第964話 救出後ですが何か?
アーサとミザールの危機を助けたのは、リューとリーンだった。
煙で敵の視界を奪い、『次元回廊』で脱出、無事、マイスタの街の街長邸まで戻ってきた。
「ふぅ。かなり大変な場所だったなぁ。──二人には無理をさせたね、ごめん」
リューは、アーサに背負われたミザールの姿を見て、謝った。
そのリューも負傷しており、マジック収納から特製ポーションを取り出すと、ミザールにかける一方、自分でも飲んだ。
「若様、怪我したの!?」
アーサは、慌てた。
彼女としては、リューの為に働いている身として、自分達の為に怪我をさせる事になるのは不本意だったからだ。
「あの娼館、罠だらけでさ。魔法封じの結界を三重に張っているうえ、毒を仕込んだ仕込み矢が壁や天井から飛び出してくるし、潜んでいる敵は多いしで、さすがに僕も怪我は避けられなかったよ。──ちょっと、待って。毒が回ってきた」
リューは、説明を中断すると、次はマジック収納から解毒ポーションを取り出して飲む。
「あれ、効かないな……。──という事は、こっちか……」
リューはふらつきながら、違う解毒ポーションを飲む。
「リュー、新しいのを飲んでみたら?」
リーンはリューの顔色が悪くなっていくので、『魔境の森』の奥地、『闇の森』で入手した毒草を基に作った解毒薬を勧めた。
リューは、頷くと、震える手でマジック収納から新薬を取り出し、飲み干した。
リーンに支えられて膝をつくリューだったが、ようやく顔色が良くなっていく。
「若様、大丈夫……?」
アーサもリューを心配して顔を覗き込む。
「ようやく効いてきたみたい。──驚いたな、『屍人会』が使用する毒薬はかなり特殊みたいだ。研究開発部門が作ってくれた解毒薬は、使う場面がないかもしれないと思っていたのに、いきなり、活躍してくれたよ」
リューは、体調も回復してきて立ち上がった。
少しふらつくが、即効性のある薬だから、回復も早い。
そこへ、屋敷内から、ランスキーが飛び出してきた。
「若、大丈夫ですか!? ──お前ら何をぼーっとしてやがる! 医務室までアーサ達を運べ。俺は、若を運ぶ!」
ランスキーは、リューを抱き上げると、周囲の制止も聞かずに、医務室まで運ぶのだった。
アーサは、ほぼ無傷だったが、ミザールの方は、負傷と毒に冒されていたので、リューが使用した解毒薬を使用して治療を行った。
どうやら、強い毒耐性を持っていたミザールは、長時間耐える事ができていたようだった。
リューは、大丈夫だからと、ランスキーを説得したが、リーンも自分を庇って負傷したリューを心配し、休む事を勧めたので、言う通りにした。
隣のベッドには、ミザールが寝ている。
「……ミザール、目が覚めたみたいだね。相談役の君には無理をさせたね。体を張ってアーサを守ろうとしたんでしょ?」
リューは、すでに回復していたが、ミザールと話せる機会だったので横になっている。
「若様、無理をするというのも、良いものですな。年甲斐もなく張り切ってしまいましたよ」
ミザールは、冗談めかして言った。
「アーサが心配していたよ。『おじいちゃんに無理をさせた』って」
「ふぉふぉふぉっ。人の為に命を張るのは初めてでしたが、悪くないですな」
ミザールは充実した様子を見せた。
暗殺ギルド時代は、淡々と殺しを行い、完璧な仕事を行う事で良しとしていた。
人を庇うなどありえない事だったが、リューの悲しむ姿を想像すると、老骨に鞭を打ってもアーサは守らないといけないと思ってしまった。
それは暗殺者としては不要な感情とも思えたが、気持ちは充実している。
「アーサもだけど、ミザールも大事な家族だからね? わかっていると思うからしつこくは言わないけど、どんな死地でも最後まで生きる可能性を諦めないで」
リューは、毎回自分で、誰かを助けられるとは思っていない。
実際、部下の中には、命を落として散った者も少なくないからだ。
だが、自分だけでなく、家族や仲間が助けてくれると信じて最後まで諦めない気持ちは、全員に捨ててほしくなかった。
「そう言われると思ったので、頑張れましたぞ。ふぉふぉふぉっ!」
ミザールも伊達に百年以上生きていない。
それでも、リューの言葉には、年甲斐もなく胸を熱くしてしまうのだった。
「アーサ、外にいるんでしょ、入ってきて」
「はい、若様」
リューが医務室の外に声をかけると、アーサが入ってきた。
「アーサも無理をさせたね。予想以上にあの娼館は、罠だらけだったから、二人だけに向かわせたのを後悔したよ。僕の落ち度だ、ごめん。それに、敵が使用している毒もかなり特殊なものだった。『魔境の森』の奥地で手に入れた毒草から作った解毒薬で、ようやく効果があるくらいにね。次からはあのレベルの罠を想定して、解毒薬、罠対策も十分にしておこう」
リューは、反省してすぐに対応策も練る事を約束した。
「若様、仕事をやるうえで、想定外の事は当然あるよ。それに対処するのがボク達専門家だから、気にする必要はないって。──ね? おじいちゃん」
アーサは、体を起こしたミザールに声をかける。
「そうですぞ、若様。一度経験したら、次での失敗はありえないのでご安心くだされ」
ミザールも孫ほどに年齢が離れているアーサを高く評価していたから、素直に同意した。
「二人とも、リューが助けに行かなかったら危なかったのは事実なんだし、力不足を反省しなさい。専門家だからといって対応できずに死んだら一緒でしょ」
ここで、リーンが元も子もない叱責を繰り出した。
「「それはごもっとも……」」
これには、プロ中のプロであるアーサとミザールも、ぐうの音も出ない。
リューは苦笑するのだったが、終わり良ければ総て良しで良いじゃない、とフォローするのだった。




