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【使えないやつがいたってしょうがないだろ】
むかつくやつにそう言われた。まるで、俺の存在を否定しているかのような言い方だった。こっちに向けてくる嫌悪感のある目、抉り取ってやりたい気分だった。だけれども、そういうことをしてはいけないって『母さん』が言っていた。だから、俺は我慢するしかなかった。勝手に動こうとする右手を抑えつけて「独りで行く」と見栄を張った。誰もが通らないようなルートで雪山行進を達成すれば、誰からも褒めてもらえると思っていた。使えないやつだとか言っていたやつは俺に頭を下げるだろう。ああ、楽しみだ。あいつの驚いた顔、証拠として残してやりたいね。
なんて、思っている場合ではなかった。
雄叫び声を上げるバケモノ。足は雪に取られ、上手く身動きが取れない。唯一の武器である銃を持ってしても効き目は一切ない。
黒いバケモノ。誰かが言っていたことを思い出す。独りで倒せるような存在ではない、と。でも、これもチャンスじゃない? あいつにも、みんなにも俺がこのバケモノを倒したって。俺独りでできるんだぞ、って誇示を見せられる!
青い軍服を着た茶髪の少年は、真っ黒な拳の攻撃を回避した。試しに一発撃ってみる。ああ、皮膚は刃物も銃弾も通さないって言っていたな。え、通さない!?
「うわっ!?」
事の重大さに気付いたのか、次の攻撃を間一髪で避けた。自分が持っている得物ではどうしようもないというならば、逃げるべきなのだが――逃げられなかった。このバケモノはどこまでも着いてくるし、当たり前だけれども手加減はしてくれない。
「くそっ……!」
銃なんて効かないのに、銃口を黒いバケモノに向けていた。背を向けずに退避しなければ――彼の背中に軽く何かが衝撃する。え、と薄い青色の目で背後を見ると、そこには木があった。
――しまった、目を逸らしてしまった!
バケモノの方へと視線を戻すも――遅かった。声に出ないぐらいの痛感が体中に走り回る。特に肩から腹に掛けてが痛い。痛い、痛い、痛い! 動けないよ!? 俺って、死ぬの?
体は動かない。寒さと痛さで感覚が鈍くなっていっている気がした。どうなるのかがわからない。死ぬのが怖い。死にたくない。けど、これじゃあ、死ぬよな。バケモノはゆっくりとこちらに近付いてくる。口元が動いているように見えた。ああ、これって呼吸でもしてるの? もう、俺って諦めるしかないの? 死ぬのか。
死が目の前にやって来ている少年に対して、真っ黒なバケモノは――。




