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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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八日目_処刑台

 この街に来て八日ほどたった。ここでの暮らしにもだいぶ慣れて来ている。僕はまとめられたゴミを抱えて、ご飯作りの手伝いをしているシャニに声をかけた。


「この量なら僕一人でも大丈夫! 行ってくるね!」


「あ! 待ってマーヤ、今日は外には……!」


「ちゃんと道覚えてるから、心配しないで!」


 シャニは本当に心配性だ。業者用のごみ収集場は少しだけ離れた場所にあるけれど、流石に毎日通っていれば僕でも覚える。この街はそこまで大きくないから、全体の地図も大分分かって来ていた。


 ゴミ出しから帰る途中、高台の空き地に人だかりができている事に気がついた。何かイベントでもやっているんだろうか? そう思い興味を持って近づけば、皆一様に何かを見上げている。


 何を見ているんだろう? 不思議に思って同じように顔を上げたことを、僕は少しだけ後悔した。


 首に縄をつけた男が、ぶらりと木に吊るされている。何かのパフォーマンスだろうか? そう思い、しかし周囲の反応からそれを否定する。


 これは処刑台だ。そして処刑された男の髪は薄い黄色で、頬に特徴的なソバカスがあった。


「飯屋の息子じゃないか。一体何をしたんだ?」


「ジェマの鞄を盗もうとしたらしい」


「よりにもよってジェマの鞄を? ああ、じゃあしょうがないな」


 間違いない。これはカティだ。


 頭が真っ白になった。何も考えられない。ただ目の前の光景だけが、ぐるりと世界ごと回るようにして迫ってくる。


 人混みの中に、吊るされた身体をじっと見上げる壮年の男がいる。見たことがある。あれはカティの父親だ。


「あ……」


 声をかけようとして、しかし何の言葉も出なかった。カティを捕まえたのは他でもない僕だ。そんな僕が、彼の親に一体どんな声をかけるというのだろうか。


 どうしたらいいか分からず固まる僕の肩を、誰かが優しくポンと叩いた。


「よお嬢ちゃん。また会ったな」


「あ……」


 腕に大きな傷がある大柄の男。カティを捕まえた日に話しかけてくれた人だ。


「窃盗犯がちゃんと捕まって処刑された。やったなあ。嬢ちゃんお手柄だぜ」


「…………」


 上手く返事が返せない。だってまるで、カティが処刑されたのは僕のせいだと言われているみたいで。


 いいや、みたいじゃない。実際にそうなのだ。カティが処刑されたのは、僕が原因なのだ。


 ドクドクと心臓がうるさいほどに鳴り響いている。握った手のひらにじんわりと汗が滲んだ。


 変に思われていないだろうか? 僕の心配を他所に、男はそれだけ言うと、また手をヒラヒラさせて去って行った。


 シャニはこの事を知っているんだろうか。トボトボと歩いて帰路につけば、いつも通りの顔をしたシャニが出迎えてくれた。


「マーヤ、遅かったわね。道に迷ったのかと思ったわ。今迎えに行こうとしてた所なの」


「あっ……シャニ、カティが…………」


 どうしよう。どうしたらいい? 先程見たモノを受け止めきれず、縋るような目でシャニを見てしまう。そんな僕からフイと視線を逸らすと、シャニはなんでもないことのように言った。


「ああ、まあそうね。カティのことは残念だったわ」


「残念って……でも、カティはシャニの……」


「マーヤ。カティは決して許されない罪を犯したわ。だからもう忘れなさい」


 そう言って、シャニは素っ気なく背中を向けた。それに僕は、唖然として立ち尽くしてしまう。


 どうしてそんな風に言うの? ずっと一緒に育った幼なじみだったのに。あんなに楽しそうに一緒に笑っていたのに。


「おじさん、カティが……」


「マーヤちゃん、嫌なもん見ちまったな。カティのことはさっさと忘れた方がいい」


 僕を心配している言葉。けれど、そこからカティへの親愛は感じられない。


 分からない。理解できない。頭がどうにかなりそうだった。


「うん……」


 だから僕は、その日考えるのをやめた。

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