第942話 馬車内での作戦会議ですが何か?
ルトバズキン公爵の領兵を含めた派閥全体の軍を、ヤリク・シリアズキン伯爵が陣頭指揮を執る事となった。
リューは、ヤリクによって引っ張り回され、各地の『屍人会』事務所の位置を確認する。
ほぼ、移動に終始した二日間だったが、その間、ヤリクにランドマーク製、ミナトミュラー製の商品を沢山買ってもらう事ができたので、リューも無駄に過ごさないですんだ。
リーンも、その点では不満もなさそうだった。
リューは、トイレ休憩の間に、マイスタ、バシャドーに戻って、四組織同盟の作戦中止を伝えておいた。
このまま作戦を実施すれば、ヤリク率いるルトバズキン連合軍の『屍人会』討伐の余波で、一緒に殲滅させられそうだからだ。
リューの一言で、『竜星組』『バシャドー義侠連合』『死星一家』は、即座に中止した。
しかし、『聖銀狼会』は、渋った。
いや、バシャドーの街に常駐していた『獣人愚連隊』を率いるレッキスだけは、承諾してくれたのだが、本部が首を縦に振らなかったようだ。
『聖銀狼会』はすでに、『屍人会』との全面抗争に入っており、大規模な襲撃をこの一週間程繰り返している。
それだけに、今さらそれを止めて大人しくするというのは、納得がいかなったのである。
リューは、ヤリクから教えられた『屍人会』の隠し事務所の情報と、自分のところが入手している情報と頭の中で照らし合わせていた。
「……リーンはどう思う?」
リューは、ヤリクと同じ馬車内なので、短く確認する。
「いいんじゃない? 多少の齟齬はありそうだけど、ここでわかったから、それも解消できるんじゃないかしら?」
リーンはリューが何を言いたいのか即座に理解していた。
「うちの掴んだ情報を知っておいて良かっただろう? これで、当日はお互い万全の態勢で襲撃ができるというものだ」
ヤリクはリーンの返事を勘違いしていた。
いや、リーンがそう取られるように答えたというのが正解である。
実際は、ヤリクの情報と自分のところの情報で重ならない事務所があるので、そこはうちで片付けようという確認だった。
「当日は、大変な事になりそうですね。ただ、『屍人会』の本部がありそうなところは、エラインダー公爵の領地、もしくは派閥貴族の領地になるのですが、そちらはどうなさるのですか?」
今回、一番のネックになりそうな事をリューは問うた。
「そんな事は些末な事さ。すでに潜伏させている部隊に強行させる。エラインダー公爵の足元に巣食う裏社会の組織を代わりに討伐してやるのだから、感謝するだろうう」
ヤリクはけろっとした表情で、応じた。
「いやいやいやいや…………(そのエラインダー公爵が組織の背後にいるのを、わかっていないのね!?)」
リューは思わず、内心でツッコミを入れる。
「なんだ、エラインダー公爵が怖いのか? 揉めたら父上が間に入ってくれるから安心しろ」
ヤリクは気にする様子もない。
「ヤリク殿、エラインダー公爵は、国内最大派閥を擁する貴族です。揉める程度ではすまないかと……」
リューは、念の為、進言しておく。
エラインダー公爵とルトバズキン公爵が不仲になるのは、リューとして色々都合がいい反面、大揉めになれば、国が割れる。
内戦になりかねない事態だ。
さすがにそうなると、リューではどうしようもないし、国が乱れれば、ランドマーク家のこれまでの努力も消し飛びかねない。
その辺りの手回しを、ルトバズキン公爵や息子のヤリクがやっているとも思えなかった。
「そうか? エラインダー公爵は話がわかる奴だと、父上は仰っていたが……」
「それは同じ公爵家なので、強く言わないだけでしょう。他の貴族が同じ事をすれば、すぐに潰されて終わり、というのが事実かと……」
リューは遠回しにエラインダー公爵が非情な相手である事を伝える。
ルトバズキン公爵の立場からなら、話がわかる相手と考えるのも当然だろう。
地位的にも勢力規模的にも引けを取らない立場である。
エラインダー公爵にとってルトバズキン公爵家は、王家以上に目の上のたん瘤と言っていい存在だろうから、ルトバズキン公爵には、隣国との戦争に集中してもらい、その間に国内勢力をまとめたいというのが本音のはずである。
その為には、表向き邪魔はしないし、何なら援助も惜しまないだろう。
その流れからいくとルトバズキン公爵にとって、エラインダー公爵は話がわかる相手という事になる。
「……そんなものか? うーん、父上に確認している暇はないからな。エラインダー公爵とその派閥地域の襲撃は、前もって承諾を得ておくか……」
「それはお待ちください! それをやると情報が漏れる可能性が高くなり、失敗するかと」
リューは慌てて一番やってはいけない事を止めた。
『屍人会』は、エラインダー公爵の裏社会におけるもう一つの顔である。
黙って見過ごさないだろう。
「ここまで、我が軍のみで密かに推し進めてきた作戦だ。今さら、漏れてもすぐには対応できまい」
ヤリクは、エラインダー公爵の裏の顔までは理解していないようだった。
「……わかりました。うちの領兵隊は、気づかれた場合を想定して動いてもらう事にしたいと思います」
「それで頼む。ちなみに俺が指揮する部隊は、エラインダー公爵派閥の貴族、ライトアム侯爵の領都にある『屍人会』本部と思われる場所を狙う。リューにもそこへ付き合ってもらうぞ」
ヤリクは、一番厄介そうな場所の襲撃にリューを付き合わせようとした。
神槍ヤリクの腕は確認したいが、一番危険なところの襲撃となると、リューも緊張するところである。
「なあに、安心してくれ。リューの腕を見せてもらったら、あとは俺とうちの部隊が一網打尽にするからな」
ヤリクは、リューが武者震いで緊張していると思ったようだった。
「あははっ……。(エラインダー公爵の領都で、罠に飛び込む厄介さは体験しているから、事前に襲撃を知らせる時点で、さらに危険になるのは確実なんだよなぁ……)」
リューは苦笑するしかない。
下手をしたら、ヤリクの部隊は全滅するかもしれないので、リューはどう立ち回るべきか、頭を巡らせるのだった。




