>
魔力を込めた手榴弾を数個放り投げ、天雷が当たるより速く起爆させる。周囲の星雲を吹き飛ばし、爆炎が3人の視界を一旦遮って……
その隙に、魔法少女たちは新たに魔法を構築。
声を張り上げ、将星最強に一矢報いんと、各々の得意で責め立てる。
「ウラァ!!」
「ヤぁっ!!」
───兵仗魔法<ディザスター・クラッション>
───列車魔法<ミュータント・トレイン>
戦闘機を複数機呼び出し、暴走機関車を複数作り上げ、爆炎の向こう側に突撃させる。当たれば爆発、辺り一帯が更なる爆撃によって吹き飛ぶであろう二撃。
質量攻撃も加味した二つの魔法に、アルフェルは。
「バカの一つ覚え」
冷徹に、自分目掛けて正確に突っ込んでくる兵器群に、裁きの天雷を落とす。
───天雷魔法<アダドバウル>
それは、彼を中心に放たれる超強力な雷撃。扇状に前へ出力された神の雷は、戦闘機も暴走機関車も、一切合切を容赦なく粉砕する。
あっという間に粉微塵。宙に浮かんだ破片も砕け散る。
戦闘機に詰め込まれていた火薬は雷火に誘爆し、相手に辿り着く前に爆散した。
そして。
「同じことを何度も繰り返すでないわ。児戯が過ぎるぞ、魔法少女ッッ!!」
新たに生まれた煙の壁を飛び越え、魔法少女の首を直接取らんと拳を構える、が……
攻撃の手が、一瞬止まる。
耳に届き、視界に過ぎった───自分のモノではない、青い輝きを宿す雷光の、到来に。
「雷魔法───<ライジング・ボルト>ッ!!」
青雷を纏ったカドックが、爆煙を突き破ってアルフェルまで突っ込み、雷速をもって蹴りを叩き込む。その速さに慣れているアルフェルは容易く目で追い、既に構えていた拳を上に持ち上げる形で防御する。
ただ、その目は驚きの色に染まっている。
雷魔法を扱えることは戦闘開始時点で既に知っている。だが、ここまでの練度とは思ってもいなかった。雷魔法を持っているからといって、その速度に身体が追いつくのか否かは別問題である。
歪魔法然り、黒堊の魔法然り、闘神魔法然り。
魔法は時に、持ち主にさえダメージを与える。魔法持ちだからといって、その魔法に耐性を持てるからといって、制御できるかどうかは別問題だ。
だからこそ、アルフェルは驚くのだ。
ムーンラピス然り、リブラ然り。後から手に入れた力に振り回さらず、完璧に制御できていることに。目の前の、魔法少女も含めて。
「チッ、防ぐなや」
「無茶言うのぉ……して、お主。カドックよ。その魔法、随分と身体に馴染んでおるようじゃが……聞くが、さては親族か身近な誰かの魔法かの?」
「おん?なんでそう思うんだよ?」
「疑問に思ったまでじゃ。お主はあの二人と違い、特別な力は持っとらん。並の戦士と同じもんじゃ」
「ド直球に言うじゃねぇか。否定はしねぇけど、よ!」
「っと!とはいえ、その雷……本当に、最早お主の半身と言ってもいいぐらいには馴染んどる。聞いた限り、後から植え付けられたモノにも関わらず。故に聞いたんじゃよ。あるとすれば、血縁の繋がりが最王手じゃからのぉ」
「ほーん」
