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毛玉の波




道中、多少恥ずかしい思いをしながらもマインエラ北門に辿り着いた俺達は、広場を巡回していた兵士さんに案内され、北門出口で行われているという検査を受けるための長い行列に並んだ。

行列に並ぶ人達目当ての物売り等を眺めながら辺りを観察してみると、北門の周りは本当に人が多いというのがわかる。


北門の前は石畳の大きな広場になっていてマインエラから出ていく荷馬車や、外から入ってきた荷馬車がひっきりなしに行き交っている。

荷馬車ももちろん検査を受けなければいけないので混雑はしているが、広場を巡回している兵士さんが上手いこと列を作ってコントロールしていた。


熟練の荷馬車捌き。あの手腕はプロの誘導員だな。

列の並べ方も仕事への意識の高さがうかがえるぜ。誘導力が凄い。


そしてその列の周りを篭や箱を抱えてうろうろする物売り達。

軽食や果物、保存食なんかを売っているのだろうか。あ、お土産物みたいな小物を売ってるのもいるな。

なるほど。海外でよく見かけるやつだ。待機中の小腹サポートよね。お土産の追加購入の罠よね。

食料は旅の道中でも必要だろうし、買い忘れたり、補充する最後のタイミングなのかもな。


よくよく見ると物売りの人達は女性が多いな。しかもなかなか露出が多かったりする。

猫耳かぎ尻尾のお姉さんがタンクトップにホットパンツのような服装だったり、狐耳切れ目のお姉さんがジプシーみたいな衣装だったりと、なかなか目に眩しい。

行商人は男性が多いようだし、そう言った格好の方が売り上げがよかったりするんだろうな。

エロは偉大だね。男がアホなだけか?いや、仕方あるまい。エロは偉大だからな。


俺たちの所にも近づいてきた売り子の人達をよくよく見てみたが、売り子達は露出が多い格好に加えて冒険者達に比べると小綺麗にしているように見えた。

食品を扱うからか身なりには気をつけているのだろうか。

単にこ汚い売り子さんは淘汰されて行ってるだけかもしれないな。やっぱり汚い見た目だと商品も売れないだろうからね。


……レオンも身なりに気を付ければ売れるようになるのでは?

あのルックスならカリスマ売り子一直線だろ。

……変な輩や有閑マダムに目をつけられそうではあるが。


物売りや列に並ぶ人達を観察していると、俺とレビさんが並んでいた列はグイグイと進んでいって、並んでいた人数を考えてもかなり早い時間で検査を受ける番がやってきた。


一般の人達は荷馬車比べて荷物が少なく、検査にかかる時間も少ないだろうから回転が早いのかもしれない。


ガラゴロと荷車を引いて兵士の待つ場所に出ると、数人の兵士が荷車を手早く調べ始めた。

荷台には俺のリュック以外は何も乗っていないので調べるところも無さそうだが、車輪や荷台の裏まで調べる徹底ぶり。

こちらでも兵士の意識の高さがうかがえるぜ。


検査を待つ間に人当たりの良いヒューマの兵士さんが教えてくれたのだが、北門はマインエラ随一の交通の要衝らしく街中からご禁制品とか持ち出していないか、持ち込もうとしていないかを調べるために厳しい検査が行われているのだそうだ。


検査が緩いと思われると、怪しい薬や用途不明の魔道具を持ち出そうとする輩が出てくるため、毎日兵士を多数動員してしっかりがっちりと取り締まりをしているんだぞと見せつけているんだって。

犯罪抑止力的なあれですね?わかります。大事ですよね。わかります。


しかし、俺達は空の荷車しか持っていないのだから何の問題も無いとは思っていたけども、兵士に囲まれるのはやはり緊張するよね。

俺とレビさんの前の前の人が何か変なものを持ち出そうとしてたとかで、どっかに連れていかれるのを目の当たりにしちゃったしな。

どこに連れていかれちゃったのかな?怖いね。悪い子はどこかにしまわれちゃうのかもな。怖いね。


そんな怖さとは別にゴリラみたいな獣人の兵士に、じーっと熱視線で見つめられた時はいろいろな意味で恐怖を味わったぜ。喰われる?食われる?

尻の穴が縮み上がる思いだぜ。


そう言えばポーチに入っていた小袋の中の魔石についてはノータッチだったな。

いや、ポーチの中身まで細かく見られた訳じゃないが、エックス線みたいな異世界トンデモ理論のやつでどっかから見てるのかな?と思ったんだけどな。

または異世界にありがちな鑑定魔法とかね?


あー、良いなぁ鑑定魔法。俺もそんな魔法欲しかったな。

いや、オプション先生に不満がある訳じゃないですけどね?オプション先生万歳ですけどね?


