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真っ白な世界へと迷い込んでしまったような迷子がいた。それは人間と呼ぶに相応しいとは思えない真っ黒のバケモノだった。大きな口が二つもあり、そこから黄ばんだ歯が覗かせているではないか。それは吹雪の音すらも掻き消す大声で叫ぶのだ。
「おねえさんとやくそくしたんだぁ!」と。
直後、大口ナズーは動き出した。大きな体を引きずるようにして。重たいはずなのに、何という身軽さ。フレイヴとオルチェが避ければ、二人のいた場所は雪も――その下の地面すらも抉れているという真実があった。
「気をつけろ、フレイヴ!」
オルチェの呼びかけに、フレイヴは大きく頷いた。カムラの剣を手に、距離を取ろうとする。だが、そのバケモノは剣の光につられるようにして、自分に狙いを定めていた。逃げようとしても、追いかけてくるものだからたまったものじゃない。こればかりは短期決戦として戦うべきなのかもしれない。雪という存在のせいで体力は消耗しきっている。長期戦は望ましくないだろう。それはオルチェも同様だ。彼らは雪の中での戦いに慣れていないのだから。それだからこそ、二人に迷いというものはないようだった。それがたとえ、味方であったアルフレッドを食い、取り込んでしまったとしても。彼を救える可能性があったとしても。
見捨てようというわけではない。これは、この世界からナズーの存在を失くすためにする当然のこと。それぐらい、アルフレッドさんもわかってくれますよね。手伝ってくれるって、言ってましたもんね。ぼく、覚えていますよ。忘れていませんよ。
フレイヴは大口ナズーをいつものナズーと見て、口元に攻撃を与えた。ただの掠り傷ではあるが、あまりこいつの間合いに入ってはこちらが食われてしまうのだ。用心して攻撃をしないと。
フレイヴばかりを執拗に狙う大口ナズーに隙あり。オルチェは背後から射撃砲をお見舞いしてあげた。口が二つあろうが、目玉は普通の人間と同じ二つだ。そうそう簡単に自分の半径をすべて目視で把握できるものか。威力が低い弾であろうが、何度もぶつけたとて小さな攻撃ぐらいは入るに決まっている。そして、何よりフレイヴに迷いは存在していない。それならば、従者である自分も彼のすべてに同意しなければならない。
「うわぁああああああああ!」
銃撃を受けて、そのバケモノは大きく暴れ出した。自分自身の周りを破壊するかのようにして、腕を振り回す。周りにあった木々を倒壊させてしまうほど。これをまともに受けたとて、無事で済むはずがない。骨折はもちろん、内臓破裂は当然だろう。魔王と戦わなくては、と言っている場合ではない。
腕の振り回し攻撃のせいで、間合いに入れない二人。さて、どうしたものかと回避するしか手立てはなさそうだ。
ただ、一つの方法以外を除いての話ではあるが。




