第943話 作戦決行ですが何か?
『屍人会』同時襲撃作戦当日の朝。
まだ、陽は明けておらず、静寂に包まれた空には闇が広がっている。
そんな中、緊張と、殺意に包まれたヤリク・シリアズキン伯爵が総指揮を執る各部隊が各地で動き出していた。
鶏が早い朝の時を知らせようと、鳴き始めた。
それが合図となった。
『屍人会』の各事務所に、部隊が突入する。
ちなみに、ヤリクとリュー達は、ライトアム侯爵領の領都に潜入し、『屍人会』本部と思われる大豪邸に突入していた。
見張りのいる門からは突入せず、塀に土魔法で階段を作って静かに潜入である。
ヤリクは、『神槍』という異名を持つだけあり、敷地内の見張りの一部を槍で一閃して声を上げさせる事なく、仕留めて見せた。
今のところリューの出番はなさそうだ。
情報では、屋敷の大扉には結界が張られ、窓も結界が張られた鎧戸で夜の間は閉じられている。
そこで考えたのが、壁の一部を破壊するというものだった。
これは、リューが提案したものである。
昔、前世のTVで、強盗が頑丈な扉を避け、手薄な壁を破壊して押し入った事件を思い出しての事だった。
ヤリクは目から鱗とばかりに感心して、その案を受け入れて実行した。
この作戦は、ある意味、功を奏した。
というのも、襲撃作戦自体は筒抜けだったのだ。
だが、扉や窓からではなく、壁を壊しての奇襲だったので、敵も意表を突かれる形となった。
ヤリクは、室内でも槍を使いこなしていた。
槍を短く持ち、突くという行為に徹して、溢れ出てくる敵を仕留めていく。
リューは、リーンのみを連れ、ドス『異世雷光』を振るって、ヤリクとは別方向に進んだ。
広い屋敷で目指すは、ボス・ヒューマのいる寝室だが、リューはそうしなかった。
寝室は二階の奥である。
ヤリクは部隊を率いて奥に突き進む。
しかし、リューは地下室に向かった。
二階の寝室までの通路は、案の定というべきか、襲撃を想定してバリケードが張られ、敵が大勢待機していた。
ヤリクは自慢の槍を振るってそれをものともせず突き進んだが、率いる部隊は、一人、また一人と削られていく。
「クソッ! 完全にこちらの襲撃が読まれている……。──リューはどうした!? もうやられたのか!?」
ヤリクは、通路の前後を断たれ、孤立しかけていた。
各扉や窓付近で待機していた敵も集結して、ヤリクとその部隊を打ち取ろうと展開するのだから、当然である。
だが、リューが見込んだ通り、ヤリクは獅子奮迅の活躍を見せていた。
敵はこちらの襲撃を知って罠を仕掛けたにもかかわらず、ヤリクの奮闘に被害は大きいのだから腹立たしい事だろう。
それくらいヤリクは、暴れ回っていた。
その頃、リューはというと……。
リーンと二人、地下への階段を下りていた。
地下の通路にも敵はいたが、地上に比べれば数は少なく、警戒されていなかったのは明らかである。
「こっちで正解なのかしら?」
「地上にボスのヒューマがいるとは思えないからね。まあ、襲撃がバレている時点で、ボス自体がいるとは思えないけど」
リューは、リーンの疑問に肩を竦めた。
「じゃあ、こっちも不正解じゃない」
リーンが『風鳴異太刀』を振るって敵を斬り捨てながら、呆れた。
「それでも、留守を預かる幹部クラスはいるはずだよ? ──ねぇ?」
リューは、地下室の奥の部屋の丈夫そうな扉を『異世雷光』で両断し、室内の敵に声をかけた。
「参ったね。まさか、俺っちのいるここを目指してくる奴がいるとは」
広い室内にいたのは、『屍人会』の幹部の一人『道化師のピエール』だった。
以前、リーンを相手に敗北するも、手管で幻惑し、煙に巻いて逃げおおせた厄介な相手である。
