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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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四日目_ベリー狩り

 聖堂を出て、僕は駆け足で街の奥にある森に向かっていた。今日は昼過ぎからシャニたちと約束をしていたのだ。ルウに話を聞いてから向かおうと思っていたら、思ったより時間を食ってしまった。神様の話に夢中になっていて、気がついたら随分と長い時間話し込んでしまっていたのだ。


「あ、きたきた! マーヤこっちよ!」


「遅れてごめん!」


 手を振るシャニの元に走って合流する。僕の後ろからヘロヘロとついてくるマシューを見て、シャニとカティが目を丸くした。


「ま、マーヤちゃん足早過ぎ…………」


「マシューもついてきたの?」


 ゼイゼイと息をするマシューに、シャニが不思議そうに声をかける。どうやらマシューは誘われていなかったらしい。


「マーヤちゃんがジューンベリー狩りだっていうからさ。僕のことも誘ってくれればいいのに」


「だってテオドラ様が忙しそうにしていたんだもの。仕事の方は大丈夫なの?」


「大丈夫……じゃないかもしれないけど、正直見習いの僕に手伝えることってそんなにないんだよね」


 へへへと頭を掻くマシューを、シャニが呆れた顔で見ている。一人準備していたカティが、用意した籠をマシューにも手渡した。


「それならテオドラ様に美味しいジャムでも持って行ってやろうぜ」


「さすがカティ、分かってるね」


「まあ、そうよね。来ちゃったものはしょうがないしね」


 気の置けない会話に、三人の仲がとても良い事が伝わってくる。そんな人がいるって素敵だなあと、僕はシャニを羨ましく思った。


「さあ、摘むわよ〜!」


 真っ赤なベリーをたくさんつけた木を前に、シャニが気合を入れている。僕以外の三人は、ベリーの前で真剣な表情をしていた。


「去年は負けたが……今日は負けないからな」


「はん、言ってなさいカティ。今年も私の勝ちよ」


「カティは器用だからな。量はシャニが多くても、カティが採ったベリーは見た目が綺麗だ」


 どうやら毎年誰が一番ベリーを摘めたか競争をしているらしい。火花を散らすカティとシャニを尻目に、マシューが手早くベリーを摘んでいく。


「マシュー、あんたどっちの味方なのよ」


「さあね。っていうか、今年はクロテアも誘ってないの?」


「クロテアは誘ったわよ。でも仕事だって。ジェマのところの使用人なんて、早く辞めちゃえばいいのに!」


「事情があるんだ、仕方ないよ。シャニだって分かってるだろ?」


「待って、クロテアは誘ったのに僕は誘ってないのおかしいよね? そういう事されると泣いちゃうよ?」


「それは別にいいでしょ」


「よくないよぉ!」


 どうやら三人にはもう一人幼なじみがいるらしい。雑談をしながらもその手は猛スピードでベリーを摘んでいく。


 一方僕はというと――一人ベリー摘みに四苦八苦していた。


 赤く小さな実を見様見真似で優しく摘んでいく。さくらんぼみたいな小さな実を掴むと、ぷちゅりと中身が弾ける感覚がした。


 ………………また失敗しちゃった。


 三人を見れば、手で掬うように綺麗にベリーを摘んでいる。きっと難しい行為ではないはずだ。それなのに、僕の手のひらはベリーの果汁で真っ赤になっていた。


「ちょっとマーヤ、どうしたの!?」


「…………上手く摘めない……」


 悲惨な状態の僕の手を見て、シャニが驚いたように声を上げる。悲しい気持ちをそのまま声に出したら、カティがそれに声を上げて笑った。


「ハハハ! 俺も最初の頃はそうだったよ」


 カティが笑いながらこちらに歩いてくる。カティはこの中で一番背が高いから、距離が近づくと少しだけ見上げる形になった。


「実の部分を掴むから潰れるんだ。ジューンベリーは、ヘタの部分を爪で摘んで上に引っ張ると綺麗に取れる」


