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「あなたは事のすべてを知らなければならないのです。この物語の配役、クラッシャーの囮役ならば」
クラッシャーという謎の存在。というか、物語だとか配役だとか何を言っているのかさっぱりだ。文学小説は読んだことはあるにしても、この世は小説でもなければ物語でもない。この世界はただの世界だ。なんて片眉を上げて石像を見る。
「物語の始まりはクラッシャーと名なしが世界を奪い合うところから始まりました。三度目の戦いにして、名なしは勝利を掴み取るのです。そして――」
ここで知らない単語である名なしが出てきた。余計に頭がこんがらがる。そのため「名なしって誰?」と話を遮ってまでも訊ねてみた。石像はきちんと答えてくれた。
「名なしはこの世界で生まれた、この世に存在しない者です」
「存在しないのに、役があるのか?」
「そういうものです。この世界とこの世。一つの世界のはずなのに、二つの世界に聞こえる不思議。いつだって、我が目に映る世界は驚きを隠せないでしょう。何度見ても、何度聞いても、クラッシャーは負ける運命があります」
「それなのに、俺はクラッシャーの味方なのか」
「そうです。それがあなたという存在です。クラッシャーの味方でいてあげなければ、誰がクラッシャーの味方でいるんですか」
「じゃあ、クラッシャーがいる場所を教えて。会って、話がしたい」
なんて光る石像にお願いを申し立てるが、それは首を横に振った。できない話らしい。それ曰く「クラッシャーもこの世に存在しない者です」と言うのだ。いないとするならば、それこそ己の存在意義が謎だった。なんだか、苛立って「だったら」と失笑した。
「クラッシャーがいないなら、俺の存在意義ないじゃん。もしかして、あれか? ナズーっていうバケモノがこうしているのも、俺みたいな道化師たちの残党狩りってか? 誰が誰だかわかんねぇから対抗勢力がいなくなるまで残虐しまくる。違うか?」
「それは、違います」
「違うのかよ。じゃあ、ナズーってなんだよ。俺はクラッシャーの囮役とやらだ。すべて知らなきゃらならないなら、教えろよ」
正直言って、くだらないと思った。それだからこそ、最初は戸惑っていたが、もう皮肉った言葉しか出てこないようである。そんな質疑に対して、当然のように石像は反応してくれる。
「ナズーは名なしと同等の存在が生み出しました」
「俺が言ったこと、まんまじゃん? 結局残党狩りなんだろ?」
「違います。ナズーとは彼が望む世界へと書き変えてしまったが故の代償的存在なのです」
「へえ、その人は世界改変したんだ。まるで魔王様みたいだ」
半ば話を聞く気に慣れないようだ。肩を竦めてどうでもよさげな面持ちで光る石像を見ていた。ややあって「どうせ」と鼻で笑う。
「魔王様はさぞかし高貴にこの世界を見下しているだろうよ」
世界を書き変えてしまうのだ。それならば、クラッシャーの囮役である自分が敵うはずがない。おそらくはナズーに見つかって死ぬだけだ。そう高を括っていたのだが、石像は「いいえ」と否定した。
「彼……魔王は嘘つきで、優しくて、素直じゃなくて、人を殺せそうにない存在なのですよ」と。
「クラッシャーがいなくとも、彼はこの世界にいます」
光る石像はそう言うと、地中へと潜ろうとした。これに慌てて止めようとする。結局、自分は何をしたらいいのかわからないし、クラッシャーがいなければどうしようもないだろうという思いもあったからだ。だが、それは「あなたが存在する意義を物語に反映させてください」なんて言い残して去ってしまうだけだった。