「こいつの相手は私がするわ」
リーンが前に出た。
「いつぞやのエルフの嬢ちゃんか。やれやれ……、俺っちは道化師。力仕事は苦手なんだがね? ケケケッ!」
お腹が出た不健康そうな体つきだが、その身のこなしは軽快で、いつの間にか両手にはナイフが三本ずつ握られていた。
「また、手管の類ね?」
リーンは前回の反省とリューからの助言をもらっていたので、不審がる事もなかった。
「ほう……。やけに落ち着いているじゃないか、ケケケッ。今回は俺っちも一人じゃないぜ?」
ピエールは、腰布を手にすると、それを一瞬で巨大化させる。
そして、それで室内の棚を隠す仕草をした。
次の瞬間、棚に被せた巨大化した腰布が人型に変化していく。
ピエールが、腰布を引っ張ると、棚があった場所に、人が現れた。
リューとリーンが見た覚えがある相手だ。
バシャドーの街で処刑され、埋葬後、死体が何者かに盗まれた『屍人会』幹部、『皆殺しのマーダ』だった。
二メートル以上ある男の目は淀んでいて、死人である事は確かだ。
「バシャドーの街の領主様じゃないか。俺を処刑しやがって、ただで済むと思っていたのか?」
その死体が言葉を口にした。
それも見る限り、自身の意志で話しているように見える。
「死体がしゃべってビビったか? ケケケッ。うちのボスはそういった秘術を使えるお人だからな。マーダ、後は頼んだぜ?」
ピエールは、ニヤリと笑みを浮かべると、丁寧な挨拶をして、その場から去ろうとする。
「逃がさないわよ!」
リーンが、ピエールの逃げ道を塞ごうとした。
ピエールが、手にしていたナイフを、リーンに向かって投げつける。
リーンは想定していたのか、風魔法でそのナイフを巻き上げ、ナイフは天井に突き刺さった。
そのタイミングで、室内の部屋の隅々の埃が風魔法に反応すると、真っ白になって部屋を覆う。
「また、目隠しなんて芸が無いわね!」
リーンは、ピエールの気配を感じて、その方向に刀を振るった。
「ギャッ!」
ピエールの声と共に、手応えを感じる。
リューはその間、黙ってリーンに任せていたが、真っ白になった視界ゼロの部屋で、リーンに迫る気配に向かい、土魔法を繰り出した。
こちらも手応えを感じる。
リューは同時に、火魔法を使用した。
室内に火が広がると真っ白な魔力の煙を一瞬で焼いた。
残っていたのは、リューの土魔法で壁に串刺しになっている『皆殺しのマーダ』と、リーンに斬られ、ピエールの身代わりになった一体の死体だった。
「ここからは死を超越した俺が相手してやる」
自分を壁に串刺しにした岩槍を引き抜くと、マーダが前に出た。
リーンが斬り捨てた死体もむくりと起き上がる。
「時間が勿体ないから、僕も参戦するよ?」
リューが、リーンに声をかける。
「また、逃げられた……。──リュー、すぐに終わらせて上の手伝いに行きましょう」
リーンはまたも、『道化師のピエール』に出し抜かれて悔しそうだったが、すぐに気持ちを切り替えた。
「二人相手でも問題ない。何しろ今の俺は、不死身だからな。そして、新たな力も手に入れた!」
マーダの体に異変が起きる。
大きな体に、腕が追加で二本生え、筋骨隆々になり、さらに大きくなった。
天井に迫る大きさになったマーダは、室内に飾ってあった剣を、四本の腕で掴む。
「「……それで終わり?」」
リューとリーンが、同時に口にする。
「ナンダト?」
変貌したマーダが、不審を口にした。
その瞬間である。
二人は無言で動いていた。
手にしたドスと刀はそれぞれ雷と風の魔力を帯び、それが光の線を引く。
二筋の線は、パワーアップしたはずのマーダを、一瞬で斬り刻むのだった。