 カティが緑のヘタの部分を摘んで引っ張ると、ぷちりと綺麗に身が外れる。僕の手のひらに、潰れていないベリーの身が二つコロンと転がった。


「すごい!」


「凄くないよ。マーヤにもできるさ」


 カティの真似をして、今度は実に触らないように緑のヘタを爪で掴む。少し力を入れれば、ぷちりと音がして綺麗なジューンベリーが収穫できた。


「ほらできた」


「えへへ、ありがとう! カティが教えてくれたおかげだよ」


「どういたしまして」


 褒められたのが嬉しくて、つい顔が弛んでしまう。シャニにも見せようと振り向いたら、そこには予想外に頬を膨らませたシャニが、こちらをジッと睨んでいた。


「…………カティの女ったらし」


「は? なんでそうなるんだよ」


 なんでシャニは機嫌が悪くなっているんだろう。でもきっと、僕のせいだよね? どうにかしようと声をかけようとしたところで、マシューに肩をポンポンと叩かれた。


「アレはマーヤちゃんのせいじゃないから気にしないで。ただの夫婦喧嘩だから」


「「夫婦じゃない!」」


 二人の声が全く同時に重なった。……なんか本当に、気にしなくてよかったみたい。マシューは僕と目が合うと、やれやれといった風に肩をすくませた。


 ベリーを上手く摘む方法も教えてもらったし、後はひたすら摘んでいくだけだ。無心に作業をするというのは結構楽しい。


 籠にも随分とベリーが溜まってきたので、休憩とばかりに体を伸ばす。その時になってやっと、目の前の風景が変わっている事に気がついた。


 しばらくジューンベリーを取るのに夢中になっていたら、シャニたちの姿が消えている。どうやら随分と奥に入ってしまったらしい。焦って周りを見回せば、少し遠くに薄い色の髪が見えた。


 あれはきっとカティだ。ホッと息を吐いて近づけば、独特の香りが鼻をくすぐる。なんだろうと思えば、カティがタバコのようなものを吸っているのが見えた。


 でも、この匂いはタバコじゃない。だって僕は知っている。


「ねえ、それって"天使の雫"だよね」


「……! マーヤ、知っているのか」


「カティはどこか病気なの?」


 それは薬だ。傭兵とかが怪我の痛み止めに使っている、とんでもなく強いやつ。そしてその依存性から――一般での流通が、ほとんどない幻覚剤。


「いや……まあ、そうだな」


 カティが僕の質問に、明らかに目を泳がせた。恐らくカティ本人も、この薬が良くないものである事に気がついているのだろう。


 少しだけ躊躇ってから、覚悟を決めて口を開く。昔の事はあまり思い出したくない。でも、言わないわけにはいかなかった。


「常用するのはあんまり良くないんだよね? 僕の昔の仲間も、それで酷い事になってた。眠れなくなったり、手が震えたり……最後は悪いことをして、捕まっちゃったんだ。カティも癖になる前に、やめた方がいいよ」


「あ、ああ。気をつけるよ」


 お節介かもしれない。でも、カティは僕に優しくしてくれたから、危ない目にあって欲しくない。


 カティが吸っていたものの火を消して、皮のケースに仕舞い込む。その瞬間後ろから、シャニの大きな声が聞こえてきた。


「あー! マーヤいた!」


「お、カティもいるじゃん」


「ちょっと、なんで二人っきりでいるのよ! マーヤに変なことしなかったでしょうね!?」


 どうやら探させてしまったらしい。シャニがプリプリしながら近づいてくる。それにカティが呆れたような顔をした。


「はあ? そんなことするわけないだろ。一緒に居たのは偶然だよ」


「そ、そう? それならいいんだけど……」


 なんかシャニって、分かりやすいよね……。マシューもそう思ったのだろう、人懐っこそうな顔で、くふくふと笑いながら二人を見ている。


「シャニ、少しは素直になった方がいいんじゃない?」


「うるさいわよマシュー!」


「いった! ほうりょくはんらい〜!」


 マシューのほっぺたを抓るシャニの元に、カティと一緒に合流する。


 僕はカティが震える手を隠したことに、気が付かないフリをした。

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