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瑠璃子とバイクと僕の物語(マン島TTへの想い)  作者: タマツ 左衛門之介久


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ep.4 瑠璃子のガレージ〜彼女の父の愛車

「正雄、ちょっとウチまで来られない?」

「えっ、どうかしたの?」


 瑠璃子からの突然とも言える呼び出しだった。

 何か急ぎの用事なのかな?

 先日ご訪問した時に何か忘れ物でもしたか?

 そうでないとして、僕を呼び出す用事って?

 僕はバイクで瑠璃子の家に向かった。


「父にね、長く家を空ける時には時々車とオートバイのエンジンを掛けて欲しいと言われてるの。」

「いつもだと母がやってるみたいなのだけど、ウンともスンとも言わないって。」

 瑠璃子のお父さんはオーストラリア人で、仕事の関係上1年の半分近くを向こうで過ごす事も有るそうだ。

 そして長い期間だと、2〜3ヶ月程帰って来ない時もあると。



 瑠璃子の家に着くと、ガレージの正面が4面共、全面開いている。

 車を4台は余裕で入れられる大きなガレージ。

 この中に何が停められているのか見たかった。

 皆んなそうでしょ、閉められてるガレージの中身って何が入っているのか?どんな車が並べられているのか?想像するだけでワクワクする。

 それがお金持ちの家のガレージだったら尚更にね。


「あっ、何も考えずにバイクで来ちゃった。」

「何か不都合でもあるの?」

「いやぁ、瑠璃子のお母さんに暴走族だとか不良って思われちゃうかも。」

「正雄は不良なの?」

「へっ、瑠璃子はどう思う?」

「そぅねぇ〜、不良っていうには見た目は普通だし、正雄の言動も不良っぽくないと思うけど。」


「いやさぁ、自分が不良でないと思っていても、それって他人の判断とか人の評価だと思うし。僕を見た人が『コイツは不良だっ」て思われちゃったら、僕には不良のレッテルが貼られる事になると思うんだよね。」

 そうは言っても、真面目な学生だとか言えないし、善人なんかはほど遠い。

 だけど、瑠璃子のお母様に対しては特別だ。

 先日の“極僅かな”とも言える僕の評価点が皆無になっちゃうから。

 それとは別に知らない誰かに、一方的に不良扱いをされるのは気に入らない。

 こんな捻くれ者でゴメンネ。

「まあ、正雄が不良かそうでないか、どちらでもいいけど。それは私の気持ち次第でしょ、私がいいのであれば、それで良し。」

「ああ、瑠璃子さんありがとう。」

 僕の女神様。


 僕は瑠璃子と揃ってガレージに向かった。


 白いセダンは瑠璃子のお母様が乗る車なんだろう。

 2台が収まるスペースは空いていて(瑠璃子の赤い車(メルセデスのSLタイプ)は、離れ近くに乗り捨てる様に雑に停められている)、その先のガレージの左角の奥の深緑色した車の手前に真っ赤なバイクがある。

 以前瑠璃子が話してくれた通り、赤色で大きなカウルが付いているバイク。

 少し遠目で見てもすぐ分かる、ドゥカティだ。

 そのドゥカティを後目に、、、



「正雄さん、あっちの古いポンコツなんだけど。」

 ガレージの奥に停めてある深緑色の車体、トヨタのレビンだ。

 それも古い型のTE27!


 ツードアで黒いオーバーフェンダー、カッコイイ!

 少しホコリを被っちゃってるけど、程度は良い。

 まあ、塗装は全塗装されてると思うけど、オリジナルの色がしっかりと再現されていそう。


「はい、ちょっと見てくれない?」

 瑠璃子にキーを渡され、ドアを開ける。

 『カヂャ』とドアノブが立てる音は時代を感じちゃうけど、そんな音でさえ機械的な響きが凄くいい!


 シートの作りも今と違ってすごく簡素。

 合成皮革のシートは張り替えられているのだろう。

 だけど後座席の背には、ロールバーが入ってる。


 ハンドルもシフトノブもレーシーさを感じる物に代えられている。

 シートに座りエンジンキーを回す。

 スターターは確かにウンともスンとも言わない。 

 

 エンジンの方は、まあ単なるバッテリー上がりだな。


 ボンネットを開けば、やっぱり!ストラットバーが付いてるし、すごいパイピング、大分手が入れられてる。

 吸排気系だって、マニホールドから換えられているし、なんだかヤバイ!


