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瑠璃子とバイクと僕の物語(マン島TTへの想い)  作者: タマツ 左衛門之介久


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ep.5 モトハウス・グッチ〜TZR

 愛車(VTZ250)の調子がイマイチに感じる。

 何だか乗っていて窮屈と言うか、いつもの乗り易さとは違う感覚に見舞われる。

 僕は親父(オヤジ)に電話を入れた。


「ちょっとVTの調子がイマイチに感じちゃう。異音とかはしないと思うけど、多分原因はラジエーターか何か。エンジンの水温が高めに感じて下がりも悪い様な気がする。」


 僕のVTは水冷式。

 正面のラジエーターが風に当たり、クーラント(不凍液)を冷やし、シリンダー回りのウォータージャケットに冷めた水を回す事で、エンジンの発熱を抑える効果を得る。

 エンジン温度が下がらはければ、エンジンは焼き付いてしまう。

 

 水冷エンジンは、ウォータージャケット( エンジンのまわりにある冷却水の通り道)に、ウォーターポンプ(エンジンの力で冷却水をぐるぐると回すポンプ)でクーラント(冷却液: 凍ったりサビたりするのを防ぐ専用の液体)を回す事で、エンジンが発生させ、その持つ熱を下げるモノ。


 水冷エンジンのメリットは多く、外の気温に左右されずにエンジンをいつも良い温度に保てるし、熱によるダメージが少ない事はエンジンの長持ちに繋がる。

 また、ウォータージャケットがエンジンの外側の“水の層”になる為、エンジン音や爆発音を少し和らげてくれる。


 水冷エンジンのデメリットとしては、ラジエーターやウォーターポンプなどの部品が増えるため車体が重くなるのと、コストが増してしまう事。

 コスト増は、バイク自体の値段や修理代が高くなってしまう傾向となる。

 そうは言っても、安定した走行が行え、長く付き合うのであれば、水冷式のエンジンに軍配が上がる。


 空冷エンジン(走行時の風や空冷ファンによってエンジンを冷やす方式)と比較して冷却効率が高く、それは安定したエンジン性能を保つことになる。

 オーバーヒートのようなトラブルが起きにくいし。


 親父(オヤジ)はバイクの機構(エンジンや吸排気系、電装関係)事になると自分の『勘』で勝手に触るなと。

 調べて調整する事は基本的なメンテナンスの知識として必要だけど、修理の発生に繋がる程の事だと、手を出すなって。

 調整と修理の線引き、僕の判断では怪しいけど。


 基本的なメンテナンスの知識を持つ事は必要だけど、素人の知ったか振りの知識で変に触って、結果として修復よりも悪化させる事は多いと。

 プラスのドライバーを持てばネジ頭に十字の溝を持つプラスのネジの多くは回せるだろう。


 でも、安易に考えてはいけない。

 ネジとネジ山にも寸法が有り、バイクのカウルなんかは樹脂製のネジも有るから、金属製のネジと同じ扱いをしたら、ネジ山をナメたり破損しちゃうかも知れない。


 特に内燃関係(エンジン)の事だったら、勝手に(シリンダー)ヘッドは開けるなと。


 エンジンの“フタ”とも呼べるシリンダーヘッドは、シリンダー部との間にパッキンが有るので、もしもエンジンのヘッドを開ければ、その都度交換だ。

 もしもパッキン類を傷めてしまい隙間何かになってしまえば、エンジンルーム内での圧縮は得られず、燃焼〜爆発によるパワーは発生しなくなる。


 それと4ストローク車であればシリンダーヘッドには吸排気のバルブも組み込まれた複雑な機構も入っている。

 ボルトにナット、ビスの締め付けだって規定の数値が有り、しっかりと固くネジ類を締め付ければいいと言うものでは無い。

 素人が手を出す領域では無い。


 僕が少しの不調の原因と感じるラジエータ。

 ラジエーターとシリンダー回りは、半密閉式で水なり不凍液が漏れる事は無い。

 でも長い年月でその量が減る事は多々有る。

 減ってしまえば冷却の効率は落ちてしまう。


 それともうひとつ気になり出したのが、挙動、、、道路から受ける振動の感覚、ギャプを越える時、ブレーキを掛けた時、コーナーリングの最中、、、バイクの動きがズレている?

