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ここにいるとは思ってもいなかったのだから。まさかの場所での再会。そんなフレイヴの表情に誰かさんは小さく笑った。
「何、死人を見た顔して人を見てんの」
「だって……」
嫌われていたと思っていたから。もう会いたくないと思っていたのかもしれない。死に顔を見るくらいならば、見ない死に方がいい。誰かさんはそう思っていたと思っていたのに。
「フレイヴの気持ち、聞こえた」
「……うん」
「あたし、今は女だけど、男でもあるんだよ?」
「いいんだ」
「フレイヴのこと、騙していたんだよ?」
「いいんだ、もう」
二人は同時に互いの手を取った。すると、誰かさんの目から涙が滴ってくる。
「……フレイヴってさ……自分が大事なのに、人のために命をあげられるの?」
「ぼくはそんな大層な人間じゃない。結局、オルチェさんもアルフレッドさんも見捨てたようなものだ……」
「でも、あの二人はフレイヴがいたから救われていると思う。でなければ、それまで以上に苦しい思いをしていたんだと思うよ」
「それでいいのかな」
今度はフレイヴが不安になる番だった。だが、それを「大丈夫だよ」と誰かさんは言ってくれた。
「あの人たちもどこかで報われてくれたならば、って願えば。魔王はフレイヴにすべてを託したんでしょ? 後悔しているんだったら、その思いは叶うって」
そんなに心配なら、ほら、と誰かさんは地面に落ちていたピンク色の分厚い本を開いた。そこには文字ではなく、人の姿が映し出されていた。左のページにはオルチェが、右側のページにはアルフレッドがいるではないか。彼らであることは間違いないのだが――。
「フレイヴがあたしの願いを叶えてくれたからね。クラッシャーは完全に消えたんだよ」
「え」
あの攻撃でクラッシャーは倒されたのか。だとしても、なぜにこの場所にいるのかが不思議である。困惑するフレイヴをよそにカムラは「消えたから」と話を続けた。
「消えたから、あたしたちは完全にこの世界で存在する者ではなくなった。だから、ここで夢を見続けるしかない」
「それって……」
本から顔を上げたフレイヴに誰かさんは「うん」と頷く。
「囮野郎は役目が囮役っていうだけの人間だったからね。それに、おっさんは魔王が作り出した世界の影響でああなっただけだし。つまり、クラッシャーが作り出したあたしたちだけが存在しないってわけなの」
それだからこそ、二人はフレイヴのことを知らないし覚えていない。クラッシャーとの戦いがあったことも誰も知らない。最初からそのようなことがなかったとでも言うようにして、時間は過ぎていくだけ。
「…………」
事実を聞いてフレイヴは再び本の目線を落とした。彼は悲しんでいるのだろうか。不安に思う誰かさんは「嫌だった?」と眉をハの字にする。
「確かにフレイヴのお父さんとお母さんはいるよ。普通に人間としてね。でも、フレイヴだけが世界にいない……嫌だよね。うん、嫌だよね。こんな結末って……」
誰にも覚えてもらえない。この世界には存在しなかった。とても悲しいことなんだろう、と誰かさんが「ご」から始まる言葉を言おうとしたときだった。フレイヴは首を横に振って優しく微笑んであげた。
「それって、つまりナズーがいない世界だってことだよね?」
「もちろん」
その言葉を待っていた、と言わんばかりにフレイヴは誰かさん――カムラに抱き着いた。彼は「やったよ」と嬉しそうな声音で言う。
「世界はナズーのいない世界になったんだ。ぼくの願いが叶ったんだよ! 魔王が彼自身の願いを取り下げるという代償を払ってくれたから!」
それは違う、とカムラは否定すると――途端に、フレイヴに急激な眠気が襲ってきた。どうして眠く感じるのだろうか。ここが暖かいから?
「そんな代償だけじゃあ、夢は見られないから」
「じゃあ、なんで……?」
「フレイヴ、覚えていない? クラッシャーを討ち取るとき。きみは何を手に持っていた?」
クラッシャー相手に使用した武器は『過去の歯車』。それは誰かが説明してくれた。過去を清算して未来を切り拓く、と。過去を変えるのではない、事実を改変するのではない。それらを含めて未来にいくことだ、と。
今の世界はナズーがいない世界。現在ではなく、理想が現実に現れてくれた未来の世界。そう、フレイヴは未来に持っていてくれたのだ。五億九千八十八回分の過去を。だからこそ、それをやってのけたただの少年は――眠気の限界のようだ。
「……やっと、カムラに逢えたんだけどなぁ」
すっとカムラはフレイヴの手を握ってあげた。ほら、こうしていればここで逢えないという心配はないよ。しっかりと握ってね。
「フレイヴ……」
「カムラ……」
おやすみなさい。夢のまた夢の中で。そこでまた同じようにして逢えるから。
「あとがき」
ここまでのご愛読ありがとうございました。「世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う」は終わりとなります。
そして、実は前作がある「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」、「世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う」と書き続けてきて、これにて彼らの物語は本当の本当に終わりです。
最初に、このシリーズについての解説をさせていただきます。まず、タイトルにある「世界」とは何を差すのか。本作を見ていただけたならば、わかりますよね。「カムラ」もしくは「名なし」となります。そして、「俺たち」は「フレイヴ」と「魔王(前作、前々作の主人公)」です。フレイヴの場合、一人称は「ぼく」ですけどね。
それらを照らし合わせてタイトルを言い換えるならば、「カムラ(名なし)」は「フレイヴ(魔王)」を嫌うとなります。ですが、カムラ(名なし)は嘘つきなので……
「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」→「世界は運命を変えるほど俺たちを想う」
「世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う」→「世界は夢を見せるほど俺たちを想う」
「世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う」→「世界は心を孤独にするほど俺たちを想う」
上記のようになります。「嫌い」の反対は「好き」でありますが、この場合は語呂がちょっと悪いので「想う」とさせていただきます。これが、シリーズ通しての本当のタイトルとなります。
次にラストの解説です。最後はクラッシャーが存在を完全に消してしまったため、フレイヴとカムラ、魔王は世界に存在しなくなりました。それで、「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」にもあったあの花畑は「世界の夢」の中となります。現実の世界ではないため、平和で穏やかな時間しか流れないのです。
元々、本作品は「世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う」の続編となりますが、両者は「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」の蛇足的続編でもあります。本来、続編を作る気はなかったのですが、描写が足りないところが多かったため、執筆に至ったのです。ですが、ちょっと無理ある展開があったりもしますが、そこはご愛嬌と言うことで。
そのご愛嬌にあやかって、最後にもう一つのエンディングをお届けして終わりたいと思います。次ページをご覧ください。




