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美しき花畑を通っていると、背景は急に変わり出す。外にいたというのに、屋内にいた。じめじめとしており、蒸し暑い。窓がないせいか、暗くて足元が不自由だった。フレイヴの心の中にいるクラッシャーは言う。
「この先にお前が会いたいやつが二人いる。左に魔王、右に名なしだ」
「…………」
どちらから先に行こうか迷った。それなのに、フレイヴの足は動く。とてもカムラに逢いたくて仕方なかったというのに、今はそう思わない。クラッシャーの言葉に洗脳されたか。自分も魔王みたいにして、とんでもない嘘をつかれるのではないのだろうか、と不安になる。だが、彼女は本物だった。助けてくれた。島自治区で置いてけぼり状態だったとき、嘘をついてまで自分とアルフレッドを助けてくれた。ナズーと初めて対峙したとき、何度か戦うとき、傍でサポートしてくれた。フレイヴは光を失ったカムラの剣を見る。それに彼女の意識はない。彼女は先にある右の部屋だ。
「聞かせてくれる? 魔王のこと、カムラのこと」
「出会いに関してはほとんど知らない。俺は興味がないからな。だから、お前自身が訊くんだよ、二人に。それでも、簡単に教えてくれるのはあいつの方だろうよ」
「あの石の人にも言われたな……」
「おっ、会ったか。あれにも」
クラッシャーのその言い草はどうやら光る石像のことを知っているらしい。これぐらいは教えてくれるだろう。そう思って「知ってるの?」と訊ねた。
「あの人、色んな名前があるって。カムラだったり、ジンガシャマロだったり……」
「どっちとも宗教の神様のお名前だな」
この言葉にフレイヴは立ち止まった。慌てたようにして、カムラの剣と自身の胸を交互に見る。
「えっ? じゃあ、カムラの名前って……」
「だから言ったじゃん。偽名だって疑わなかったかって」
「そんなこと言ったって……ぼくは宗教関係に疎いんだ。カムラって名前が何かの教えの神様だなんて予想がつかないし」
「そうなのか。俺は記憶為想思から出たことがないから、この世間をよく知らない」
よくよく考えてみれば、カムラは過去の世界からやって来た存在である。昔にカムラという神様の教えがあったとしても不自然ではない。だが、気になるのは光る石像の存在。彼はどういう立ち位置なのだろうか。それに関してクラッシャーは「誰よりも年寄りだよ」と教えてくれた。
「俺がこの世界にいた頃よりもずっと昔からいる何かだ。正直言って、あれは誰の味方でもないよ。この世界で重要な駒に真実を教える役割を担っているとでも言えばわかるか? それこそ囮役みたいにな」
「だったら、囮役の人はここにきて、石の人に教えてもらうのか?」
「そこはよくわからない。どちらにせよ、囮役は事の一切を知るべきだというのは事実だ。だが、どの囮役も完璧に知っているとは限らないようだがな」
そう言うならば、オルチェが知らないことがあってもおかしな話ではないということなのか。だとしても、それはそれで釈然としないものだな。なんて思いつつも、フレイヴは二つの扉の前に立った。もう来てしまったらしい。左に魔王、右にカムラ。どちらを信じればいいのだろう?




