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誰彼構わず、見境なく攻撃をしてくるのはナズーである。そして、自分たちの仲間を得るために、人間の体の一部を食い千切り――その人間すらもナズーにしてしまう。ほとんどのそれはある程度は人の形を留めている。だが、通りすがりの町や白昼夢の村で見たのは例外だと言えるだろう。
フレイヴの眼前にいるこのナズーも例外に近かった。なぜならば、本来のナズーは全身が真っ黒のバケモノ。それに対して、これは両腕だけがナズーの状態だったからだ。顔に黒いもやが漂っているせいで、どういう人なのかはわからなかったが、雰囲気だけで見ると――フレイヴにとってはそのナズーがオルチェに見えたのである。
思わず叫ぶ。
「オルチェさん!」
視線と視線がぶつかった瞬間にオルチェらしきナズーが襲いかかってきたのだから。真っ黒な爪がカムラの剣とぶつかる。
「オルチェさん、ぼくです!」
できることならば、このナズーがオルチェでないことを願いたい。だが、どちらにせよ戦わなければならないことには変わりない。向こうはこちらに対して敵意を見せているのだから。
先ほどいた少年少女軍人たちは、自身の攻撃に当たって死んでも文句は言えないと思っていた。しかし、オルチェとなると――いや、彼だけでなく、カムラやアルフレッドであっても同じだろう。自分に味方する者を殺さなければならないとき、果たして本当に自分は彼らを殺せるだろうか。苦しむことなく、未練あることなく死後の世界へと旅立たせることができるだろうか。そう思うだけでも恐ろしく感じる。何だろうか、この世界は。気味が悪くて仕方がない。
どんなに避けても、防御をしても攻撃は止まない。向こうは全力でこちらを殺す気だ。雄叫びを上げながら、苦しそうに喘ぎながら殺そうとしてくる。
「お願いです! 止めてください!」
ナズーに成り果てた人間に言葉なんて皆無だろうな。あの調査員ナズーは話が違ってくるだろうが。それでもフレイヴは可能性を信じたかった。調査員ナズーが存在していたからこその小さな希望だ。
バケモノとしての心に人の意思が打ち勝つならば、心だけは戻ってこられるはず。フレイヴはオルチェの攻撃をカムラの剣で必死に弾きながら、彼の名前を叫ぶ。
「ぼくの名前、憶えていますかっ!?」
「……名前……」
ああ、そうだ。語りかけ続けていればいいんだ。ナズーになってまだそんなに時間は経っていないはず。だからこそ、人としての存在を取り戻せる余地はあるだろう。
「そうです、ぼくの名前です!」
「……名前? 俺……?」
呼びかけによって、オルチェは動きを止めた。何かを思い出そうとしているらしい。それでも別にいい。人としての記憶がよみがえるならば。なんだってよかった。別に彼の名前でも。彼の名前はオルチェなのだから。
「あなたの名前は何ですか?」
「俺はっ……!」
急にその場の空気が変わった気がした。果てしなく嫌な予感しかしない。だが、それに気付いたのは――遅かった。
「俺はっ! 俺はっ! 俺はぁぁあああああ!?」
強力な一撃がフレイヴを襲う。受け止めるにしても、非力過ぎた。何メートルか吹っ飛ばされた。
「お、オルチェさん!?」
やはり、ナズーと化してしまった人間を元の姿に戻すこと――もしくは人の心を取り戻すのは無理なのだろうか。




