八日目_処刑台
この街に来て八日ほどたった。ここでの暮らしにもだいぶ慣れて来ている。僕はまとめられたゴミを抱えて、ご飯作りの手伝いをしているシャニに声をかけた。
「この量なら僕一人でも大丈夫! 行ってくるね!」
「あ! 待ってマーヤ、今日は外には……!」
「ちゃんと道覚えてるから、心配しないで!」
シャニは本当に心配性だ。業者用のごみ収集場は少しだけ離れた場所にあるけれど、流石に毎日通っていれば僕でも覚える。この街はそこまで大きくないから、全体の地図も大分分かって来ていた。
ゴミ出しから帰る途中、高台の空き地に人だかりができている事に気がついた。何かイベントでもやっているんだろうか? そう思い興味を持って近づけば、皆一様に何かを見上げている。
何を見ているんだろう? 不思議に思って同じように顔を上げたことを、僕は少しだけ後悔した。
首に縄をつけた男が、ぶらりと木に吊るされている。何かのパフォーマンスだろうか? そう思い、しかし周囲の反応からそれを否定する。
これは処刑台だ。そして処刑された男の髪は薄い黄色で、頬に特徴的なソバカスがあった。
「飯屋の息子じゃないか。一体何をしたんだ?」
「ジェマの鞄を盗もうとしたらしい」
「よりにもよってジェマの鞄を? ああ、じゃあしょうがないな」
間違いない。これはカティだ。
頭が真っ白になった。何も考えられない。ただ目の前の光景だけが、ぐるりと世界ごと回るようにして迫ってくる。
人混みの中に、吊るされた身体をじっと見上げる壮年の男がいる。見たことがある。あれはカティの父親だ。
「あ……」
声をかけようとして、しかし何の言葉も出なかった。カティを捕まえたのは他でもない僕だ。そんな僕が、彼の親に一体どんな声をかけるというのだろうか。
どうしたらいいか分からず固まる僕の肩を、誰かが優しくポンと叩いた。
「よお嬢ちゃん。また会ったな」
「あ……」
腕に大きな傷がある大柄の男。カティを捕まえた日に話しかけてくれた人だ。
「窃盗犯がちゃんと捕まって処刑された。やったなあ。嬢ちゃんお手柄だぜ」
「…………」
上手く返事が返せない。だってまるで、カティが処刑されたのは僕のせいだと言われているみたいで。
いいや、みたいじゃない。実際にそうなのだ。カティが処刑されたのは、僕が原因なのだ。
ドクドクと心臓がうるさいほどに鳴り響いている。握った手のひらにじんわりと汗が滲んだ。
変に思われていないだろうか? 僕の心配を他所に、男はそれだけ言うと、また手をヒラヒラさせて去って行った。
シャニはこの事を知っているんだろうか。トボトボと歩いて帰路につけば、いつも通りの顔をしたシャニが出迎えてくれた。
「マーヤ、遅かったわね。道に迷ったのかと思ったわ。今迎えに行こうとしてた所なの」
「あっ……シャニ、カティが…………」
どうしよう。どうしたらいい? 先程見たモノを受け止めきれず、縋るような目でシャニを見てしまう。そんな僕からフイと視線を逸らすと、シャニはなんでもないことのように言った。
「ああ、まあそうね。カティのことは残念だったわ」
「残念って……でも、カティはシャニの……」
「マーヤ。カティは決して許されない罪を犯したわ。だからもう忘れなさい」
そう言って、シャニは素っ気なく背中を向けた。それに僕は、唖然として立ち尽くしてしまう。
どうしてそんな風に言うの? ずっと一緒に育った幼なじみだったのに。あんなに楽しそうに一緒に笑っていたのに。
「おじさん、カティが……」
「マーヤちゃん、嫌なもん見ちまったな。カティのことはさっさと忘れた方がいい」
僕を心配している言葉。けれど、そこからカティへの親愛は感じられない。
分からない。理解できない。頭がどうにかなりそうだった。
「うん……」
だから僕は、その日考えるのをやめた。




