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【ぼくのために戦って死ね】
あのとき、オルチェにそう言ってしまったことを後悔した。彼の命を何とも思わなかった。クラッシャーの囮役だから。自分の囮役だから。死のうが、くたばろうが今更嘆いてももう遅い。目の前にいる相手、男は銀色に輝く大剣を振り回した。相当な重量のはずなのに、風圧がフレイヴのやる気を削ぎ落してくる。
勝てないかもしれない、という不安の波が押し寄せてくる。ここで自分自身が死んでカムラに逢えなくなるという悲しみが胸の奥をきゅっと縛りつけてくる。それでも、目の前にいる魔王の知り合いに負けてたまるものか。
フレイヴが立てた憶測、ここ――樹木の地下は魔王の記憶によって構築された場所。自分たちにとって知らない人物が現れては、こちらに向かって敵意や攻撃を加えてくる。
「何者だっ」
正直言って、戦いの最中に質問を投げつけられるような余裕は持ち合わせていない。それでも気になった。あの女性が答えてくれたようにして、この男も答えてくれるのではないか、と。確信的ではないが、そう思いたい。フレイヴは男の攻撃を間一髪で避けつつも、気になる疑問をぶつけた。この質問に対して、男は「すべてを知る者」と答えてくれた。
すべてを知る者だと? その一言を聞いて、フレイヴは思い出す。自分の囮役であるオルチェの発言を。彼は確かに言っていた。何度も言っていた。それを聞き逃せるわけがない。
【囮役はすべてのことを知らなければならない】
つまりだ、この男――銀色の大剣を手にした男はクラッシャーの囮役だということになる。その答えとフレイヴの憶測を組み合わせるならば――。
――魔王の過去を体験をさせられている? だけれども、なんで? ぼくはクラッシャーなのに。あの武装集団の人たちと対峙するのは当然の結果だとしても、この人と戦うのはおかしな話だ。そして、何よりぼくと魔王の立場は逆のはず。女の人たちと敵対するのはおかしい。囮役と戦うのは変だ。
フレイヴはカムラの剣で攻撃を受け止めきれず、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまった。考えれば、考えるほど戦いに集中できなくなってしまう。そうわかっていても、知りたかった。どうして出会う人たち全員が自分たちに敵意を持っているのか。魔王が覚えている記憶であるならば、どうして彼の周りは敵ばかりなのか。ああ、可哀想だな。ぼくと同じで。
――同じ?
目の前には銀色の塊。必死で食らいつくようにして、体を捻って刃を男に当てようとする。大口ナズーと同じ戦い方で!
男の自由を奪うかのようにして、カムラの剣は根を張った。ただの掠り傷であっても、攻撃を当てたことには変わりないのだから。そうであっても、それだけでは不安だ。じゃあ、下にも根を張り巡らそう。剣先を擦れ。そして、木の根っこのように、人の血管のように、神経のように這え。すべてはつながっていると知らしめるようにして。
――何でもかんでもつながっているんだ。ぼくたちが踏みしめているこの大地だって、未来にもつながり、現在、過去も同様だ。
これならば、勝てると思ったフレイヴ。一方で身動きが取れなくなってしまった男は――。
「お前も可哀想なやつだな」
その言葉を残して、カムラの剣の根に目玉を抉り抜かれてしまうのだった。




