第945話 失敗と成功ですが何か?
ヤリク・シリアズキン伯爵が指揮する『屍人会』襲撃作戦失敗の報は、その日のうちに各方面に広まる事となった。
襲撃の舞台となったエラインダー公爵派閥の領主達は、当然、ルトバズキン公爵に対し、非難の声を上げた。
事前に連絡を受けたとはいえ、それは作戦直前のもので、断りようがなかった、とである。
この為、エラインダー公爵が派閥の長として、どういう声明を出すのか注目された。
ルトバズキン公爵は、あくまでも『屍人会』という国内裏社会の怪しい最大組織の殲滅の為とし、幹部一人を殺害した事を成果であると発表した。
だが、その代償として、被害が大きかった事もあり、クレストリア王国の軍神とも称されるルトバズキン公爵にも陰りが見えてきたと噂されはじめる。
特に、指揮したヤリクは、父ルトバズキン公爵に似て優秀な武人だと噂されていたので、今回の失敗で大いにその実力を疑われる事となった。
また、そこに参戦したリューの評判も同じである。
これまで、ランドマーク家の与力として、王都では飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、今回の失敗の原因の一つがリューにもあると、失敗を喜ぶ一部の貴族達が、騒いだのだ。
だがこれは、すぐに、沈静化する。
幹部を討ち取ったのが、リュー本人だとヤリクが声明を出したからだ。
さらに、『屍人会』が死体を操る集団であるという情報を、これまで秘匿していた王家が発表した。
そして、前回の『屍黒』同様、『屍人会』にも同じ『広域危険団体』に指定して、撲滅を図る事になった。
これには、ここぞとばかりルトバズキン公爵の強引な襲撃作戦を批判していたエラインダー公爵派閥貴族も、閉口するのだった。
一週間後。
エラインダー公爵が声明を出した。
世間に今回の一件がある程度広まった頃合いだった。
「裏社会の組織を野放しにしてはいけない事は、理解する。しかし、その取り締まりの為に、手本となるべき貴族が、法を破るという事には同意しかねる。我が公爵邸が数か月前、全焼する事件が起きた。犯人は未だ捕まっていないが、これも裏社会に関係する者の仕業と睨んでいる。しかし、犯人を捕まえる為に、強引な調査を行うつもりはない。貴族にも法を厳守する義務があるからだ。今回、ルトバズキン公爵の子息が、我が派閥の領内に軍を差し向け、強引な襲撃作戦を敢行した事で、貴族達の名誉は、大いに傷つけられた。いくら公爵家に大きな裁量権があるにしても、これは大いに問題である。しかし、ルトバズキン公爵も臣下として王家の為に働いた結果の失敗だろう。私は今回、被害に遭った貴族達を見舞い、説得する事で、訴えを取り下げさせる事にした。ルトバズキン公爵には、被害貴族達に対し、誠意を持った対応を示してもらい、問題の鎮静化を図ってもらいたい」
エラインダー公爵は、ルトバズキン公爵の行為を非難するが、大目にみるので、うちの貴族に補償しなさい、という態度を見せた。
最近、エラインダー公爵の評判は王都で下がっていたので、寛大な反応に、民衆も一部考えを改めて評価した。
つまり、ルトバズキン公爵の一人負け扱いになり、同時に、エラインダー公爵に貸しを作った形である。
ルトバズキン公爵は、エラインダー公爵の仲裁を歓迎する、と声明を出すのみだった。
これにより、ルトバズキン公爵に対し非難轟々のはずだった被害貴族達は面目を保たれ、またも、エラインダー公爵が間に入って事で問題は収まる事になった。
バシャドー街の執務室──。
「ルトバズキン公爵は、いろんな意味で、心臓が強いね。悪い評判が立っても気にしないみたい」
リューは、両者のやり取り結果に苦笑した。
「被害を訴えている貴族って、結局、『屍人会』を放置している駄目貴族って事でしょ? そこを指摘すればここまで、ルトバズキン公爵も評判を落とさずに済んだと思うのだけど?」
リーンが、もっともと思われる事を指摘した。
「メンツよりも、国が乱れる事を避けたという事じゃないかな。西側の隣国と戦になりかねない状態だし、東側も帝国との戦が終結したばかり。新たな国境沿いは荒れているから、公爵同士で揉めるのを避けたんだと思う。本当は、作戦を成功させて問題を解決し、強引に幕引きを図るつもりでいたんだろうけどね」
「でも、ルトバズキン公爵は、エラインダー公爵に不信感を抱いたわけよね?」
「これまで、国内の問題についてはほとんど口を出さず、諸外国の動向だけに目を向けていたわけだけど、それも、国内が安定していないと成立しない。ようやく、エラインダー公爵の動向に疑いの目を向けてくれる事になったと思う」
「それもリューの狙いでしょ? ここまであいつの対抗勢力を作る為に、各方面に働きかけを行ってきたわけだけど、それが実を結んできたという事かしら?」
「だと良いかな。ルトバズキン公爵本人には会った事がないから、人物評価を下せないんだよね。息子のヤリク殿に似ているらしいけど、まだ、はっきりとは想像できないなぁ」
リューは楽観視していない。
それだけエラインダー公爵の勢力が巨大だからだ。
ルトバズキン公爵は自身の正義を掲げて動いており、それがリューと重なればよいが、違えば、敵に回る可能性もある。
今はエラインダー公爵の動きに疑問を持ってもらえれば御の字だった。
「それでどうするの? 『屍人会』はほとんど被害を出さなかったわけだけど」
リーンが現実的な話に戻った。
「でも、お陰で色々と情報は取れたと思うよ」
「どういう事?」
リーンは疑問符を浮かべた。
「ランスキーとサン・ダーロには情報収集を徹底させていたからね。今回の襲撃作戦を外から観察してもらっていたんだ」
リューは、机の上に積まれた報告書の一つをリーンに渡した。
「これって……、各地に放っていた部下達の報告書?」
「うん。一旦、バシャドーに報告書を出してもらったんだ。お陰で、襲撃前に避難した幹部や兵隊を泳がせる事で、見つけられずにいた他の拠点を発見できたみたい」
「人様の軍隊の失敗を利用して、狡猾な事をしていたのね」
リーンは呆れるしかない。
「ただでは倒れないだけだよ? でも、これで、『屍人会』に確実な打撃を与えられると思う。ここからは裏社会のやり方で行くよ」
リューはニヤリと笑みを浮かべるのだった。
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