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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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十日目_戦闘

 なんだか背が伸びた気がする。これも愛の神様が僕の願いを叶えてくれたからなのだろうか? ピチピチになってしまった服に気がつき、スカートの裾を引っ張った。


 そんな僕を見て、ルウがマントの中をゴソゴソしている。何をしているのかと思っていたら、中から女性用の服を取り出してきた。


「その服は窮屈だろう。これを着るといい」


「これって……!」


「マーヤ、お前の服だよ。ずっと欲しがっていただろう」


 街の服屋で売られていた流行りの服だ。欲しかったけど、値段が高くて諦めていた。諦めきれず、あの後も前を通る度に見つめていたのを、きっと見られていたのだろう。


 促されるままに袖を通せば、今の身体にぴったりと合う。


「仕立て直そうと思っていたが、その手間が省けたな」


「ルウ、本当にありがとう!」


 感謝の気持ちが溢れて抱きつけば、ルウが優しく抱きしめ返してくれる。ルウから何処か懐かしい、不思議な香りがした。


「僕、行かなきゃ」


「行っておいで。愛の神はいつも、お前のそばに居られるのだから」


「ぷる」


「うん!」


 ルウとぷぷるに返事をしてから、背を向けて走り出す。僕はもう、振り返らなかった。


 駆け出して直ぐに見えたのは、美しい街並みを破壊するトロールたち。その巨体の下で、街の人たちが逃げ惑っていた。


 やっぱり僕が前に会った個体は特殊だったらしい。街で暴れるトロールの動きは緩慢だった。動きが遅いから、全力で走れば子どもでも逃げ切れる。


 衛兵の活躍もあるのだろう。破壊される街並みとは裏腹に、怪我をしている人はそう多くはいないようだった。


 キョロキョロと周りを見回していたら、遠くで子どもが尻餅をついた。怖くて腰が抜けてしまったんだろう。母親が必死に引きずってでも逃がそうとするが、動かない人間を動かすというのは、例え子ども相手でも難しいものだ。二人を見つけたトロールが、ノシノシと緩慢な動きで近づいていた。


 走って間に合う距離ではなかった。周りに衛兵もいない。カタカタと震えて固まる子どもに、動いてと泣き叫ぶ母親。そんな状況で、無情にもトロールの棍棒が振り上げられた。


 ほとんど無意識のうちに、壊れた石像の台座を蹴り飛ばしていた。それは凄まじいスピードで飛んでいき、トロールの顔面にぶち当たる。ガコン! という凄まじい音を立てて、トロールは地面に倒れていった。


「ワオ」


 とんでもない威力だ。少し、いや、だいぶびっくりした。だってさっきまでの僕だったら、考えられない威力だからだ。


 全身にエネルギーが満ちている感覚がする。大地を踏み締めている脚が、空を切る腕が、自分の身体が何処にあるのか、どう動かせばいいのか、完璧にわかる。まるでボヤけていた視界が開けるように、足の指の先から髪の毛の一本まで、自分の身体が理解できる。


 トロールたちの視線が一斉に僕の方を向いた。きっと僕を、倒すべき敵だと認識したのだろう。ドスドスと音を立てながら向かってくるトロールたちに走り出す。最初の一体の足を引っ掛ければ、凄い音を立てて転んだ。巨大な棍棒が振り下ろされる中、トロールたちの間を駆け抜ける。


 右目に傷があるトロール。棍棒の形が少しだけ捻れた個性的なトロール。腕が長いトロールに長い毛が生えたトロール。その先に見つけた、一番大きな身体を持った、左目が潰れたトロール。


 あの日僕を追いかけた、迷子だったトロール。コイツだ。シャニに怪我をさせたのは。


「ねえ、久しぶりだね」


 お目当てのトロールの目の前で立ち止まる。次の瞬間、巨大な棍棒は容赦なく僕の頭に振り下ろされた。


 ガン! と鈍い音がする。額がジンジンして、ちょっぴり痛い。挨拶の途中で攻撃するなんて、とんだマナー違反だ。


「いったぁ〜!」


 攻撃を受けたはずなのに、僕がピンピンしているから、流石のトロールも驚いたらしい。僕を見て、一瞬目を丸くした。その後、もう一度棍棒を振り下ろす。


 今度は当たってやらない。身を翻して避けると、棍棒が地面にめり込んだ。その棍棒を足場にして、勢いをつけて駆け上がる。あっという間に目線の高さが一緒になった。トロールの瞳が、ギョロリと僕を写し出す。


 左手が僕を掴もうと襲いかかったから、そのまま大きく空にジャンプした。


 シャニを傷つけた分は、お返ししなくちゃいけない。一回転宙返りをして、トロールの目線まで落ちてくる。そのまま身体を捻って、その大きな顔を蹴りつけた。


「一回、お返し!」


 バゴォン!


 凄まじい音がして、トロールの身体が地面に叩きつけられる。それは建物を破壊しながら、数十メートル進んで止まった。盛大に地面が抉れたせいで、大量の砂埃が撒き上がる。


「こ、ここまでするつもりじゃなかったんだけど……」


 少しだけやり過ぎたかもしれない。転んではいけないからと、ぴょんぴょんとトロールの頭の上を歩いて移動する。


 別に僕に攻撃の意思はなかったのだが、トロールたちはそうは思わなかったようだ。混乱したように棍棒を振り回し、警戒するように叫び声を上げ出す。それがお互いの身体にぶつかり、遂には仲間割れを始めてしまった。


 ……なんか、悪いことをしたかもしれない。


「今のうちだ! 負傷者を連れて全員聖堂に退避しろ!」


 衛兵たちが、逃げ遅れていた街人を抱えて一斉に走り出す。それには目も向けずに、トロールたちは巨大な棍棒を打ち付け合い、お互いを傷つけ合っていた。


 これはもしかしたら、この街にとっては幸なのかもしれない。けれど僕は、それを見ていたら、なんだかモヤモヤが湧いてきた。


 足元の石を拾って、思い切り蹴り上げる。空を切るように飛んでいった石は、一匹のトロールの頭を撃ち抜いた。


「ねえ、ずるいよ」


 僕だって、混ぜて欲しい。

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