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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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エピローグ 旅立ち

 あれからしばらく経って、街の復興もそれなりに進んできていた。あの日くぐった大きな門の前で、旅用のリュックを背負い直す。空には晴天が広がっていて、雲一つない。絶好の旅立ち日和だろう。


「マーヤ、本当に行っちゃうの? ずっと住んでて良いのよ」


「ありがとうシャニ、でも、僕行くよ」


 この街で、知らないことをたくさん知った。今までもいろんな国を旅したけれど、僕は今まで表面しか見ていなかった。だから、今度はもっといろんなことが知りたい。


 シャニが髪を結んでいたリボンを解くと、長く美しい赤い髪がふわりと風に舞った。手に持ったリボンを、僕の髪に結んでくれる。


「小さい頃、カティに誕生日プレゼントでもらったの」


「え!? それは……!」


 もらえないよ。そう言おうとした僕の身体を、シャニがめいいっぱい抱きしめた。


「連れて行ってあげて。貴方の旅に」


「……うん」


 背に腕を回すと、柔らかい温もりに、心がギュッとなる。


 名残惜し気に離れれば、シャニが僕の顔を見て笑った。


「ふふ……マーヤったら、出会った時は私より小さかったのに」


「成長期なんだよ」


 愛の祝福を受けた僕の身体は、本来あるべき形に治ったらしい。僕の身長は、シャニより大きくなっていた。


「もし帰りたくなったら、いつでも帰っておいで」


「おじさん、ありがとう」


 優しい言葉に、胸がじんわりと温かくなる。一度は大事なものを全部失ってしまったけれど……みんなのおかげで、僕は立ち直ることが出来た。


 マシューとクロテアはお仕事があるから、昨日のうちにさよならを済ませている。今日のお見送りはシャニとおじさんだけだけど、やっぱり離れ難い。


 僕とシャニが名残惜し気に話している横で、黒い神官服を靡かせて、ルウが颯爽と歩いてくる。その後ろに、テオドラとヴィゴールが小走りでついて来ていた。(ちなみに、ぷぷるが頭の上でキメ顔をしていた)


 なんだろうと思って横目でそれを見ていると、人混みが開けた門の前で、立ち止まり二人に向き直る。


「ルウさん、なんですか用事って。私にも仕事が――」


「テオドラ、顔色が随分と良くなったな。元気になったか?」


 いきなりの質問に意表を突かれたのだろう。テオドラが目を丸くする。その後ヴィゴールを横目で見ると、複雑そうな顔でポリポリと頭を掻いた。


「え? まあ、おかげさまで……」


「ふふ、そうかそうか。元気になったか」


 テオドラの回答に満足そうに頷くと、ルウは腰にかけた分厚い本を取り出し、ペラペラとめくり出した。一体今度は何をする気なのだろうか。


 みんなが不思議そうに見守る中で、それは起こった。


「神ベスタウよ!」


 ルウの一言を起点に、突然風が巻き起こる。シャニの長い髪がぶわりと宙を舞い、驚いた人々が小さく悲鳴を上げた。


「貴方が私たちに託した願いは今果たされた! 故に、私たちに貴方の慈悲を与えたまえ!」


 まるでそれに応えるかのように、大きな美しい紋が三人の頭上に浮かび、光輝く。


「願うものは、プルンネル・ティスティスと!」


「ぷる!」


 ぷぷるがルウの肩の上で、ピッと小さな手を上げる。ルウはそれに小さく微笑むと、さらに空に向かって続けた。


「この私ルゥール・ヴィリーシャとの、婚姻の推薦状である!」


 その言葉の終わりに、風が一層強くなった。紋を中心に竜巻のように風が集まっていく。


 何が起こるのかと戦々恐々としていると……期待とは裏腹に、その勢いがフッと止まった。


 竜巻が止んだ後には、一枚の用紙だけが空に取り残されている。唖然として見上げていると、それがヒラリとルウの手元に舞い落ちていった。


 一体さっきのはなんだったんだろう。不思議そうに顔を見合わせるテオドラとヴィゴールを無視して、ぷぷるとルウがその紙に勢いよく顔を近づけた。上から下まで内容をじっくり読み込むと、しばらくして、二人は満足そうな顔で笑い合った。


「ぷるんねる……? もしかして、神獣プルンネル!?」


「はは……まあ、ただの獣ではないとは思っていたが……」


 驚いて尻餅をつくテオドラに、ヴィゴールが手を差し伸べて立ち上がらせた。そんな二人の前で、ルウとぷぷるがフフンと胸を張る。


「なんだ、気が付かなかったのか? 伝承そのものの美しい姿であろう。なあぷぷる」


「ぷる!」


「ああ、確かに言われてみれば……」


「ヴィゴール! 私を置いてこの男と仲良くするのはやめてください!」


「ええ……」


 謎の怒り方を見せるテオドラに、ヴィゴールが困っている。いつも人々の手本になるような振る舞いをするテオドラにも、子どもっぽい部分があるらしい。


「ははは、では、この街での用事も終わったので私はもう行く。世話になったな」


「神官ルウ、そしてプルンネル様。あなた方にお会いできたことを光栄に思います」


「神官ルウ、貴方が神ベスタウから受けた依頼は……聞かないことにします。プルンネル様も、少しの間でしたが、ありがとうございました」


 ルウが二人を背にして、颯爽と歩き出した。その姿を眺めていると、クルリと僕の方に向き直る。


「マーヤ、何をしている? 早く来なさい!」


「ええ!? 僕!? なんで?」


 突然名指しされて、驚いて飛び上がる。呼ばれた意味がわからずオロオロしていると、その反応にルウが不思議そうな顔をした。


「お前、私に手紙と硬貨を渡したではないか」


「渡したけど……」


 それって今の状況と関係あるの? 理解できないという顔をルウに向けると、呆れたような顔が返ってきた。


「お前、手紙の内容を知らないのか? あれは、お前の面倒を見てくださいという内容の嘆願書だ」


「ええ!?」


「私はそれに承諾した。だからさっさと私について来なさい」


 頭に浮かんだ人形のような姿の双子を思い出す。それが本当だったとしたら、僕は、みんなに――


「ぷるー?」


 ぷぷるの呼ぶ声に、ハッとなり走り出す。途中で振り返って、シャニたちに大きく手を振った。


「じゃあね! シャニ! おじさん!」


「マーヤ、ソイツに変なことされたらとっちめるのよ!」


 シャニの言葉に吹き出してしまう。最後の最後までルウのことが苦手なんだな。


 これでもう心残りはない。ルウに向かって一目散に走り出す。大きな門を潜ったところで、街の鐘がゴーンと鳴り響いた。


「あ、お祈りの時間」


 マシューが鳴らしているのだろうそれは、まるで僕の旅路を応援しているようで。なんだか少しだけ元気が湧いてくる。


「ふふ……今日の鐘は、いつもより少しだけ早いな」


「ぷきゅん」


 ルウが小さく呟いた言葉に首を傾げる。もしかして僕が出発する時間に合わせてくれたとか? ……いや、流石にそんなわけないよね。


「ねえ、次はどこに行くの?」


「それはついてからのお楽しみだ」


「ぷる!」


 手を伸ばすと、ぷぷるが小さな手でハイタッチしてくれる。これから先は一人じゃないと思うと、嬉しくて足がスキップしてしまう。


 二人と一匹の新しい旅立ちに、僕は期待に胸を膨らませた。

マーヤの恵与の国での冒険はここまでになります。

読んでいただきありがとうございました。

(あと一話だけその後の話がちょっとだけあります。)

第二章は出来たらそのうちまた上げようと思います。

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