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プトレア教の中にある一つの話に出てくる『天使物語』。その物語に出てくる自称天使のモデルは魔王だとオルチェは言っていた。彼がどこまでプトレア教のことについて把握しているかは知らないが、目の前で起こっている状況が状況なだけに信じるしかない。
それだからこそ、フレイヴは動き出す。その場から駆け出す。魔王を倒すため。カムラを取り戻すため。
「カムラを返せぇええあああああ!!」
墓地によく響く自分の声。これで倒せたならば、この世界には平和が訪れるだろう。誰もが苦しまない美しい世界。黒が存在しない優しい世界。
フレイヴが魔王に大振りを振りかまそうとしたときだった。忘れられた森でも見覚えのある左目と目が合った。一気に背筋が凍る感覚に陥る。魔王は軽々しくこの攻撃を受け止めた。いとも簡単に。
すると、夜だったこの景色は一気に真っ白な背景に移り変わった。刃を向けていた相手すらも。見覚えのない男。それでも、この雰囲気は知っている。だが、人違いだ。どちらにせよ、眼前にいる存在はフレイヴにとって邪魔な存在。早急に片付けなければ。魔王に逃げられたのだ。絶対に逃がしたくない。
「邪魔だっ!!」
どけっ、とまでは口に出すことはできなかった。口が体に追い着かないから。カムラの剣を受け止めるのは銀色に輝く大剣である。なんとなくわかる、この男――相当な手練れ。だとしても、荒野で遭遇した武装集団と相手するよりもマシだ。一人だけだから。複数いれば、もっと苦戦するに違いない。この状況に感謝ぐらいはしなければ。
フレイヴの攻撃を受け止めた男は彼を押し返した。力の差は歴然としている。自分が正攻法で勝てる見込みはゼロであるとすぐに判断した。それだからこそ、フレイヴはすぐにカムラの射撃砲で応戦するのだった。刃先から光る棘が飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ、飛ばす。男に向かって射撃を与える。これで早くくたばれ、と。用事があるのは魔王のみ。三下に用はない。
この攻撃、男にとって見えないものではないらしい。迫りくる棘を大剣で防いだ。そうなると予想はつくはずなのに、フレイヴはとても悔しそうな顔をしている。ありえない、とでも言いたげ。こちらがそういう顔をするのはありえないのにな。意外にも厄介そうだ、と思う彼にとってこの男は邪魔だ。すぐに片付くようにするにはどうしたらば、いいのだろうか。こういうときこそ、囮役のオルチェがいれば安泰なのに。ここであいつを見捨てたかった。なぜにあの局面で死んだのか。理解不能だ。使えないな、全く以て。
「くそぉっ! あの、囮役がぁああああ!!」