雷速で殴り合いながらの与太話。既に目が追いつかず、蚊帳の外にいるゴーゴーピッドを無視して、アルフェルは思考を巡らし口を開く。
その推測を聞いて、カドックは面白そうに笑う。
なにせ、ある意味褒められたようなものだ。
妹の魔法───“雷精”のオルドドンナの力を受け継ぎ、自分のモノにした。元は、仇を討つ為のモノだったが……馴染んでいるのは、そりゃそうだ。
一度は離れ離れになり、魔法少女になってからもう一度姉妹をやれた、今も残っているその証。
ある意味、認められたと思える。
そんな本音は口に出さず、挑発気味な笑みを浮かべて、カドックは告げる。
相手の記憶に刻み込むように、これから、これでもかと見せつけてやる、雷の名を。
「魔法少女、“雷精”のオルドドンナ……それが、テメェの最強伝説にケチをつける女の、雷の名だァ!!」
「いい名じゃな。覚えておこう。お主の名と共に!!」
───雷魔法<サンダーバード・ストライク>
───天雷魔法<サマカー・レーヴァティ>
雷鳥と雷魚が激突し、衝撃波を伴って……拮抗する。
「ぬぅ!?」
そう、天雷という上位互換に、オルドドンナの雷魔法が対抗できている。
魔法には互換性がある。より上の力が当然押し勝つ。
属性系の魔法はその範疇にあり、雷魔法は中心の基礎、天雷魔法は威力と範囲をより高めた完全上位互換であると言っても過言ではない。
勿論、一概にこれが上!と断言出来る程、魔法の世界は狭くないのだが……
オルドドンナの雷魔法は、明らかに天雷よりも下だ。
それはカドックが一番わかっている。一番は年季の差にあるが、天雷魔法の方が明らかに威力が高く、副次効果も含めて格上だ。何度も妹の雷撃を浴びてきた姉だからこそわかる、明確な違い。
押し負けず、打ち払われず。
雷鳴轟く宙の戦場に、カドックの咆哮と、アルフェルの笑い声が響く。
「いいのぉ!楽しいのぉ!雷対決なんぞ、何年振りじゃ!クフフ、ほおれ、もっと爺を楽しませよ!!」
「血の気が多いジジイだなァ!!」
───天雷魔法<アダドバウル>
───雷魔法<ジェノサイド・スパーク>
二つの特大雷砲が正面衝突し、その余波が周囲の星雲に干渉して掻き乱す。魔法陣から常時放たれ、互いに一歩も譲らず拮抗状態維持する二つの魔法。
その隣で、雷光に身体を痺れさせながらも、二人は拳を交える。
雷光を纏った殴り合いは、終始アルフェルが優勢だ。
「ガッ、ァ!」
「それ!ハハッ、簡単にくたばってくれるなよ、カドックバンカーッ!!」
「チィ!」
顎を打ち抜いた掌底に怯むが、歯を食いしばって意識が飛びそうなのを耐える。
速度も威力もアルフェルの方が上。
銃火器の超火力も、天雷が全て正面から砕いてしまう。兵仗魔法も雷魔法も……アルフェル・トレーミーに、深く届かない。
「む?そういえば、もう一人の小娘は…」
意識の蚊帳の外に追いやられていた魔法少女、ピッドの存在を漸く思い出したアルフェルは、カドックの鳩尾へと蹴りを叩き込んでから周囲を探ろうとするが……
それよりも早く、不屈のカドックが飛びかかる。
「おいおい、オレを見てくれよ、なァ!
