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2話

 私はバルコニーに跳躍して上がると手すりに両手を掛けた。


 そのまま石床に着地する。静かにバルコニーの上を歩く。足音の消し方は昔に影の頭領から習った。硝子で作られた窓辺に近寄るとそっと開ける。鍵はかけられていない。ふっと笑いながら邸の中に入った。子爵の使う寝室になるようだ。辺りを見回しながら子爵を探す。そしたらドアが見えた。寝室に彼はいない。まだ起きているようだ。


(さて。書斎かな)


 そう思いながらドアに近づく。ノブをゆっくりと回した。確かに書斎に続くドアだった。目だけで見回すとこちらに背中を向けて椅子に座る男がいる。ドアを後手に音もなく閉めた。


「……ふむ。金はだいぶ賄賂で貯まったな」


「……賄賂ね。だいぶ、不正をしたのかな」


「なっ。お前は?!」


 子爵――ハルク子爵は一人のはずなのに他の人間の声が聞こえたからか驚愕と焦りの表情を浮かべながらこちらを振り向いた。私はにやりと笑いながら一歩近づく。ハルク子爵は固まる。


「あなたはどこぞの国から賄賂をもらい、大量の武器を輸入しているとか。また貴族の子女を拐かし(かどわ)、人買いに売り渡していたとも聞きました。本当ですか?」


「……わ、私は」


「ふむ。焦っているところを見るに本当のようですね」


 私が笑みを深くするとハルク子爵は脂汗を浮かべながら後じさる。それを歩を詰めて壁際へ向かわせた。私は片手を掲げるとかの秘術の呪文を小さく詠唱した。


「……火の型。三の術。アストラルインフェルノ」


 そう唱えると黒と銀の混じった炎が顕現する。私はハルク子爵に向けて炎を投げつけた。子爵の胸元に燃え移りたちまち炎に包まれる。業火によって彼は跡形も無くなった。それを見届けると私はぽつりと呟く。


「……処断完了。地獄の業火に焼かれ続けなさい。悪しき者よ」


 そう告げた後、転移術でこの場を去った。秋の冷たい空気の中、静かに空や辺りを照らす月だけがそれを見守っていた。


 処断が終わり私は自室に戻る。何故か人の気配がして驚いた。真っ直ぐな灰銀の髪に淡い紫の瞳、陶器のような白い肌の美しい女性。婚約者のシェイリーンがそこにいた。


「……アスト様。良かった。お戻りになったのですね」


「……ああ。けど。何でリーンがここにいるんだ?」


「アスト様が心配で。陛下にお願いして王宮に泊まる許可をいただきました」


 泊まるだって?!私はさらに驚いてしまい、目を開いた。……理性を試されているのだろうか。


「……リーン。その。待っていてくれたのは嬉しいんだが。もう客室に戻った方がいい」


「わかりました。あの。迷惑だったらごめんなさい」


「迷惑だなんて思っていないよ。ただ、驚いただけでね」


 苦笑しながら言うとリーンはほっとしたらしく張り詰めていた表情が不意に緩んだ。私はそれを可愛いと思う。そっと近づくと彼女の身体を引き寄せた。柔らかな感触に花のような甘い香りが鼻腔を抜ける。リーンの耳が赤くなっていた。


「……あ、あの。アスト様」


「……リーン。しばらくはこのままで」


 そう言うとリーンは大人しくしてくれた。頬に軽くキスをしたのだった。


 しばらくはリーンと甘い一時を送った。だが、夜も遅いので客室に戻るように言う。リーンは頷くと自室を去っていく。それを名残惜しげに見送りながら私は手袋を外した。外套を脱ぎ、ロザリオを外す。魔導書も出してサイドテーブルに置く。ブーツも脱いだ。


(ふう。湯浴みでもするか)


 そう思い、浴室に向かう。黒のシャツやスラックスを脱いだ。下着類も脱いでから用意されていたタオルを持って中に入る。シャワーを浴びたのだった。


 湯浴みが終わると新しい白の寝間着に袖を通す。上にガウンを重ねると脱衣場を出た。寝室に出るとドアを閉める。ベッドに行くと寝転がった。ほうと息をつく。やはり秘術を使うと魔力の消費が大きい。頭が痛いのは確かだ。まあ、魔力欠乏になった場合は強い相手から分けてもらうか。もしくはゆっくり休んで回復するのを待つかくらいしか方法はない。仕方ないから後者を私は選ぶしかないが。

 とりあえずは寝ようと瞼を閉じた。


 翌朝に私は目が覚めた。メイドの代わりに侍従が起こしに来てくれる。


「……おはようございます。アスト様」


「……おはよう。コルム」


「さ。眠いでしょうが。執務がありますから。起きてください」


 ふわあとあくびをしながら私はベッドから半身を起き上がらせた。伸びをしながらもベッドから降りる。侍従――コルムは手際よくカーテンを開けた。朝方特有の陽光が部屋に降り注ぐ。それに目を細めつつもコルムから歯磨きセットを受け取った。洗面所に行き、歯磨きや洗顔をすませる。次にブラシを受け取り髪を整えた。着替えもすませたら応接間にて朝食をとったのだった。

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