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久しぶりに見た神様の日記だ、とカムラは思っていた。鉄格子の向こうで魔王がそれに何かを書いているからだ。事実改変をする気か。そうはさせない、と止めるべきだろうが、このようにして自由にできないため、何もできない。一つできることがあるとすれば、口を開くぐらいか。
「あんたさ、それが何かわかっているの?」
「知っているからこそ書いているんだ、悪神カムラ」
この物言いは皮肉っているのか。いずれにせよ、ここから出られそうにないカムラは魔王に対して口だけ八つ当たりをするしかないようだ。
「クラッシャーから取り戻したってのに? この世界はめちゃくちゃだ。ねえ、そう思わない? この世界をめちゃくちゃにしちゃった魔王さん」
「クラッシャーがこれを強奪した時点でも世界はめちゃくちゃだろ。でも、クラッシャーが存在しなければ、俺も悪神カムラも存在しなかった。違うか? 知らないとは言わせない」
「その悪神カムラって誰のことだろうね?」
「わかっているなら、上等なことだ」
魔王は分厚いピンク色の本を閉じると、こちらを見た。表情がよくわからないのに、笑っているようにも見えるのは気のせいではないだろう。少しだけ左の薄い青色の目が細くなっていたのだから。見れば見るほど訳のわからない存在、魔王。こいつをフレイヴたちは相手するのだ。どんなに強いナズーよりも骨がグシャグシャに折れる話ではないだろうか。いや、折れるどころか粉々になった骨のせいで人の形を成さないのかもしれない。
「どちらにせよ、最後の王手をかけるのは――」
それ以上言うことを止めた。言う気にならないのだろう。踵を返すと、その場から出ていこうとした。別に言おうが言うまいが、そこで閉じ込められている少女は知らないふりをしているだけだ。彼女は嘘つき、そして自分自身も嘘つき。真実を知って、騙されたときは――そのときの気持ちと今の気持ちは同じ。何も変わりやしない。以前の思いは捨てるべきだろう。
それに、最後の王手をかける駒はすべて揃った。五億九千八十九手目にしての最大のチャンス。しくじるわけにはいかない。今回の采配は完璧なはずだと信じたい。
「これですべてを終わらす」
いなくなってしまった魔王。その場に独り取り残されたカムラは下唇を噛み、鉄格子に手をかけて誰もいない虚空を睨むのだった。
「終わらせるもんか。何度だって」
――舐めてもらっちゃ困る話ってやつだ。最後に笑うのは魔王ではない。このあたし以外誰がいるとでも?