───雷魔法ッ!!<ヴォーフドンナー>ッ!!!」
「ぬ?」
カドックは全身に青い稲妻を纏って……その身を、眩い青色に染め上げていき。
軍服が、肉体が、全てが───雷電に成り代わる。
人の形を保ったまま、生きた雷となって。アルフェルに咆哮する。
「なんと!?」
「踊ろうぜェ、雷神!!」
「クフフ、これは驚いた!よもや、その身を雷に。精神が霧散しても知らんぞ?」
「安心しろ。妹は毎日やってた」
「ワオ」
生きる雷となったカドックに、アルフェルは触れない。物理的に触ろうにも、雷使いであろうにも……カドックという存在が触れることを許さない。
拳は当たらず、身体が痺れて動きが阻害されるだけ。
唯一効くのは天雷魔法の一撃のみ。天雷が身体の青雷を穿ち、組成をズタズタに引き裂こうとするが……そこから先への死には届かない。
笑って、嗤って、速度を上げて。
カドックバンカーの猛攻を、アルフェルは避けることができない。
「まだまだァ!」
───雷魔法<ヴォーフドンナー・ビーストモード>
そして、カドックを象る青雷は形を変え……狼のような四足歩行の獣となる。
正に雷獣。咆哮を轟かせたカドックは、人型の時よりも遥かに速いスピードで爪撃を放ち、牙を剥いて将星最強の命を狙う。
「多芸じゃな!クフッ、成程のぉ!儂の天雷にはない力。汎用性はそちらの方が高そうじゃな!!」
「呑気に笑ってんじゃねェよ!!」
「だってのぉ?」
雷獣となったカドックの凄まじい猛攻も、アルフェルは涼しい顔で軽くいなす。
怪物は、未だ無傷。
ここまで殴り合っているのにも関わらず───その身に傷は一つもない。その事実がカドックに苦渋を飲ませる。ムカついて、苛立ちながらも冷静に、アルフェルへ雷撃を食らわせるが……
敵は、不動。
「そろそろ終わりでいいかの?」
「ナメんじゃねェよ───まだまだ、これからァ!黙って付き合えッッ!!」
余裕を崩さぬアルフェルに、負けてたまるかと青き雷は唸り声を上げて。
最大出力。全身全霊をもって、雷光を宙に轟かせる。
「宇宙最強?知ったことか!!
いいか!!こっちにあんのは───地球最強の!!雷様なんだからよォ!!」
───雷魔法<ラストスパーク>
雷の輝きが極点を迎え。
アルフェルの目ですら直視することができない、青色の稲妻がシニスター分子雲領域を掻き乱す。轟々と響き渡る雷鳴は、鳴り止まることなく星雲を引き裂き続け……
“雷精”のオルドドンナ。彼女最大の雷光が形となり。
凄まじい青雷を轟かせたカドックは、雷狼の形状のまま天魚に襲いかかる。
その速度は、過去最速───たった一度のみ、“雷神”を凌駕する。
「───ッ!?」
一条の雷閃が、アルフェルの首を掠める。本能で横へと逸れたお陰で、その程度で済んだが……首の切れ目から、大量の鮮血がドパッと溢れ出た。
頸動脈を狙った、殺意マシマシの突撃。
狼腕を振るったその一撃は、本来ならば致命傷の雷傷を与える。
「ほぉ!やるではないか!!」
「感心すんにはまだ速ぇなァ───今だ!!やれェッ!!ゴーゴーピッドォ!!」
「ッ!」
狼から人へ、雷化も解けて元に戻ったカドックが、声を張り上げて叫べば。
凄まじい魔力の圧に、アルフェルは漸く気付く。
今まで、カドックの雷光に阻害されて気付けなかった、その殺意に。
徐ろに視界を下方に向けた、その先に───白金色の、機械兵器が浮いていた。
超巨大砲塔を有する───カドック最強の破壊兵器。
外界に露出した搭乗席に、彼女は。兵仗魔法を一時的に使えるように、ムーンラピスの“契約魔法”で共有させた、魔法少女。ゴーゴーピッドが、その瞳に闘志を燃やす。
今の彼女は、カドックバンカーの魔法が使える。
この一時だけ。アルフェルの気を逸らしている間、この超兵器を造る為だけに。カドックの代わりに、破壊兵器を起動する為に。
「代行なのです!!」
列車が効かない?
雷速に追いつけない?