「瑠璃子、この車はバッテリーが上がっちゃてる。瑠璃子の車を前向きで、ここまで乗って来てくれない?」

 このレビンの後ろの棚には多くの工具が並んでいる。

 ほら、ブースターケーブルもしっかりある。


 瑠璃子が運転して来た赤いSLタイプをレビンの鼻づらギリギリで停めてもらった。

 瑠璃子の運転は上手だ。


 向き合う形となった2台のボンネットを開け、瑠璃子の赤い車とこのレビンのバッテリーをお互い繋いで、

「瑠璃子さんエンジン始動させて、あっ、シフトレバーの位置を確認してから!」

 実は有りがちな事なんだけど、バッテリー上がりで近付けた車のエンジンをそのまま切って、バッテリー用に始動を待っている事があったりするから。

 キーを回した途端シフトレバーが入れっ放しだったら『ドスン』って、前方車両に突っ込んじゃう事が有る。


 レビンのキーを回せば、難無くエンジンはスタートする。それに合わせて少し甲高く感じる排気音がした。

 やっぱり、マフラーや排気系も組み替えられてる。

 全く瑠璃子のお父さんって、どんな趣味してんだ?



「瑠璃子さん、こっちは?」

 もう、この開けられているガレージを見た瞬間から僕が興味をそそられた赤いバイク、ドゥカティの900MHR!

「ああ、こっちのオートバイも古いポンコツね。」



「コレ、父のオートバイなんだけど、母がスイッチを押しても何にも動かないって。」

 このバイクには後付なのか、最後期型なのか?セルスターターが付いている。

 僕は瑠璃子からキーを預かった。


 全体に薄っすらと掛かる埃を近くのウエスでそっと落として、ジーンズのベルトを確認してシートに跨る。ベルトの金具で傷付けちゃったら大変だ。

 キーを差し込み“ON”へ回してもコンソール部のランプ類の反応は無い。当然セルボタンを押しても回らない。

「まあ、こっちも単なるバッテリー切れだね。ちょっと動かしてもいい?」

 

 ドゥカティSS900MHR(マイク・ヘイルウッド・レプリカモデル)、イタリア産だ。瑠璃子お父さん、いい趣味してんなぁ。

 一つ目の真っ赤なロケットカウルにアンダーカウル部分の緑色はマイク・ヘイルウッドがマン島を走った時のスポンサーオイル会社の名残りであり、この特徴的な塗り分も含め一発でこのバイクだと判断が付く。


 この車体はシングルシートカバーに加え、4つの穴付のサイドカバーがあるから1983、84年、後期のモデルだろう。

 しかし、とにかく状態がいい!目立つ錆も無いし、大きな破損部も引っ掻き傷もオイル漏れも無い。

 フルレストアなのかな?


 ステップの先を触れば擦った跡が有り、後輪タイヤの角の減り具合から、瑠璃子のお父さんってそれなりに攻めるライディングをしている事が分かる。でもコレでの転倒は無さそうだ。


 前ブレーキを握りつつ、センタースタンドから押し出す。重い。

 僕はそのまま、瑠璃子の父親のバイクを押すが、、、ハンドルが低く、切れ角が、取り回ししずらい!なんとか薄暗いガレージから日の当たる場所へ移した。

 陽の光の下に出るとドゥカティ独特の赤色と渋く感じるグリーンが鮮やかに輝きキレイだ。


 瑠璃子の家の敷地内は、道路側からガレージまでコンクリートの舗装がされているので、このドゥカティを押し掛けする場合の距離としては十分だ。

「正雄、何するの?」

「うん、バッテリーが上がってるけど、エンジンを掛けようと思って。」

 瑠璃子は少し不思議そうな顔をする。


 少し小さくキィキィシャカシャカする音はチェーンのシール剤が固まっているのか、リムの中心部のオイルが固着しちゃってるのか?

 ガレージの横辺りに車体を押し進め、出入口となる道路に向かう形を取った。

「ふぅ~、流石に900ccは重いな。」フルタンクだったらもっと重く感じるだろうけど。

 道路側に向かう事にしたのは、大体住宅の敷地って、雨水を逃がす為に外に向かって傾斜を取る事が多いから。


 

 先ずはゆっくりと右足裏でキックバーを押し踏み、ピストンの位置を確認する。

 一度キックでの始動を試す。

 やっぱり固いというか、重いというか。

 Lツインのエンジンは、ヤマハのSRのエンジンがふたつ並んでいる様なモノだから、人様のバイクでのキックスタートがちょっと嫌な感じ。


 僕はキックスタートは早々に諦め、別の方法を取る事にした、

 キーは入れっ放しで、ギアはニュートラル(ちょと入り難い)、ドゥカティのシートに腰を当てる感じで押し出し、横並びに走り出す。

「よっと、」

 強くシートに跨ぎ乗り、後輪に負荷が掛かった瞬間に一速に踏み込みクラッチを繋ぐ。

「ズドドドドドォォォ、、、ドゥッドゥッドゥッ、、、」

 クラッチ、重かった。

 ドゥカティ独特の低く太い排気音が響き出す。思ったよりローキアが低かったので、二速でも良かったかも。


 ふぅ〜一発で掛かったから良かったよ。

 流石にこの車体で何度も押し掛けするのはシンドイだろう。

 キックスタートも、ちょっと嫌だったし。

 外観に限らず、中(エンジン)も良さそうだ。

 う〜ん、この伝わる振動!なんとも言えないなぁ!


