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我を忘れていたらしい。気がつくと、オルチェは血生臭い地面の場所に立っていた。周りは仮面を被っていたであろう者たちが力なく転がっている。そのど真ん中には調査員ナズーが苦しそうに四肢がもがれていた。何があったのだろうか。覚えていないからわからない。
「…………」
呆然と立ち尽くす自分の頭上からは《決まったぁあ!》とアナウンスがうるさい。
《この勝負の勝者は――》
あまりにもうるさい。オルチェは強制的に頭から聞こえてくるアナウンスをシャットアウトした。つまりは聞こえないふり。どのようにして勝てたかなんて知ろうとは思わなかった。いや、思いたくもない。人らしい戦い方をしたわけではないだろうから。こうして仮面を被った人たちが息をしていない時点で。
まだ痛む体を引きずりながら首と胴体だけになった調査員ナズーのもとへと近付いた。これでもまだ生きているのだからびっくりだ。だって、口を開いたのだから。
「驚きましたよ」
「答えろ、あんたは何者だ」
「それはこちらが訊きたいですね。私と同様に人を捨てたあなただから」
耳を貸すな。自分自身がそう言ってくる。それに対して素直に従い「質問に答えろ」と睨みつけた。自分の質問の回答以外口を開こうとするな。オルチェの凄みが利いたのかは定かではないが、調査員ナズーは「私ですか」と観念した様子。
「私のこと、知りたいんですか?」
「話でも逸らそうってなら、強引に言わせて首刎ねる」
早く答えろ、と急かしてきた。これは答えるしかあるまい。こうして生きている実感を味わうことは二度とないだろうから。ナズーは「私は」と小さく息を吐いた。
「私は彼の負の感情を受け止める存在です」
「は?」
「器と言っても意味は通じるでしょうね。私はそれのためだけに生まれ、今日まで過ごしてきました」
負の感情を受け止める器。それがこの調査員ナズーの正体。
「彼はあなたを敵として見なしています」
「それは魔王のことか」
「しかし、それは決まっていたこと。あなたがこうして立っていることも決まっていたこと」
調査員ナズーは言う。この世の運命はすべて決まっている、と。
「あの少年が彼と対峙したとき。すべてを知ったとき。あの子がどのような行動を取るのか。それは誰も知らない未来。見えない未来に存在する世界の果てとやらは――」
「そこにあるってか」
地面に落ちていた拳銃を拾い上げた。その無機質感ある音を聞きながらナズーは「はい」と答えた。
「知っていらしたんですね」
「ピカピカ石野郎が言っていたことをようやく理解した。そういうことかよ」
「そういうことです」
オルチェは拳銃を構える。引き金に指を置いた。それと同時にナズーは静かに目を閉じた。抵抗する気はないらしい。なぜって、こうなる運命があるから。自分の運命は決まっていた。この死すらも。
調査員ナズーの死が決まった直後、オルチェはその場に座り込んだ。あれだけ騒がしかったこの場所は静まり返っていた。仮面を被った人たちは横たわっていた者たち含めて誰もいなくなっているではないか。ここにあるのはそれの死体のみ。
上を見上げながら小さく呟いた。
「俺らって何のために戦わなくちゃならないんだ?」
それはフレイヴも含めた話。カムラのためなのか、それとも魔王のためなのか。




