第31話 因果、断つ
本物の答えが出た瞬間、天地が静まる。
八本の白燭が、同じ刹那に一斉に消える。
闇が轟と落ち、轟と炸ける——裂け目だらけの古い銅鏡が、長い、嘆息のような唸りを上げ、鏡の門が大きく開く。緑の螢光が鏡から溢れ、水のようで、火のようで、夏の夜の野原で何千何万の蛍が同時に飛び立つみたいだ。
「違う——!!」
桑婆が凄まじい叫びを上げる。
「間違えた! 答えが違う——因果が、断たれた!」
緑の光が陣の中央で旋回し、凝り、それから、二つに分かれる。
一筋の緑が、陣の中の涙で濡れた顔を包む。光の通るところ、皮肉の下で無数の細かなものが目覚め、帰位する——神楽檀の眉目、神楽檀の骨、神楽檀の二十六年、一寸ごとの光陰だ。緑は優しく、拒めず、本体へ沈んでいく。帰り人が故郷の川へ沈むみたいだ。
皮は旧主を覚える。
覚えるのは皮ではない。人心だ。
もう一筋の緑は、見えない影を巻き上げる——凄まじく、未練に抗い——まっすぐに香月潤の膝前の黒い漆の木箱へ投じる。箱の中、紅い紐に巻かれた一寸の元の皮が轟と自ら燃え、幽かな緑の火が上がる。
「ああ————!!」
火の中から、香月潤の、胸を裂く悲鳴が来る。
緑の焰がますます旺くなり、その一寸の元の皮を引きに、朱砂の陣の縁で編み直し、形を戻す——骨、血肉、皮、一寸ずつ成る。しばらくして、焰が消えた場所に、裸の影が縮こまっている。端正な顔、痩せた肩、「香月潤」の、三ヶ月ぶりの顔だ。
彼女の殻が、その一寸の引きから、因果に返された。
「門を——破れ——!」
稲垣剛の怒号が夜を裂く。轟と一声、院の門が撞かれ、実弾を込めた警官が潮のように入る。懐中電灯の光が庭を交錯して掃く。消えた八本の白燭、亀裂の銅鏡、陣の縁に崩れ、塊になって震える黒衣の老女、灰の傍に縮こまり、頭を抱えて呟く見知らぬ女。
「助けて……」
香月潤は、自分の顔を上げ、涙が横に流れる。
「香月潤です……私は、香月潤です……」
「手錠を。」
朱砂の陣の中央、跪いて座っていた影が、ゆっくり、ゆっくり、鏡に貼った左手を下ろす。
「姉さん……」
門の口、神楽湊は砕かれた板の脇に立ち、前へ出られない。
その背を見て、涙が顔をぐちゃぐちゃにする。似ている。似すぎている——だが「似ている」に一度、騙された。怖い。
その影が、ゆっくり振り返る。
燭は消えている。警官のライトだけが顔に落ちる。顔色は紙のように白く、鬢は乱れ、みっともない。だが彼を見る目——十九年、おむつが外れたころから、自分より高くなるまで見てきた、あの目だ。
「この臭い小僧。」
口を開き、声は嗄れてほとんど聞こえない。だが口角は曲がる。
「泣くことないだろう。」
神楽湊が全身を震わせ、それでもその場で震えている。
彼女は手を伸ばし、掌を開く——掌が上、五指が開く。姉弟の、小さいころからの約束だ。試験に落ちたら手を出す。いじめられたら手を出す。両親が逝ったとき、十三歳の彼は、この掌に顔を埋めて一晩、泣いた。
「熱い。」
神楽檀は低く言う。
「触って。」
少年の涙が堤を切る。よろよろ駆け寄り、その手を掴む——温かく、力があり、生きている。
「姉さん——!!」
十九歳の大男が地に跪き、顔を掌に埋め、三歳の子みたいに泣く。
「姉さん……毎日、呼んだ……六十三日、呼んだ……聞こえたか……」
「聞こえた。」
神楽檀はもう片方の手で弟の頭を抱え、髪を一撫で、一撫でする。自分の涙も落ちる。
「一声ずつ、全部、聞こえた。」
塀の際、氷室硯は影の中に立ち、動かない。
燭の残り火の中のあの人を見る。弟を抱く姿を見る。蒼白い横顔に縦横の涙を見る——八年だ。討論の台上で万丈の光だった彼女、交渉卓で一寸も譲らなかった彼女、祭壇の写真で静かだった彼女、そして今、劫を生きて弟を抱いて泣く彼女。
一歩ずつ歩き、目の前に立つ。
神楽檀は顔を上げる。
四目が合う。千の言葉が喉に詰まり、出口に残ったのは一句だけだ。
「来てくれた。」
「来た。」
氷室硯はしゃがみ、視線を同じ高さにする。声がひどく嗄れる。
「すまない。六十三日、遅れた。」
真っ赤な目を見て、神楽檀はふと笑う。涙はまだ頬にある。
「遅くない。」
「ちょうど、間に合った。」
*
夜が明けるころ、パトカーが桑婆と香月潤を路地から出す。桐島陽は賃貸で同時に捕まり、園田健はケアセンターの執務室で、稲垣剛が自ら手錠をかける。
神楽檀は氷室硯の外套を羽織り、弟と並び、坂をゆっくり下りる。
東が白み、朝の光が雲の後ろから満ち、足元の、今目覚めた街に落ちる。川を渡る橋の車が密になり、都心のガラスが一棟ずつ点く。いちばん高い棟の頂に、「神楽グループ」の文字が朝日の中で光る。
あの位置を、六年、守った。
十六で母を失い、二十で父を失い、同年、神楽を継いだ。六年、取締役会の表の槍、商いの裏の矢、資金が切れた深夜、一人で書類にサインして夜を明かす未明——この街を、守った。そして過ぎた六十三日、自分の身体のいちばん底に閉じ込められ、誰かがそれを一把の火で焼こうとするのを、目を開けて見ていた。
「姉さん、」
神楽湊が視線の先を見る。
「何を見てる。」
神楽檀は目を戻し、弟の髪を揉む。
「私の街だ。」
言う。
「よかった。失ってない。」
朝の光が顔に落ちる。蒼白く、疲れている。だが初めて、完全に、徹底的に、自分のものだ。




