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オルチェ以外に会った人物はただの夢の住人。そう思い込んで、フレイヴたちは山頂を目指した。そこからならば、周りの状況も見えるだろう。だが、こうして雪が降る悪天候であるならば、目視にも限界があるだろうが、それでも前に進むしかなかった。どこへと行けば魔王のもとへと辿り着けるのかわからない中であるのにもかかわらずである。もしかしたら、魔王は自分たちがテリトリーに入ってきたことを知って、わざとこう言った幻覚を見せているのかもしれないのだ。一秒たりとも気を抜くことができない。
フレイヴの一歩後ろを歩いていたオルチェは「フレイヴ」ととある山道の方を指差した。
「こっちの道の方から行かないか?」
「はい」
オルチェが別のルートを選んだのには理由があった。それはこちらの方が、傾斜が緩やかだったからである。いくらここが魔王のアジトだとしても、奇妙な空間だとしても体感はリアルなのだ。今のこの空間は雪山。しかも降ってくる雪や積もった雪にも触れるし、冷たい。風も寒い。吐く息だって白い。互いを見れば、冷たさのせいで頬と鼻が赤いではないか。ましてや二人は軽装である。旅をしている格好をしても、雪山に登るということは予定に入っていなかったのだ。下手に無理をすると、自分たちは死んでしまうと見越していたのである。だとしても、雪山登りの装備をしていない時点でどのルートを登るにしても危険であることには変わりない。そして、何よりフレイヴの服が一番の問題。悪い夢は、本当は現実だったのではないのかというほど服に穴が空いているのだ。そこからは彼の肌が見えている。そのため、破けた部分の端と端を結んだりして事なきを得ているのだが――やはり隙間から冷たい風はやって来るのであって――。
寒い。それ以外の言葉は何が思い浮かぼうか。浮かぶとするならば、魔王のアジトに入ったはいいが、ここの――地下の空間はどうなっているんだ、とたじろぎを見せるぐらい。幻覚を見せているにしてはリアルティ。現実的にしては夢を見ているようだった。そう言った疑問を持っていたとしても、二人はそのことを口に出すことはなかった。ただ、無言状態で足を動かす。積雪量はフレイヴの脛辺り。
そうして先を行くと、少し開けた場所へと出てきた。だが、その開けた場所には何やら黒い物体がぽつんと存在しているではないか。
何なのだろうか、と不審に思うが――二人にとってそれは嫌な物としてしか捉えられなかった。見覚えのあるようなフォルム。近付くにつれて、記憶の引き出しがゆっくりと開こうとしていた。
ある程度まで近付いたとき、これ以上近寄ってもいいものなのか足が止まった。なんだか、果てしなく嫌な予感しかしない。それは何もこちらが近付こうとしなくても――。
「おねえさんとやくそくしたんだぁ!」
こいつは紛れもない。何度も見たから。消失の町、白昼夢の村――そうだ。こいつはアルフレッドを食ってしまった大きな口が二つもあるナズーである。




