第29話 三問三答
城南、路地、桑婆の小さな庭。
夜が墨の潭のように深い。月はなく、星さえ厚い雲に呑まれ、塀に下がった白い紙の灯籠が二つ、風のない夜に微動だにせず点き、地面を惨白く照らす。
香月潤が門を跨いだとき、脚はまだ柔らかい。
「靴を脱げ。」
桑婆の声が庭から漂う。
「朱砂の陣を踏むなら、足の裏は地の気に触れろ。それと、身の金属は全部、外せ。門の前へ置け。」
言われた通り、耳輪、時計、指輪を外す。薬指の、神楽檀の指輪を外すとき、一瞬、躊躇う。
「これも、要りますか。」
「いちばん外せ。」
老人は頭も回さない。
「彼女の物を着けて陣へ入れば、門が開いた瞬間、最初に探すのはお前だ。」
身震いし、急いで指輪を抜き、敷居の脇の粗陶の碗へ置く。裸足で青レンガを踏む。十一月の寒さが足の裏から上がり、風の葉みたいに全身が震える。
庭は、もう別の顔をしている。青レンガの地面に、朱砂で巨大で複雑な陣が描かれ、線は蛇のようにうねり、灯籠の白光の中で暗い赤を帯びる。八つの方位に白い燭が一本ずつ立ち、火が明滅し、人影が幢々と映る。
陣の正中央に、裂けた古い銅鏡が置いてある。
「桑婆、」
声が漂う。
「銅鏡が、どうして……」
「封魂は、彼女が覚える門を使う。」
桑婆は一身、黒。陣の縁に立ち、黒い漆の木箱を捧げる。
「この鏡は、あの家の三代を照らした。魂が、覚えている。」
箱を渡す。
「開け。」
震える手で蓋を開ける。中に暗い赤の絨が敷かれ、その上に、小さな一切れが静かに横たわっている——赤い紐が幾重にも巻かれ、色は沈み、風で乾いた革のようだ。
胃が、ひっくり返る。
自分の物だ。換面の日に切り取った、「香月潤」の一寸の元の皮。桑婆が言った。換皮は引きを残す、因果は根を残す——この身体との、唯一で、いちばん深い繋がりだ。
「それを持って、陣へ座れ。」
銅鏡の前の蒲団を指す。
「覚えろ。子の刻の三刻が来たら、婆が問い、お前が答える。三問三答、答えを間違えれば——」
濁った目が彼女を射る。
「魂が殻を離れる。婆も、引き戻せない。」
唾を呑み、箱を捧げ、一歩ずつ朱砂の陣へ入り、銅鏡の前に座る。
八本の白燭の火が、同時に揺れる。
桑婆は陣をゆっくり一周し、痩せた指が八つの火を一つずつ撫で、口の中で何かを唱える。歩き終え、陣の外に立ち、最後にもう一度、言い含める。
「婆が決まりを最後に一遍、言う。一字一字、死ぬまで覚えろ。」
「三問三答、問うのは同じ一句だ——お前は誰だ。魂に問う。人に問うのではない。肉は彼女の皮を被っている。魂はお前自身だ。陣の中で魂が話すのは、本当のことだ。」
「だから、魂より先に答えろ。三声、『神楽檀』。一声ずつ、噛み殺せ。三問が満ちれば、因果は続く——彼女の魂が『道がない』と認め、自ら鏡へ沈み、永劫、往生しない。」
「覚えろ。何を聴いても、何を見ても、胸がどれだけ痛くても、止まるな。」
燭の中、目が恐ろしく明るい。
「陣が破れ、灯が消え、答えが半分なら——お前の魂が、彼女の魂の代わりに、あの鏡へ入る。」
香月潤の顔から、血の色が一糸もない。
「止まりません……止まりません。」
「そうであれ。」
桑婆は意味の読めない二字を吐き、傍で温めていた粗陶の碗を上げる。
「第一問の前に、蠱酒を飲め。」
碗の中は半碗、深い褐色の液体。腥く苦い匂いが鼻を衝く。
目を閉じて飲み干す。酒が入ると、火の蛇を呑んだみたいに、五臓六腑が縮む。続いて、奇妙な麻痺が四肢から満ちる——身体が遠くなり、一層の水を隔てるみたいだ。
「刻だ。」
桑婆の声が、いきなり変わる。路地の老女の嗄れではなく、低く、緩く、一字ずつ、地の底から上がってくるみたいに、小さな庭に低く響く。
「一問——お前は誰だ。」
香月潤は口を開ける。
答えは、何度も暗記した。三問三答、答えるのは全部「神楽檀」——儀式でこの名を何度も噛み殺せば、この名の因果は徹底的に自分のものになり、本当の主人は永劫、身を翻せない。
「私は……」
その瞬間、異変が突然起きる。
心臓の奥、二日沈んでいた闇の中に、いきなり一対の目が点く。劇痛が轟と炸け、これまでのどれより凶い——だが今回、痛みの中に、はっきりした、拒めない意志が包まれている。
声が、胸の全部で炸ける。
「よくも。」
喉が見えない手に締められる。「私は」の二字のあと、死ぬほど、空しく口を開けても、あの名が吐けない。
身体が奪い合う。意志は「神楽檀」の三文字を吐き出そうとし、体内で目覚めた人間は、六十三日貯めた力の全部で、舌を死ぬほど押さえている。
「答えろ!」
桑婆が鋭く喝する。
「私……私は……」
歯ががちがち鳴り、二つの声が喉の中で裂ける。灯籠の惨白い光の中、顔が歪み、半分は自分の凶悪、半分に別の冷たい平静が浮かぶ。
「私は——神楽——」
もう少しで、成功するところだった。
そのとき、塀の外、夜の奥から、いきなり嗄れた叫びが届き、死んだような路地を裂く。
「姉さん——!!」
神楽湊の声だ。
少年の声は裂けている。だが全身の力を使い、波が波を超えて庭へ叩き込む。
「姉さん! 聞こえるか! 俺だ、湊だ!!」
陣の中の躯が、いきなり震える。
香月潤は、喉を扼していた「手」がいきなり緩むのを感じる——諦めではない。あの意志が向きを変え、その声を辿り、狂ったように押し寄せる。
溺れる人間が岸を見たみたいだ。
心臓の奥、彼女には聴こえない闇の中で、神楽檀の魂が弟の呼びかけを辿り、あの隔膜へ向かい、六十三日でいちばん決然とした衝突を始める。
八本の白燭の火が、揃って低くなる。
桑婆の顔色が、初めて変わる。




