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3話

久しぶりの更新です。

 私は翌日の夜も処断をするために準備をしていた。


 シェイリーンが心配そうにしながら私の部屋にやってくる。


「アスト様。やはり行かれるのですか?」


「……ああ。リーンは危ないからここで待っていてくれ」


「わかりました。お怪我がないように祈っています」


 シェイリーンの言葉に笑いながら頷く。彼女の肩に手を置いてから離れた。半月が夜闇を照らす。そんな中で私は窓を開けた。躍り出て地面に降り立った。


 シェイリーンが待っているなら頑張らなければ。柄にもない事を考えた。闇の中を走って進む。今日はとある侯爵が処断対象だ。確か、陛下の情報によると人身売買に手を出しているらしい。

 さて。かの侯爵の屋敷まではまだ距離がある。どうしたものか。

 そう思いながら再び跳躍して屋根に飛び移った。屋根伝いに移動しながら探索魔法を使う。侯爵は屋敷の中に当然いたが。ただ、近くに誰かいるようだ。もしかしたら彼の家族かもしれない。都合が悪いなと眉をしかめる。

 仕方ない。その人物が早めに部屋から出てくれると有り難いな。ため息をつきながら目の前の屋根に着地したのだった。


 庭を突っ切り高く跳躍してバルコニーに飛び移った。すたっと静かに着地する。足音を立てないように注意しながら進んだ。窓があるので確認してみる。鍵はかかっていない。また静かに開けた。


(不用心だな)


 苦笑いしながら身体を滑り込ませる。部屋に入ると窓を閉めた。中はひんやりと冷たい空気が頬を撫でる。毛足の長い絨毯を踏みしめながら歩く。どうやらここは空き部屋らしい。しまった。珍しく場所を間違えたようだ。仕方ないとため息をつく。空き部屋には右側の横手にドアがあった。そちらに行って開けてみる。すると中年らしき男が若い女性といた。男の方は侯爵のようだ。女性はどうやら娘らしいが。二人は何事かを深刻そうな表情で話していた。


「……お前はアストラル殿下と婚約をする気はないのか?」


「……お父様。殿下には既に婚約者の方がいらっしゃいますわ」


「ふむ。あのエバンス公爵の娘か。忌々しい事だ」


 私がその場に突っ立っていると中年の男――侯爵が上を向く。娘の方も同じようにする。そうしたら二人とも驚愕の表情を浮かべた。


「……あ。あなたは」


「……こんばんは。オーランド侯爵。カロリナ嬢」


「で、殿下。何故、こちらに?!」


 私は無言でオーランド侯爵に近寄る。カロリナ嬢は青ざめて後退った。


「私には愛しのエバンス公爵令嬢がいる。他の妃はいらぬよ」


「……あの娘ではいずれ殿下の足枷になります。うちのカロリナの方が役に立つはずです!」


「足枷になるかどうかは私が決める。そなたらに言われる筋合いはない」


「……殿下。そんなにシェイリーンとかいう女の方がいいのですか?!」


 オーランド侯爵やカロリナ嬢は私に言い募るが。聞く気分にはならない。雑音だと思うだけだ。お前達にはわかるまい。シェイリーンがどれだけの修練を積んできたのかを。彼女は私には得難い女性だ。なのに何故己がふさわしいとか言えるのか。怒りがふつふつと湧き上がる。気がついたら私は呪文を詠唱していた。


「……炎の術。三の型。アストラルインフェルノ」


 黒と銀色の炎が掌に顕現する。それをオーランド侯爵に投げつけた。彼は逃げる間も悲鳴をあげる間もなく業火に包まれる。


「……ひっ!」


「……そなたもこの業火に焼かれたいか?」


「……あ、ああっ。わたくしは!」


 カロリナ嬢はがたがた震えながら床にへたり込む。その口から出る言葉は用をなさない。私は口封じも兼ねて彼女に近づいた。そして額にそっと触れた。


「……今見た事はそなたの悪い夢だ。無理に覚えていなくていい。忘れてもいいのだよ」


「……夢」


「そう。夢だ。ゆっくりとお休み」


 幼子に言い聞かせるようにゆっくりと言う。そうしたらカロリナ嬢の身体から力が抜けた。すうすうと規則正しい呼吸音が聞こえる。眠ってしまったらしい。ほうと息をつく。そっと彼女の身体を絨毯に横たえると私は侯爵邸を出たのだった。


 王宮に戻るとやはりシェイリーンが私室にて待ち構えていた。私が戻るなりタタッと走って抱きついてくる。そのまま力いっぱいしがみつく。


「……よ、良かった。アスト様が無事で!」


「……リーン。あまり無理はしなくても」


「のんびりとは寝ていられないわ。ただでさえ、大変な任務をしていらっしゃるのに!」


 リーンはそう言うとわあわあと泣き出す。余程、心配だったらしい。私は仕方ないなと思いながらも彼女の身体を優しく抱きしめる。落ち着くまでそうした。


 一時間くらいは経っただろうか。リーンはやっと泣き止んだ。瞼や両頬が赤くなってしまっている。


「……落ち着いたか。リーン」


「……ず、ずみまぜん」


「いや。いいんだ。もう夜も遅い。仕方ない。君はこの部屋を使いなさい」


 私が提案するとリーンの顔や耳がすうとさらに赤くなった。何かまずい事を言ってしまったか?


「あの。アスト様はどうなさるのですか?」


「……私は。そうだな。湯浴みをしてソファーで寝るよ」


「それだと風邪をひきます。私はもうお部屋に戻りますね」


 リーンは身体を離すと寝室を出ようとした。が、私は慌てて引き止める。


「リーンこそ薄着だろう。私は湯浴みをしてくるから。ゆっくり寝ていたらいい」


「……わかりました」


「……じゃあ。お休み」


 私は笑いながらリーンの髪を撫でた。湯浴みをするために寝室を出た。




 

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