 多分、フロントホークとリヤショック。痛めてしまったのかも知れない。



 バイクに不調が感じられた時、、、今回は単に不凍液不足とも思われるけど、下宿先にはメンテナンスを行える適当な工具が無い。

 バイクと言えど車載工具は幾つか積んではいるけど、ブレーキバーの調節などちょっとした事をする程度のモノ。

 トルクレンチとまでは言わないけど、ビスやボルト類を正しく強く回せる工具はココには無い。

 それなりの工具を使わないと、ボルトを舐めちゃったり、ネジ穴を潰しちゃったりしたら大変だ。


「良く気付いたな、まあ、20点だ。」

 何故だか親父に点数を付けられた。

 でもこの感じ、つい最近に得た感覚だ。そうだ、

「親父、20点って100点満点で?」

「いや、100万点の内の20点だ。」

 なんだよソレ!それだと点数なんて有って無いモノじゃんか。


「お前の単車な、まともに整備なんてしてないからな。ラジエター水は怪しいが、排気系、マフラー中もカーボン溜まってるだろ。」

 僕のVTのスピードメーターの距離計は、4桁が表示されているが、これは一周しているから。優に10万キロは越えているだろう。

 タイヤは前後共に新しいのに履き替えている。

 破れてしまっていたシートは、親父が新品と取り替えてくれた。

 だけどその走行距離からすると、機外共に程度は良好である。

 凄いぞVT!やるなメイドインジャパン!



 僕は工具を借りる為に、その他のモロモロの事も含めて、親父に指示されたバイク屋さんに行く事にした。

 ガソリンスタンドは、大体行く場所か決まって来たけど、バイク屋に関しては余り考えて無かった。

 ラジエーター水を足す事で済む気がするけど、ここは大事を取って、それに今後の事もあるし、どこか助けてもらえる場所は必要だった。

 

 バイク屋といっても、車のディーラーの様なメーカー直結の販売店も有れば、自転車屋さんがバイクを扱っている店も有る。

 僕の好みとしては、メーカーの最新車両が並ぶお店は気が引ける。


 確かにピカピカに並ぶバイクを見る事は、ワクワクする。

 だけど今の僕が新車を買う為にそんなお店に行く事は無い。悲しいけど現実だ。現実は非情だ。

 だからそういったお店は、何か落ち込んだり、気分が晴れなかったりした時に行く場所。

 そう、気分が落ち込んだりした時には、好きな事をやったり、好きな物を食べたり、好きなモノを見るのが一番。

 だから僕なら、スッゴい新車のバイクを見て回る事は精神的な癒しになるし夢も見られる。

 まあ、その“通院”が長引かない様にしないといけないけど。



『モトハウス・グッチ』

「グッチの店へ持って行け。」

 親父(オヤジ)の案内で到着した場所は、国内4大メーカーの看板を掲げる小さなバイク屋だった。

「軽くメンテもお願いしておくよ。」


 店先には中古のバイクが6〜7台並べられている。

 店内となるガラス張りのショーケーススペースにオフロード車の新車が2台とピカピカなスクーターが4台並んでいて、それと店内奥には中古の750ccが1台置かれている。

 

 カワサキのZ750RS、通称ZⅡ“ゼッツー”

