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自分のことを好きになるっていう言い方は少しおかしいのかもしれない。そうなのだが、そう思わなければ――相手に勝つということは不可能ではないのだろうか。フレイヴはそう思っていた。自分のことを嫌っている、というのは己自身を信用していないに値する。逆に好きであるならば、自身を信用していると言えるだろう。
他人を信用するのは簡単なことなのかもしれない。だけれども、自分自身を信用するのは一番難しいのかもしれない。己を自己評価するのだから。高評価にしろ、低評価にしろどちらを選んだとて、誰からも好印象を持たれるというわけではないだろう。
それならば、どうするべきなのか。その答えは評価をせずして、長所も短所も受け入れること。それら含めて自分を好きになるということ。
フレイヴは以前、カムラの本に書いたことがある。彼女に言ったことがある。自分のことを好きになれ、と。彼を自身の本の中へと取り込んだカムラは――本当にフレイヴが嫌いであるならば、このようなことをはしていない。もちろん、魔王だって。本当に嫌いであるのならば、二人を殺していたはずなのだから。彼女にはそれほどの力はあるはず。それなのに、生かしていたのは心の隅で自分たちを信用していたいと思っていたから。彼らならば、五億九千八十九回目にして、すべてを終わらせてくれると信じていたかったから。
だからこそ、その表れが――この巨大な光る石像なのだろうと思う。
「しっかり捕まっていて! 落ちるよ!」
「わかってる!」
フレイヴと鳥の姿のカムラが真っ黒な巨大怪物クラッシャーに真っ向勝負に挑む。バケモノは口を大きく開き、彼らを飲み込まんとする勢いだ。彼女は食い千切られないようにして、ギリギリのところで横に逸れ――彼は自分の腕が届く限り過去の歯車を当てる。その攻撃が予想以上に効くらしい。クラッシャーは苦しそうに唸り声を上げていた。
「ただのクソガキが……!」
丁寧な言葉で話していたはずのクラッシャーは攻撃を受けて、口が悪くなった。余程この武器の攻撃はあのバケモノに効くのか。それならば、とカムラがクラッシャー目掛けて向かおうとするのだが――。
「この世から存在がなくなれっ!」
クラッシャーの口から吐き出されるのは紫炎。カムラはその炎を旋回して避けるのだが――普通、炎というものは近付くにつれて熱さを感じるはずだ。それなのに、この紫色の炎は熱気を感じなかった。むしろ、寒気がした。本当に、これに触れたならば、存在そのものがなくなってしまうのではないか、と思ったから。
実質そうだった。紫色の炎に当たった周囲は文字通りの跡形もなく消え去っていたのだ。
「か、カムラ!」
あの炎に当たらないように。そう呼びかけようにも、カムラは必死になって避けていた。ということは、こちらの言葉のお返しは「そんなことわかっている」だろう。彼女だって、あの炎に当たった後は予想がつかないのだから。
どうにかしてクラッシャーに近付きたい。それなのに、すべてを消し去る炎によって近付けない。そんなジレンマに二人が苛まれていると――巨大な光る石像であるカムラが動き出した。
――未来を見たい。
そんな思いがこちらにも伝わってくる。石像の右手にはフレイヴが手にしている過去の歯車と同様の武器が握られていた。だが、それは彼女であるとは思わなかった。彼だと思った。魔王だ。フレイヴの過去の歯車からは魔王の気配は消えているのだから。
巨大な過去の歯車は縦に振り落した。その勢いの凄まじさは圧巻もの。周囲には地面や木々などを覆いつくしていた雪が丸ごと風に乗ってなくなりそう。雪を巻き込んだ嵐はクラッシャーに直撃して怯ませた。
巨大な光る石像と過去の歯車は言う。今がチャンスだ、と。もちろんだ。この好機を逃してたまるものか。




