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僕の気まぐれな神官さま  作者: もちぴー
第一章 恵与の国編
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三日目_アニカと犬のペロ

 今日は朝から洗濯物を干したり、孤児院の勉強会に参加したり、忙しない一日だった。一日の仕事を終えてから、二階にある自分の部屋にやっと戻る。身体を綺麗に拭いて寝間着に着替えれば、あっという間に寝る準備が完了した。


 いつもならこのまま寝てしまうのだが、今日はシャニに本を読んでもらう約束をしている。アニカから借りた本を持ってシャニの部屋に行けば、身体をずらしてベッドの横を開けてくれた。


 一緒のベッドに入り二人で絵本を覗き込む。シャニが表紙に触れて、少しだけ懐かしそうな顔をした。


「私が小さい頃にお母さんが読んでくれた本なの」


「そうなんだ」


 お母さん。僕にはいないからよく分からない。上手い返答ができない僕に、シャニは特に気を害した風でもなかった。


 シャニに絵本を手渡すと、表紙を開きタイトルをなぞる。静かな室内に、シャニの声だけが響いていた。



 アニカと犬のペロ


 ある小さな街に、幼い女の子が住んでいました。

 女の子の名前はアニカと言います。

 アニカの家では、大きな犬を飼っていました。

 大きな犬の名前は、ペロと言います。

 二人は大の仲良しで、いつも一緒に遊んでいました。

 アニカが大きな声でペロを呼ぶと、ペロは小麦畑のようにきれいな毛をなびかせて、アニカの元にタッと駆けていきます。

 アニカはそれが嬉しくて、なんどもペロの名前を呼びました。

 ペロはその度に、アニカの元に駆け、ワンと大きく鳴きました。

 ある日アニカがいつものように、ペロの名前を呼びました。

 けれど、いつまでたってもペロがそばに駆けて来ません。

 心配になりアニカが犬小屋に近づくと、びっくりするものが飛び込んできました。

 なんとペロが、中でグッタリと倒れているではありませんか。

 アニカが心配してペロに抱き着くと、その体は熱く燃えているようでした。

 ペロはいったいどうしてしまったんだろう?

 お母さんに相談しても、原因がわかりません。

 そうだ、街一番のお医者さまに診てもらおう!

 そう思いたち、アニカはペロを街一番のお医者さまのところに連れて行きました。

 ペロをどうにか治してください。

 そう言ったアニカの前で、お医者さまは悲しそうに首を横に振りました。

 ペロは、神さまの試練を受けていると言うのです。

 だから、ペロを治すことはできない。そうお医者さまは言いました。

 アニカは毎日神であるベスタウに祈りました。

 どうかどうか、ペロを治してください。元気になったペロと、また一緒に遊びたいです。

 毎日毎日一生懸命に祈っていたら、ある日アニカは夢を見ました。

 そこは不思議な世界でした。アニカがフワフワとしていると、まばゆく輝く美しい神が現れました。


「こんにちはアニカ。私の名はベスタウ。この地をまもる神である」


 抱き締めるような優しい音色。優しい黄金の眼差し。四角くて、真っ白で、なんて美しいのでしょう。

 アニカは神ベスタウに、もう一度祈りました。


「ベスタウさま。どうかどうか、ペロを治してください。元気になったペロと、また一緒に遊びたいです」


 神ベスタウは、アニカにこう言いました。


「私はお前が祈っていた事を知っている。アニカ、私はお前をずうっと見ているよ」


 アニカが朝目覚めると、急いでペロの元に行きました。ベスタウさまの言葉を、ペロにも教えてあげようと思ったからです。

 アニカはペロの名前を何度も呼びましたが、ペロは返事をしません。

 ペロの目は固く閉じられて、もう二度と開くことはありませんでした。



「おしまい」


 シャニが絵本を静かに閉じる。優しげな顔をするシャニとは裏腹に、僕の顔は不満でいっぱいになっていた。


「どうしてペロは死んでしまったの? ベスタウにだって祈ったのに」


 話の最後がどうにも納得できなくて、シャニに突っかかるような言い方になってしまう。シャニはそんな僕を見て、少しだけ困ったように笑った。


「ベスタウ様だって、なんでも願いを叶えるというわけではないのよ」


「それならそう言えば良いのに」


「うーんどうかしら」


 どうにも煮え切らない。不満気な僕を見て、シャニは少しだけ考えるように目を閉じた。


「きっとね、この絵本は、人生にはとても悲しい事があるよって教えてくれているのよ。私はそう思っているわ」


「悲しい事……」


 自分にも思い当たる出来事がある。この世界は残酷で、悲しい事に溢れている。どんなに幸せだって、何かを諦めなければならない時が必ず来る。


 仲間だと思っていた。ずっと一緒にいられると思っていた。それでも、あの日僕は追い出された。どれだけ祈っても、きっとあの結末は変わらなかったのだろう。


「そう。たくさん悲しい事があるけれど、ベスタウ様がいつだって見守ってくださっている。きっとそういう事なんだと思うわ」


「そっか……」


 納得したような、していないような。そんな微妙な顔をしている僕を見て、シャニはクスクスと笑った。


 その日僕は、シャニと同じベッドで眠りについた。眠りの淵に落ちる寸前、ふと絵本の言葉が頭をよぎる。


 私はお前をずうっと見ているよ


 ベスタウは、今も僕のことを見ているのだろうか。答えのない問いを抱えたまま、僕の意識はゆっくりと沈んでいった。

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