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前回までのあらすじ。空中戦になるから――カムラさん、鳥の姿になってくれませんか?
「無茶言わないでくれる?」
フレイヴに鳥の姿になれ、と言われてカムラは鼻白んだ。人が動物に変身するだなんて変なことを言わないで欲しいものである。一体何を考えているのやら。
「でも、きみが飛ばなければ、あいつにどうやって近付く?」
指差す先には悠長に空中を旋回しているクラッシャーのバケモノがいた。この距離では二人が所持している武器では到底届きそうにもない。だからと言って鳥になれとはどうしようもないのも事実だ。人が飛べるわけがないのに。
「その前に、あんたの頭の中を覗きたいんだけど」
そのような作戦を決行しようとしたのだから。だが、フレイヴは「ぼくは信じてる」と無茶ぶり要求をする。
「カムラはぼくのことを知らないかもしれない。それでも、ぼくはカムラのことを知っているさ」
「……さっきからあたしのこと知っている素振りだけどぉ、あんた誰な――!?」
カムラがフレイヴに質問を投げかけるのだが、クラッシャーがばかにするようにしてちょっかいを出してきた。すれすれ――いや、おそらくは当たれば御の字。二人を狙って体当たりを仕掛けようとしたのだから。それだからこそ、二人は離れ離れになるようにして避けた。これでは彼に質問が、話ができないではないか。
自分を知っている誰か。本当に知らない誰かの――。
「ぼくが大好きなきみの友達だよ!」
――友達?
今のカムラの頭の記憶にあるのは自分の使命と、名前を取ったあの子の記憶。なんとか必死になって思い出そうにも、フレイヴという少年は存在しなかった。なぜに存在しないのだろうか。記憶を消された? その可能性はある。いくつかの過去の記憶がない状態だから。それは、自分がクラッシャーに気が遠くなるほど殺されたとき、記憶を改ざんされてしまったかもしれないのだ。
――あたしに友達はいたのだろうか。
――お父さん、ちーくん、エーワン……ダメだ。どんなに思い出そうとしても、あの子が出てこない。
「今のカムラがぼくを知らなくても、この世界のカムラなら、ぼくを知っている。ぼくはそう信じているんだ」
またしても、クラッシャーの攻撃が迫りくる。それをフレイヴはなんとか避けるのだが、足の爪の衝撃が彼の肌に掠る。雪の上に赤い血が滴り落ちた。このままでは地上に近付いてきたときに攻撃を加えようとしても、返り討ちに遭うばかりだ。何かしらの打開策を考えねば。あの真っ黒なバケモノをどうにかせねば。それこそ、この世界に未来はない。また歴史を繰り返すだけだ。また何も知らないぼくが悲しみを背負い、すべてを失う。今のフレイヴが未来のフレイヴが悲しむのを知るのは嫌だった。
そう、この世界はカムラだ。もっとも言えば、彼女はこの世界そのもの。フレイヴと魔王を過去の物語へと追いやり、もう一度悲劇かつ悲惨な物語を始めようとしていた。終わりのない物語。世界は終わらせない。けれども、物語はそろそろ終わらせよう。終わろう?
――カムラがこの世界そのもの?
何かに気付いたフレイヴは過去の歯車を雪の上から突き刺した。
――聞こえるか、カムラ。
「これが終わったら、一緒に美味しいご飯でも食べに行こう」
――すべてを知った魔王がぼくに託したこと。それが今になってようやく全部を理解した気がする。魔王は自身の願いよりぼくの願いを叶えさせようとしていただけでなく、世界の果てをぼくに見せようとしてくれたんだ。
雪の地面からは――あの忘れられた森にいた光る石像よりも巨大な光る石像が出現した。それはカムラの顔とは似ても似つかなかったのだが、フレイヴにとってそれは彼女であると認識できた。
この巨大な石像を見て、カムラは唖然とするばかりだった。