 輸出仕様の900RSはZⅠと呼ばれ、その弟分である750RSはZⅡだ。


 多くのバイク乗りが憧れ好意の目を向ける特別な一台。

 ここに有るのはフロントの左右にブレーキディスクを備えていて、トリプルディスクと呼ばれるD型だろう。

 この単車のアイキャッチとも呼べる砲弾型のガソリンタンクは目を引き易い。

 空冷横置きの4気筒エンジンから繋がる銀メッキのマフラーは、長く美しい。

 いつの日にか乗ってみたい、いや、手に入れたいバイクの一台かも知れない。


 店内に並ぶスクーターやバイクを眺めていると、奥からお店の人だろうか、親父と同世代くらいの人が現れた。

「こんにちは、草刈と言いますがオヤジの紹介でお邪魔します。」

「ああ、電話は貰ってる。忠男(アイツ)の息子だなんてな。大きいな今幾つだ?」

「はい、高校をこの春卒業しましたので18です。もう少ししたら19に成ります。」

 親父の旧い知人だそうで、野口さん。あだ名なのか愛称は『グッチ』さん。

 初対面なのに少しぶっきらぼうに感じた。


 まあ、僕は正式なお客さまでは無いかも知れないけど、でもちょっとなぁ。

「それで、今日はどうした?」

 あれ?親父から連絡が入ったって?

「特に急ぎや大した事では無いとは聞いてる。だけど内容は自分で伝えるべきだ。人伝(ひとづて)だと間違いも起こるからな。」

 納得した。

 僕は一通り、親父に言った事と同じ事をグッチさんに伝えた。


「ああ聞いてるよ。」

 えっ?聞いてたの?


「ラジエーター水を足すから、少し待とう。」

 僕はVTを乗って来たばかり。

 当然エンジンは熱を持っているし、水冷のラジエーターも当然熱い。

 ラジエーターの中の不凍液が熱を持ったままに水を足す点検ビスを回せば、熱を持った水蒸気が飛び出し火傷をしてしまう。


「時間、あるよな?」

 僕は黙って頷いた。

 なんだかグッチさんの話し言葉や口調が親父に似ていて、、、逆らえない。嫌な気はしないけど。

 僕はグッチさんに続いて、店の店舗兼事務所の横であり整備スペースとなっているガレージに向かった。

 

 ガレージの中は数台の中古車が押し込まれているけど、整備作業中の物がどれなのかは分からなかった。

 その中古車と整備スペースとの間に置かれているのは2スト250のTZR。


「コイツは昔乗っていたのをちょっとしたレストア中。」

「エンジンはオーバーホール済み。まあ、外回りのノーマルパーツを揃えている途中だけどな。」

 少し前のバイクのパーツは、メーカーに在庫が残っていれば手に入れられる。


 基本、製造メーカーによるオートバイの部品供給に関し法律による縛りは無い。

 逆に言えばメーカーは部品なりパーツを残しておかなければ成らない義務は無い。

 だけど実際は、新車製造が終了してから8〜10年程で部品製造も終了してしまう。


 オートバイメーカー各社は、自社製品か長く使われる事に不満は無いと思う。だけと新車販売が企業の本業であるのだから、単なる純正部品の供給・販売は、本業の中核を担う事では無い。


 オートバイのメーカー純正部品の供給、業界の自主規制、車種の販売台数や販売期間、もしくは複数モデルに渡り共通して使用が有る等、車種や部品によってその供給期間に差は生じてしまうだろう。


 少し古いバイクともなれば、欲しい部品やパーツが必ずしもメーカーから供給され入手出来るとは思わない方がいいのかも知れない。

 だから欲しいパーツが直に無かったり見つからない場合は、程度の良い中古車なり中古のパーツを探さなければならない。

 そっちも直に出るとは限らないけどね。


「ちょっと乗ってみる?」

「いいんですか?!」断る理由は無い。

「あと200キロ位は慣らしをしたいから、それでも良ければだけどな。」


 エンジンの慣らし運転。

 オーバーホールによって、シリンダーは磨きが掛かり、新しいピストンとピストンリングが組まれたなら、それぞれのパーツを馴染まさなければならない。

 新たに組まれたエンジンを早々に荒々しく回してシリンダー内に残るキズが付けば、、、それが目に見えない様なモノであったとしても、、、圧縮時の漏れであったりしたらエンジンの性能は引き出せない、エンジン回転のクセだったり、長く乗って行く場合の不良箇所になってしまうかも知れないから。

