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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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二日目_ルウとテオドラ

太陽が顔を隠し夜が始まった頃、一日の仕事を終えたマシューが鐘つき場から聖堂奥にある執務室に戻ってくると、そこには見慣れない光景が広がっていた。


「もう! さっきからなんなんですか貴方は!」


「なんだとは……眠たくなるアロマを焚いている」


「ぷる」


 なんだかよく分からないが、昼間に図書館で見た黒い神官とテオドラが言い争い? をしているらしい。普段温厚なテオドラが声を荒げるなんて珍しいと見ていれば、バンと机を叩いて立ち上がった。


「仕事してるんですよ!? 眠くしてどうするんですか!」


「最近夜眠れていないのであろう? クマがひどい。たまには休んだほうがいいぞ」


「ぷる」


 それは図星だ。テオドラが目のクマを化粧で隠しているのをマシューは知っている。どうやら初見であろう黒い神官も気づいていたらしい。人のことをよく見ている男だ。


 しかし、黒い神官が何かを言う度に、頭の上に乗った真っ黒い毛玉が鳴き声をあげて肯定しているのが面白い。正直ツボだ。マシューはお笑いが好きだった。


「……っ、まあ、それはそうですが……って毛布をかけるのを止めてください! 寝かせようとしないで!」


「チッ……見ろ。私の麗しい婚約者も休んだほうがいいと言っている」


「ぷるにゃん」


 婚約者ってどういうこと!? 全然意味がわからないが、小動物がルウの言葉を肯定するようにうんうんと小さな身体を一生懸命に動かしている。とても可愛らしいが、完全に揶揄われている。っていうかさっき絶対舌打ちしましたよね神官のくせに。


「そもそも休んでる暇なんてないんですよ!」


「だからといって無理に働くものではあるまい。お前はもっと神のお気に入りである自覚を持つべきだ」


「ぷる」


「その呼ばれ方、好きではありません」


 神のお気に入り、というのは、テオドラのあだ名みたいなものだ。テオドラの神官としての才能はずば抜けている。それに敬意を表して、民衆からそう呼ばれることがあった。最も、テオドラ自身はあまり好ましく思っていないらしいが。


 テオドラがトントンと指で机を叩いている。黒い神官の態度にイライラが隠せないらしい。本当に珍しい姿だ。


「仕事も溜まっているし、人も少ないんです。私がやらねば誰がやるんですか」


「では私が手伝ってやろう」


「へ?」


 これにはマシューも少しだけ驚いた。予想外の返答にテオドラが呆気に取られている間に、黒い神官が颯爽と書類を漁り始める。


「わー! それは個人情報! そっちは内部機密! お願いだから漁らないでッッ!」


「いいからいいから。遠慮するでない」


「遠慮じゃないです! そもそも貴方別の国の神官でしょう!?」


「そんな悲しいことを言うな。私たちは違う国に生まれはすれど、母なる創造主を崇める兄弟ではないか。つまりは全ての神に仕えていることに他ならないのだ」


「……っそれは……!」


 この国は大陸教会に加盟しており、黒い神官の服にも同じ六角形の紋が刺繍されている。神官としての立ち位置としては、確かに内部関係者に近いだろう。しかしここには政治的な資料も混ざっている。さすがに他国の神官に見せるわけにはいかない。


 流されそうになっていたテオドラがハッと我に返る。母なる創造主を崇める兄弟だから、なんてことは、守秘義務のある資料を見せる理由にはならない。


「もう出ていってください!」


「そう怒るでないよ。心の余裕が無いのであろう。温かいお茶でも飲んで……」


「ぷる」


 テオドラがグイグイと背中を押して、黒い神官を部屋から追い出した。バタンと大きな音がして扉が閉まれば、執務室に普段の静寂が戻って来る。


「はあ……これで仕事が進められます」


 ため息を吐きながら椅子に座り直すテオドラに続き腰を下ろす。書類に目を通しながら、マシューは横目でテオドラを見た。


 朝見た時より顔色が良くなっている。もしかしたらあの黒い神官とのやり取りは息抜きになったのかもしれない。


「なんか、大変な人が来ちゃいましたねぇ」


「……どうして嬉しそうなんですか、マシュー」


 ヴィゴールの後を継がなければならない事もあってか、テオドラは最近働き過ぎている。休息を取った方がいいというのはマシューも賛成だ。


 むくれるテオドラを尻目に、マシューは温かいお茶を入れに立ち上がった。

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