そんな弱音を吐いている暇など、余裕など。歩み続ける魔法少女にはないのだ。
「兵仗魔法───<ギガント・ウォー・マキーナ>!!」
声高らかに、隠密行動を成し遂げたピッドが、ボタンを押す。
照準は定められた。
首元を抑えたアルフェル目掛けて───惑星破壊規模の光束レーザーが放たれる。その速度は凄まじく、雷よりは劣るものの、将星でも避けきれない代物で。
ここで初めて、アルフェルの瞳に焦りが宿る。
直撃すれば重傷は免れない。否、重傷で済めば御の字の超火力。
「ッ、いかん!!」
老戦士の余裕と止血目的で静観していたが、この攻撃を浴びてはいけないと雷速で回避を選ぶ、が。
その行く手を、カドックが羽交い締めにして防ぐ。
「おっ!?」
「行かせねェよ!オレと仲良く、一乙しようぜ!!」
「イヤじゃ!」
力で振り解こうにも、天雷で吹き飛ばそうにも、胴体に絡みついたカドックは馬鹿力を振り絞る。
逃がしはしない。自分諸共、撃ち抜かせる。
力強い意思をその目に宿して、悲鳴を上げる身体も心も無視をして。
天を穿つ光束レーザーが、二つの雷光を呑み込んだ。
「ガァッ───!?」
「ぐぅっ、なんの……これ、しきィ!!ナメるでないぞ、最強をッ!!」
見縊るなと。そう啖呵を切ったまま、アルフェルたちの重なった影は光に呑まれ……
シニスター分子雲領域に、大きな穴が開く。
集合していた星雲が吹き飛ばされ、ドーナツ状の大穴が異界を貫いて。
五秒、十秒と……照射され続けた魔光が、収まると。
破壊光線が過ぎ去った座標に───五体満足の怪物が、浮かんでいた。
「ッ…」
魔力切れにより自壊していく、一回限りの兵器が粒子となって消えていく。その斬新を足蹴に立つピッドは、目を大きく見開いて、絶句する。
立ち上がることは想定していた。
相手は将星最強。カドックの最大火力を浴びても勝ちが見えない相手であることは、わかっていた。わかっていた筈なのに。
ボロボロの、黒焦げのカドックを片手で掴んで……
少し煤けただけのアルフェルが、なんてことないように睥睨していた。
「惜しかったのぉ……誇って良いぞ。あの攻撃、少しでも防御が間に合わなければ、さしもの儂も致命傷……いや、死んでたかもしれんのぉ!」
「ほぼ無傷で、その言い様です?」
「身動きは取れんかったが、体表面に障壁を貼るぐらいはできるぞ?」
二人のミスは主に二つ。
魔力が心許ないからと、物理的な妨害だけで逃げるのを阻止しようとしたこと。そして───アルフェルが好んで扱う障壁が、魔法効果の“中和”に焦点を当てていることを知らなかったこと。
幾らその力が強かろうと、中和によってダメージを軽減できればそれでいい。
魔法少女たちがよく使う、受け止める、受け流すなどの防御のやり方とは違う。その違いを知らなかったことが、彼女たちの失敗。
ダメージが無いわけではない。
身体は痛いし、正直、カドックを抱えてやっているのも彼女の力への敬意と、ここまで自分に見せつけてみせた、その誉れを称えてのこと。
「……おい…、いつまで掴んでやがる…」
ケラケラと快活に笑うアルフェルを遮るように、片手で軍服の首根っこを掴まれた、宙ぶらりんのカドックが殺意塗れの目で睨み上げる。
どうやら気絶していなかったらしい。
アルフェルという肉壁があったとはいえ、そして、元は自分の魔法であったとはいえ。意識を保ったまま焼かれる経験は二度としたくない。そう内心愚痴を零すカドックに元気じゃなと軽く笑いながら、アルフェルは要望通りその手を離す。
「その気力、いつまで持つことやら」
空中に放り出されたカドックは、くるりと回転しながらピッドの傍へ。
「死ぬかと思った」
「もう死んでるのです」
「一本取られたわ……さて、改めて相手の強さを測れたっちゅーことで」
天上に浮かぶ強敵を見上げながら、傷だらけの、希望の戦士たちは笑う。
かつては託した。今回は、託された。
その意味を感慨深げに噛み締める2人には、心が折れる心配など不要。必要なのは、その時までに場を繋げ、この怪物を移動させない為の、維持。
痛かろうか、辛かろうが。
やることは単純なのだ。
「轢き潰そうぜ、一緒に」
「はいなのです!」
「くふっ、やる気満々じゃのぉ……どれ、少しスパートをかけるかの」
勝ち気に笑って、挑発気味な笑みに中指を立てて。
苦境に立った魔法少女たちの、挑戦も似た戦いの後幕が開かれた。




