一日目_カティという青年
さて、テオドラがダメとくれば、次の神官を紹介してもらわねばなるまい。期待を込めた瞳で見れば、シャニは考えるように手を顎に添えた。
「この街にいる神官だと、後はヴィゴールなんだけど……」
「じゃあ、次はその人に……」
「ダメよ! ヴィゴールは庶民なんか相手にしないわ。それにテオドラ様が読めなかったものを、ヴィゴールが読めるわけない!」
憤りながら身を寄せて来たシャニに、驚いて身を引く。初対面なのに、距離感がすごく近い子だなあ。僕もシャニに似た所はあるけれど、今は完全に気圧されていた。
しかし、どうやらこの街にも色々あるらしい。ヴィゴールという神官に興味がないわけではないけれど、そもそも僕の相手をしてくれないのなら会いに行っても意味がない。
どうしようかと悩んでいたら、お腹が盛大にぐうと鳴った。僕のお腹って、本当に正直だよね。恥ずかしいなあなんて思いながら顔を上げれば、嬉しそうな顔のシャニと目が合った。
「お腹すいた? 広場の出店で何か食べましょうよ。今後のことについても相談しないと!」
「え? うん」
シャニって一体僕のなんなの? ちょっと親切が過剰すぎない? そう思ったが、有難いことには変わりない。腕を掴んで引っ張るシャニに、僕は黙ってついて行った。
露天商が並ぶ道を二人で歩いて行く。街の様子を興味深げに眺めながら歩いていたら、シャニがとうもろこしを吊るしているお店の前で足を止めた。
「こんにちはおじさん。味違いのケルバを4つちょうだい」
「おうシャニ。すぐ美味しいのを作るからちょっと待ってな。おいカティ! サボってないで手伝え!」
どうやらシャニの行きつけのお店らしい。店主であろう厳つい男が声を上げると、薄い黄色の髪色で、ソバカス顔の青年が後方からのっそりと出て来た。
「はいはい……分かったよ。そんな大声出さなくても聞こえてるって」
カティと呼ばれた青年が、熱した鉄板で器用に薄い生地を焼いている。焼き上がったら、それに肉や野菜を詰めて折り畳んだ。
どうやらこの国では、とうもろこしを練った薄いパンに野菜や肉を巻いて食べるのが主流らしい。調理風景を興味深げに眺めていたら、オマケに果物を搾ったジュースを付けてくれた。
「ほらお嬢さん方、できたぜ」
「わあ、ありがとう!」
紙袋に入ったそれを受け取れば、焼けた肉の良い匂いが鼻をくすぐる。早く食べたいなぁなんて呑気に思っていたら、シャニがズイと前に出た。
「カティ、あなた顔色が悪いわよ。また夜更かししてるの?」
「シャニ、世の中には君の知らない楽しいことがたくさんあるんだぜ」
「何言ってるの? 変な奴と連むのだけはやめなさいよね」
「へーへー、気をつけますよ」
カティがしっしと手を動かす。シャニはそれに呆れたような顔をした。どうやら二人は、気の置けない仲らしい。それが少しだけ羨ましいな、なんて思った。
ご飯を飲み食いしながら、シャニに街の中を案内してもらう。ちょっと行儀が悪いけれど、まるで友だちと遊んでいるようでなんだか楽しい。
「さっきのカティって人はシャニの友だち?」
「友だちっていうか……腐れ縁よ。幼なじみなの」
「仲良しなんだね」
「まあ、ね」
僕の言葉に、シャニがなんとも言えない顔をして頬を掻いた。少しだけ頬が赤くなっている気がする。
そんなたわいもない話をしながら街を散策していたら、シャニが広場の花壇のあたりを指差した。
「ねえマーヤ、あの人って神官じゃない?」
シャニの指刺す方を見れば、広場の椅子に特徴的な人物が座っている。
真っ黒なローブに、金縁の紋様が入った服を着ている。珍しい真っ白な髪の毛が陽光に反射してキラキラと輝いていた。昼食中らしい。僕たちと同じくケルバを食べながら、膝の上に猫にも兎にも見える不思議な小動物を乗せて、餌をやっている。
……あの人って、先日会った黒い人じゃない?
「黒い服を着ているけど、どうしてシャニは神官だって思ったの?」
神官の服は白い筈だ。どうしてみんなあの人が神官だと分かるんだろう。数日越しの疑問をシャニにぶつければ、シャニがキョトンと目を丸くした。
「黒なのはここら辺では確かに珍しいけど、別に色に決まりはない筈よ。それに、服に六角形の幾何学模様の紋がついていない? あれ、大陸教会所属の神官服だと思うけど」
「……なるほどね?」
神官服って、色の決まり無いんだ!? どうやら僕が無知なだけだったらしい。シャニの言葉にうんうん頷いていると、シャニが不思議そうな顔をした。どうやら常識だったっぽいね……。
「でも、この街の神官じゃないわ」
何処の人だろうと首を傾げるシャニの横で、急いでご飯を口に詰め込む。歩きながら鞄の中に手を突っ込んで、手紙を取り出した。正直手紙を読めるなら、何処の神官でも構わない。