 レーサーのマシンと違って、一般的にはエンジンを開けてオーバーホールをする機会なんてなかなか無いから。

 慣らし運転はバイクを長く大切に乗る為の第一歩。



 僕はヤマハのTZRに跨った。

 イグニッションにキーを差し込みON側に回せば、『ウィーン、ミミッ、ウィンウィン』と機械の動く音が聞こえる。


「グッチさん、コレって、」

「これはコイツ(TZR)に組み込まれたYPVSが作動する音だ。」

 YPVS、それはヤマハが開発した『電子制御式の可変排気バルブ』である。


 YPVSシステムを一言で言うと、『ピーキーで扱いづらい2ストロークエンジンを、全域において扱い易く、そして速さを保つ事を実現させた、まるで魔法の様なシステム』の事である。ああ、一言では納まらない。


 2ストのバイクは、エンジンの性能や特性を低回転時で設定すると高回転で伸びなくなり、逆に高回転時に合わせると低回転でスカスカになる(ピーキー)。それは2ストバイクの致命的な弱点であり、排気ポート(排気ガスの出口)の高さが固定されているからだ。

 YPVSは、この弱点をエンジンの回転数に応じて排気ポートの高さを自動で変えることで解決する。


 低回転時はバルブを閉じて排気ポートへの流れの壁を下げる事で、圧縮圧力を高め、力強いトルクを生み出す。

 高回転時には、バルブを全開にして排気ポートを上げ、排気効率を最大にし爆発的なパワーを引き出す。


 ヤマハのTZR250、1985年に登場した、ヤマハのレーサーレプリカである。

 当時の市販レーサー『TZ250』の技術をそのまま市販車に落とし込み、水冷2ストローク並列2気筒エンジンを搭載した。

 当時の自主規制いっぱいの45馬力を誇り、乾燥重量126kgという超軽量な車体と相まって、市販車と言えども凄まじい加速力を持っている。


 そしてTZR250にYPVSTが組み込まれたことで、それまでの2ストバイクのような『ある回転数から急激に加速するドッカンパワー』ではなく、低回転から高回転までスムーズに繋がり、どこから開けても鋭く加速する扱い易さを手に入れ、大ヒットを記録した。


 街乗りでもギクシャクせず、扱いやすいトルクがある。

 パワーが途切れず、スムーズに加速する。

 45馬力をフル発揮をすれば、2スト特有の脳を揺さぶるような爆発的加速が味わえる。



 それに合わせて、ヤマハのTZR250(初代1KT)を語る上で外せないのが、アルミフレーム。


 デルタボックスフレームと名付けられたアルミフレームは、当時のGPレース(最高峰のバイクレース)の最先端技術をそのまま市販車に持ち込んだモノ。それはバイク界に凄まじい衝撃を走らせた。

 その骨格を見ると、まるでレーシングマシンのような美しさが有る。


 それまでのバイクは、丸いパイプを複雑に組み合わせた鉄製のフレームであり、それに比べ、圧倒的にシンプルかつ合理的な形状である。

 そして2ストロークの爆発的なパワーを受け止める為に箱型に組み、それを軽量アルミで中空とする事で、軽量と高剛性を両立させた。

 フレームの外側から“コンコン”とノックをすれば、中空なのが確認出来る。


 高剛性は「ねじれ強さ」でもあり、エンジンパワーを逃がしたり、車体の歪みの力も適度に逃がす事で、安定したハンドリングとなる効果を得るに至った。


 フルカウルをまとった姿の中に、この極太のアルミフレームがカウルの隙間からチラリと見えるのはなんとも言えないカッコいいポイントでもある。


 僕は2ストのバイクが好きだ。

 4ストに比べてエンジンの機構が単純だし、加速のフィーリングが特にいい。

 ヤマハの2ストといえば、それまで2スト250ccの雄であったRZ250。

 その後継機種とも呼べるコイツは、RZとは全くの別物だ。

 先ずはアルミフレームが目立つ、そしてレーサーレプリカのはしりと言えるフルカウル仕様が目に付く。

 なんと言ってもエンジンが違う。



 1980年代後半にF1ブームの流れがあったからなのか、オートバイのレースであるWGP、世界モーターサイクル選手権の人気も日本で多くの流れとなった。

 国内4大バイクメーカーは、2ストローク250cc市場にこぞってレーサーレプリカタイプのオートバイを発売した。

 ホンダだったらNSR、スズキはRG―ガンマ、カワサキはKR、でもちょっと弱かったか、ヤマハであればTZR。


 国内レーサーでアイドル的な人気と知名度を得た選手も出現し、レーサーレプリカのバイクは一時代のブームの波を巻き起こした。


 フルカウルに前傾姿勢、一気の加速と軽い車体は多くの町中レーサーを生み出し、週末の峠道ではさながらに公道でのドックファイトが繰り返し行われた。


 だけど2ストロークのエンジンは、終焉を迎える。

 