 

「えっ、何でエンジンが掛かったの?」

「キック式のスターターも有るけど」

 慣れない車体でキックしてケッチン(大きな負荷(ピストンが大きいとか)からの蹴り返しの勢いが強く、跳ね返る様にキックバーが足に当たる事。スネとかふくらはぎに当たったりしたら、泣く。)を喰らいたくなかったから。


「正雄、魔法なの?」

「『押し掛け』って言って、車体を押して直接エンジンを回転させるんだ。点火のタイミングで“カツ”を入れればエンジンの始動に繋がる。ちょっと古い車(ガレージ内にあるTE27レビン)でも出来るよ。」

「ふぅ〜ん」

「お父様にさ、コイツに乗る時にはバッテリー交換とタイヤの空気圧をチェックしておいてと伝えて欲しい。」

 僕はこのまま走り出したい衝動を抑えて、ガレージの同じ位置にドゥカティを戻すと、バッテリーコードを外しておいた。



「あっ正雄、そう言えば車の免許持って無いでしょ。」

 はい、持ってません。

「車のエンジン掛けさせちゃった。」

「うん、免許は持って無いけど、親父(オヤジ)からの手解きは受けてるから。」

「それって何時の話し?」

「うん、初めて(車の)クラッチを繋いだのは小学5年生だったけど、中学生からはキチンと教わったよ。」

「小学生、中学生って車の運転しちゃダメじゃないの!」

「うん公道ではね。無免許運転になっちゃうから。」


「じゃあ、どんな所で?」

「あー、人がいないサービスエリアとか山頂付近の駐車場とか、山道や峠道とか。」

「山道や峠道って、それ公道でしょ?!」

「まぁね。でも、他に車が走っていない時とかバイクだって誰も走らせていない時とか。」

「オートバイもなの?」

「う、うん。」

「あきれたわー」


「正雄のお父さんって、ワルなんじゃない?」

 僕の父親は不良の親父(オヤジ)、その息子も不良少年かな。

「でも、なんだか私が知らない正雄さんの一面を見たというか、知る事になったのね。」

「あ、いや、で、その感想は?」

「そうねぇ~男の子っぽい所が増えたかしら。」


「それより瑠璃子お父さんって何者なの?」

 僕の父親より、バイクや車に関したらよっぽど不良だよ(いい意味で)。

「ドゥカティ、それもMHR!その上ニイナナレビンって、趣味を疑っちゃうよ。」

「なんでぇ?ウチの父のポンコツの車やオートバイって不良が好む物なの?」


「違うよ、凄くいい趣味だよ!あー瑠璃子のお父様に会ってみたいよ。」

 でも実際は、お付き合いをさせて頂いてるお嬢さんのお父様には、出来る限りお会いしたくない。

 185cmを越える大男だそうだし、何を言われるか分からない。とにかく、怖い。


「父が帰ってきたら、正雄を紹介するわ。」

 いや、いやいやいや!

「いや、ちょっと待って!」

 ちょっと待って!

 この間お母様をご紹介頂いたばかりだし、引き続きお父様なんて!


「どうしたの?」

「いや、だって心の準備とか、」

「正雄なら大丈夫よ、気難しい母とも無事に挨拶を済ませたじゃない。」

 いやいやいや、


「あー、向こう(オーストラリア)って、娘の交際相手をお父さんに紹介する文化は無いでしょ?」

「どうかしら、そんな事が有っても良くてよ。」

 いや、無い。そんなシーンを観た記憶が無い。

 あれ?息子が父親に彼女を紹介する、逆のシーンは有ったか?


「そうね、そうしましょう。」

 何が、どうなった?

「父が帰って来たら、直に正雄に会わせる。約束するわぁ。」

「いや、その約束ちょっと待って!」

 僕は狼狽える。

 だってそうでしょ、交際相手の父親にはやっぱ結婚の了解を得る時とか、いや、ドヤされる時だったりして?!


「正雄なら、きっと大丈夫よ。」

 いや、待って!





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