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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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五日目_ジェマとガスパール

 夜も遅い時間に、カンカンとドアノッカーを叩く音が聞こえてくる。こんな時間にジェマの屋敷を訪ねる輩など、たった一人しかいない。


 扉の鍵を乱暴に開ければ、予想していた通り、腕に傷のある大柄の男が家の中に入ってきた。


「こんばんはジェマの旦那。今夜は月がよく見える。いい夜だね」


「ガスパール、お前がきたおかげで最悪の夜だよ」


「ははは! 違いない」


 なにが面白いのだろうか? ガスパールはジェマの言葉に声を上げて笑った。傭兵だというこの男は、背が高く鍛え上げられた体をしている。初見は頼もしいと思ったものだが、今になってみれば最悪なだけだった。


「早速だが、金の用意は出来ているかい?」


 やはり金の無心に来たか。そろそろだとは思っていた。金庫を開け、机の上に大きな皮袋を取り出す。中には大量の金貨が輝いていた。


「……ここに1000万エピー用意した。奥にもう一袋用意してある」


「一億エピー用意しろと言った筈だが? あんたの総資産からすれば、無理な額じゃない筈だ。……まさか払いたくないと?」


 ガスパールが不穏な空気を醸し出す。その言葉にグラグラと燃えるような怒りが湧き起こり、ジェマは大声を張り上げた。


「現金化に! 時間が! かかるのだ! 資産はあってもそれを現金に変えるには手続きが必要なのだ! それぐらい分かるだろうが!」


「どうどう、そうなのかい。そういう事情は俺たちのような庶民には分からんのさ」


 嘘だ。大体一億エピーなどこの男一人で持てる量ではない。用意できていないことなど最初から分かっていただろう。


 この男相手に怒っても時間の無駄だ。そう分かっていても、頭に血が昇るのを止めることができない。ジェマは元来短気な性格をしていた。


「それよりキサマ、ちゃんとモノはあるんだろうな?」


「ああ、ちゃんと持っているよ。ホラ」


 ジェマの言葉に、ガスパールの懐から深い青色をした宝石が取り出される。ずっと欲しかったものを目の前に出されて、その眩しさにクラクラと目眩がするほど陶酔した。


「おお……! なんと美しい……!」


「おっと、まだダメだ。これはちゃんと一億エピー払ってからだ」


 近づいたところで、触れる前にまた仕舞われてしまう。以前は誇らしく飾っていた、原初の神々を表す美しいレリーフ。六角形の真ん中には、ポッカリと穴が空いている。創造主を意味する円形の青金石、それさえあれば、完成するのだ。


「こっちはコレを手に入れるために、人一人手にかけたんだ。それなりの誠意って奴を見せてもらわないとな」


「私は! 少し脅かしてくれと言ったのだ! お前たちが勝手に……!」


「おいおい、今更そういうのは無しだぜジェマの旦那。俺たちは一連托生だ。そうだろう?」


 この青金石は、隣町に住んでいる宝石コレクターだった男が持っていたモノだ。どうしても青金石が欲しかったジェマは、直に交渉をしたのだが、素気無く断られてしまった。


 気落ちしていたところに現れたのがこの男だ。少し脅かしてやろう。そうすれば交渉にも乗ってくれる。そう甘言に乗せられたジェマは、まんまとこの男の口車に乗ってしまった。


 問題なのはその後だ。あろうことかガスパールは、宝石コレクターの男を殺してしまった。しかもこの男、ジェマが欲しがっている青金石の本来の価値を知っていたのだ。


 その後の展開も最悪だった。青金石を奪ったガスパールは、一億エピーという大金をジェマに吹っ掛けたのだ。


 ただの子悪党ではない。ガスパールは知恵が周り、弁が立ち、統率力もあった。傭兵上がりだというのも嘘ではないだろう。だからこそ無碍にできない。仲間ごとこの街に居座っているのは、自分を見張るためなのだろう。


 この男を街の兵士に突き出すのは簡単だ。だが、それをすればガスパールは、一連の事件をジェマに指示されたと言うだろう。この男と手を切るには一億エピーが必要なのだ。


「クソッ! なにが一連托生だ、この悪党め!」


「ワハハ、否定はしないが、アンタに言われるのは面白いな」


 自慢であったレリーフも、事件との繋がりに気が付かれるのを恐れて、人前に出せなくなってしまった。この男と出会ってから、最悪なことばかりだ。


 地団駄を踏むジェマの前で、ガスパールは人好きのする笑みでケラケラと笑った。

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