 排ガス規制強化に2ストロークエンジンは晒され、それへの適合が構造的に困難であった。


 2ストローク車は構造上、燃焼室に混合気(ガソリンとオイル)を送り込む際に未燃焼ガスが排気として抜け易く、排出ガス中に多くの有害物質や白煙(オイルの燃焼)が含まれ、環境基準を満たせなくなった。

 製造メーカーは、排ガス規制の強化に対しコストをかけた適合が難しく、排気の規制に伴って2ストロークエンジンの製造から撤退してしまった。

 国内の公道向け市販車は姿を消しまった。


 白く広がる不完全燃焼の排気、爆音と空気を汚すだけの物。社会は許してくれなかった。


 今現在、公道を走る2ストロークのバイクは、新たな兄弟姉妹が産まれ出ない、その当時の生き残り達。

 2ストロークのエンジンは、4ストロークエンジンの構造に比べれば単純で部品数も少なくて済む。

 エンジンルーム内で回転するピストンが最高地点に届けば、圧縮された混合気体はスパークプラグを着火源とした爆発を発生させ、カムが回りその力をチェーンでもって後輪に伝える。

 吸気と爆発、排気。吸気と爆発、排気と、ふたつの動作が繰り返されるのが2ストロークと呼ばれる所以である。

 このふたつの単純な繰り返しによるパワーの発生が、2ストロークがピーキーなエンジンと言われる所以でもある。


 そしてYPVS、

 キーをONにした時、シートの下あたりからさっき聞いたサーボが動くの機械音は、YPVS作動音でありチェック音(自己診断機能)で、何が気分が高まる感じ。『さあ行くぞ』って。


 コイツは、当時の時代を反映したレーサーレプリカの業界内では最初期的な位置になるけど、見た目よりも前傾姿勢が求められるシートポジションは、少し優しく無い。

「このVTのマフラーと外回りも少し見ておくから、」

 グッチさんはラジエーター以外も見てくれるそうだ。


 僕はシートを跨ぐ形で立ち上がり、折り畳まれたキックスターターを足裏で出せば、後に円を描くかの様にキックバーを踏み込む。


「パパァーン、パラパラパラ、、、」

 強い力を必要とする事無く、エンジンは掛かった。

 グッチさんのTZRのマフラーであるチャンバーは、純正の物では無い。

 TZRに取り付けられる純正チャンバーは、黒光りする塗装がされている。

 だけどこいつは黒く無い。

 切り出された鉄板が円柱状に溶接されて作られた、どこかの社外品(メーカー純正以外のパーツ)だ。

 それに熱で着いた独特の焼き色がカッコいい!


 だけどグッチさん“慣らし”運転なのに、社外製のチャンバーでいいの?



「よし、行ってこい」

 僕はグッチさんに送り出されて、アクセルを少し当て、ゆっくりと1速スタートに合わせる。

 クラッチを繋ぎアクセルを開けば、そのままいい感じで反応し走り出す。

 クラッチはその範囲が広いと言うか、エンストせずに発進させる優しさを感じる、、、凄く簡単って事。



 少しだけ、一瞬だけ、アクセルの開きに対する車体の反応が遅く感じてしまうのは、排気量、パワーのせいだ。それでも問題無く、加速は続く。

 スロットルを抑えつつ2速へ、余り引っ張らずにサード、その流れのままに4速へ。

 スムーズなシフトチェンジにスムーズな加速。

 グッチさんはレストア中だと言っていたからか、新品と思われるギヤもチェーンも音を立てない程にスムーズだ。


 無理な引っ張りや、最高速度を目指す分けではないからな、真っ直ぐに走り抜けれるこの道で、そして引っ張り切らずに5速へ、トップギヤだ!


