第947話 日常に戻りますが何か?
アニマーザルの街で送別の宴が行われ、リュー達は街の英雄として見送られる事になった。
ただし、今生の別れというわけではない。
祖父カミーザと長であるライガの間では、秘術の成功の為に、古代獣人族で魔法に長けている者達を派遣する事になっている。
その先遣として、シャームが同行した。
リューの『次元回廊』により、ランドマーク本領へ一瞬で到着すると、シャームはまず、目の前に現れた建造物、ランドマーク城館に目を輝かせた。
「凄い! こんな大きくて緻密な建物、アニマーザルにはないものだわ。──リュー、この中に人が住んでいるのよね?」
「ここは領主である父さん達の城館だよ。領民の住んでいるところは後ろ」
リューは、シャームが城館に目を奪われて、周囲に気づいていないから、肩を叩いて後ろを見るように促した。
シャームはそこでやっと、丘の上から眼下に広がるランドマークの街並みに気づいた。
「……ここがリュー達の街……!」
シャームは、地形に合わせて広がる綺麗な街並みに、また目を輝かせて感動した。
「良い眺めでしょ? 普段は毎朝ここに来たら、街を眺めてから仕事をするんだ。ここのところは、来れていなかったけど」
リューは自慢げに答えた。
途中まではリューやリーンが魔法を駆使して城壁や建物、道を手掛けたが、そのあとは、ランドマーク家と領民達によって、発展を続けている。
人口も増加中で、カミーザとリューで地形を考えて築いた城壁も、手狭になりそうなくらい、施設や家が立ち並び始めていた。
「アニマーザル以上の街は、魔境の森の奥深くにしかないと思っていたけど、氷の森や闇の森を越えた先にこんなところがあるなんて思わなかったわ……」
シャームは感動の溜息を吐く。
「ここも、大きいとは言えないけど、いい街でしょ? 僕の自慢なんだ。──って、魔境の森のさらに奥には、他の街があるの!?」
リューは一瞬、シャームの発言をスルーしそうになったが、思わず聞き返した。
「え? うん、アニマーザル以外にも街はあるわよ。と言っても、交流もほとんどないし、気づいたら滅んでいるなんて事もざらだけどね」
シャームは不思議そうな顔をした。
「……それはつまり、古代獣人族は他にもいるって事?」
「ええ。他に、魔族と呼ばれる種族もいるみたいよ。決して仲良くはないから接触する事もないけど」
シャームは肩を竦めて見せた。
「「「魔族!?」」」
これには、リューだけでなく、カミーザ達も驚く。
「お互い魔境の森で生き残るのに必死だから、長い間、接触せずにいるの。私も祖父から聞いた話だけど、会った事はないわよ?」
「「「……」」」
人族と魔族には深い因縁がある。
魔族は人族を滅ぼす事に時間をかけてきたし、実際、今でも、魔族が存在する暗黒大陸と人族の国の境界線では、残酷な事件が起きているという。
とはいえ、暗黒大陸は海のはるか向こうにあるので、リュー達の国にとっては縁遠い話だと思っていた。
しかし、魔境の森の奥地にも魔族が住んでいるとなると、警戒はするべきかもしれない。
「みんなお帰り! ──うん?」
そこへ、知らせを受けた父ファーザが、長男タウロと共に城館から出てきた。
二人は家族の無事に安堵した様子を見せていたが、シャームの姿を見て、興味を惹かれた様だ。
すでに、カミーザの土産話で古代獣人族の話は聞いていたから、狼狽する程驚くような事はないが。
それでも、聞いていた通りでも、獣の姿ながら、人と変わらない出で立ちに目を奪われた。
「ただいま! こちらは、古代獣人族でお世話になったアニマーザルの街の長のお孫さんで、シャームだよ。今回僕達、彼女に命を救われたんだ」
リューが、シャームを紹介した。
「初めまして。リューやカミーザ殿にはお世話になっております」
シャームは礼儀正しく、頭を下げる。
「うちの家族がお世話になりました。ここでは何なので、中へどうぞ」
ファーザは、一目見ていい子だとわかったのか、シャームを城館に招く。
「じゃあ、僕達は一旦、マイスタの街に、みんなを送り届けてくるね」
リューは、シャームの事は家族に任せ、研究開発部門のマッドサインや農業部門のタガヤ達部下を家に帰す為、『次元回廊』に飛び込むのだった。
「リューはいつもあんなに忙しいの?」
シャームが呆れた様子で、カミーザに聞く。
「わははっ! 孫の中でもリューは、家族の為にいつも何かやっているからのう」
カミーザは笑ってリュー達のいた場所を微笑んで見つめるのだった。
リューは、マッドサイン、タガヤ達部下をミナトミュラー商会本部まで送り届けると、マイスタの街長邸まで戻った。
執務室の机の上には報告書等が少し積まれていた。
「若様、お帰りなさいませ。先程、王都から『屍人会』討伐失敗についての報告書を求める使者が来ていました。もう帰られましたが……」
執事マーセナルが、その書状をリューに差し出す。
「宰相閣下直筆のサインじゃん! ──国も密かに許可を出した手前、ルトバズキン公爵の失敗については詳細を知りたいのはわかるけど、何で僕……?」
詳細については、指揮を執っていたヤリク・シリアズキン伯爵が説明すると思っていたから、それを補足するような意味での報告書だけは提出していた。
どうやらヤリクは報告書を提出していないか、簡単なものだったのかもしれない。
「うーん……。ヤリク殿が僕に丸投げした可能性もあるな……」
リューは溜息を吐く。
「私も手伝うから、さっさと終わらせましょう」
リーンが袖をまくる。
二人は早速、作戦失敗の極秘報告書をまとめるのだった。