 トップカウルの透明なフードに身を隠し、大きくは無い車体は空気に溶ける。

 カウルが無かったら、風圧が大変だろう。

 250ccの車体だと160kmを過ぎると車体のブレ、風圧の影響が現れ出す。

 ダッシュ時に優位な車体の軽さが、高速での安定性の欠けになってしまう。それは高速走行時にはハンデキャップに感じてしまう。


 2ストロークのTZR、僕の愛車であるVTとは全く違ったフィーリング!

 シートポジションが低く、タンクに預ける体のバランスが違う。

 シフトダウンしアクセルを開ければ、引っ張られる様な加速が味わえる。

 この加速とマシンの挙動は、車体重量を軽く感じさせる。

(VTとTZRの実際の乾燥重量差は、約15kg程VTが重い。)

 チャンバーからは白い煙を吐き散らし、甲高い排気音と共に疾走する。(近所迷惑!)



 コーナーに差し掛かれば車体の垂直さを意識して、ブレーキレバー(前輪)とフットブレーキ(後輪)は気持ち強めに同時に掛ける。

 前輪の右側には大きなブレーキディスクがあり、後輪にもディスクブレーキが備わっている。


 思い切った突っ込みも応えてくれそうな、コイツが持つ制動力が分かる。

 そしてコーナーリングのラインへは滑らせでもする様に、難なく車体は向って行く。


 これはアルミフレームの重量の軽さに加えて曲がり剛性を持ち、YPVSによるいい感じでのエンジン出力を保つ能力が合体している事は大きい。

 ストレスを感じず、変な恐怖感を持たずに、狙ったラインへ車体を滑り込ませられる。

 例へそれがハイスピードの状態であっても、今と近い能力を発揮するだろう。


 初めてで、ちょっと乗っての時間だけど、乗り易い。誰もが私設レーシングライダーと成る事を可能にしてくれる。


 確かに甲高い音を立て、低速でアクセルを捻れば2スト特有とも言えるギャップの様な加速を繰り返す。

 前傾姿勢となるポジションは、お世辞にも体勢としては楽ではない。

 だけどそれらを補うだけの扱い易さ、乗り易さは車体との一体感を受け易い。

 まあそれは、総合的に一般道を走る為のセッティングからなんだろう。いや、公道であるからこそ、そうじゃないとダメなんだ。


 YPVSの制御となるが、ストレス無く高回転まで回せるエンジンは、長い距離を乗り続けても過度な疲労とはならなそうに感じる。

 軽い車体は、峠や街中でもヒラリヒラリと高い運動性を適えてくれるだろう。

 ただただ何も考えずに安心してアクセルを開けられる。

 ブレーキングにしても問題なんて無い。



「どうだった?」

「ええ、凄く乗り易いです。」

 率直な感想だ。

「2スト特有の、少し構えて乗る感じも薄いですし、ちょっと長い距離でも乗り続けられそう。」

「まあ、市販車のセッティングだし、YPVSの賜物だな。それと俺の整備の腕だな。」

 僕は黙って頷いた。


「お前のVT、ラジエータのクーラントは全部入れ替えておいた。マフラーは一回バラすか、取り替えだな。足回り(フロントフォークとリヤショック)はヘタリが多いから、そこはまた別の機会にしよう。部品が揃ったらな。」

 グッチさんは、僕のバイクの今後のメンテナンスについても診てくれていた。

 だけど僕のVTのパーツはもう、多分メーカー在庫には無いだろう。


 僕は嬉しかった。

 バイクに関してお世話になる、助けてもらえる場所が見つかった!

 親父(オヤジ)、もっと早く教えてくれよ。



「グッチさん、『モトハウスグッチ』ってもしかして?」

「ああ、気付いた?」


 バイク屋『モトハウス・グッチ』の屋号はオーナーである野口さんが憧れたイタリアのバイクメーカーである“Moto Guzzi(モト・グッツィ)”と掛けているんだって。



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