もし鑑定魔法なんて便利な魔法を持っていたら、それを上手いこと使って異世界一の何でも鑑定士に…俺はなる!……?

なりたいかなー?そうでもないかなー?うん、特にそこまでなりたいわけじゃないな。

何でも鑑定士の夢は諦めよう。鑑定魔法ないし。


「異常ありません」


荷車を調べていた兵士が俺と話していたヒューマの兵士にそう声をかけ、声をかけられたヒューマの兵士は懐から決済用らしきカードを取り出した。


「それでは、2名分と荷車1台の通行料、銅貨30枚を支払ってもらえるかな?」


あれ、もしかして偉い人でしたか?

主任みたいなそう言った?


あ、はい、大丈夫です。カードでお願いします。銅貨30枚~。移れ~。移れ~。


「うん、確かに。こんな大きな荷車で何をするのかはわからないが、門の外は魔物も出る。十分に気をつけて行くんだよ」


ヒューマの兵士さんの優しさに心打たれながら、俺達は無事に北門を通過することができた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「この辺りから森に入りましょう」


北門を通過してしばし、1時間くらいかな?ターレシュタットに続くと思われる街道を進んでいると、レビさんが森の奥へと続く小道を指差した。

どこへ向かうための小道なのかはわからないが、轍があるってことは人の通行があるってことだろう。


「了解です」


大きな荷車を引きながら小道に入り、またしばらく歩いた。

小道に入って人目がなくなったからか、「ちょっと早足にしますね」と言いながらかなり加速したレビさんの牽引っぷりに驚きつつも何とかついていく俺。


あぁ、なるほど、手加減してたんですね。わかります。

人目があると目立ちますもんね。わかります。

ただ、この速さだと俺の足がもつれるか、回らなくなるかで転んで荷車の下に巻き込まれそうな未来が見えます。

いやしかし頑張るぞ男の子。見た目小さな女の子に荷車引かせて自分は荷車の上で見てるだけなんて、男の子のプライドが許さねぇぜ。


負け、負けない。男の子はそう簡単には、負けない。あ、でも、ちょっと、もうちょっと、スピード緩めてもらっても、あ、はい、何でもないです。大丈夫です。ぬおおぉぉ。




なかなかの早足で森の中を進み、時間にして30分くらい歩いただろうか、そろそろ俺のふくらはぎが音をあげそうになっていた頃、小道が少し広くなっている場所でレビさんの足がゆっくりと止まった。


な、何とかついていけたぜ?俺、頑張ったぜ?

帰り道はどうしようかと思うけど!


行きも絶え絶えな俺とは違い、息一つ切らしていないレビさんはやっぱり体の作りからして違う生き物なんでしょうな。

羨ましいぜ。俺もそんな屈強な体が欲しいぜ。

いや、オプション先生に文句があるとかそんなことはないですけどね?

オプション先生万歳ですから。


若干まとまらない思考の中で必死に息を整えながらレビさんの様子をうかがうと、道の端に荷車を置いたレビさんは、んー、と可愛らしい声をあげながら辺りを伺うように見渡している。

よくよく見ると紺色の髪の隙間からちょこっと飛び出した尖った耳がぴるぴると揺れていた。


何これ可愛い!耳がぴるぴるしてる可愛い!んー、とか可愛い!え!?何してるの可愛い!!レビさん可愛い!!あざと可愛い!!


異世界にて出会った萌え要素の嵐に思考回路がショート寸前だ。

いや待て落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。

話を聞いた限り彼女は200年程の時を生きた見た目は子供、中身は大人の美少女?だ。

酸いも甘いも経験してきた彼女にとって、これも計算の内なのかもしれん。

そしてその可愛らしさにやられて手を出すと正義の味方的な何かがやってきて社会的に抹殺されたりされなかったりするんだ。


あれ?でも合法?年齢200歳は合法なのでは?

セーフ?セーフなの?上膳据膳なの?手を出さない方が失礼なの?え?あれ?


「辺りに人も居ないようですし、この辺りにしましょうか。……?マオ様?どうしました?」


「すは!?」


「すは?」


レビさんが何かをしている間に1人混乱の極みに陥っていた俺は、俺の顔をのぞきこむレビさんの問いかけによって現実世界に引き戻された。


あ、危ない。異世界どころか異次元に飛ばされる所だった。変な声も出たしな。

頭を冷やせ俺。クールに行かねば俺。


「いや、なんでもないです。ちょっと考え事をしていてですね」


「そうですか?体調が優れないなら無理はしなくて良いですよ?」


「いやいや、大丈夫です。さ、ぺルビを狩りに行きますか」


何事もなかったかのように振る舞いつつ、ぐるぐると肩を回す。

ヤル気満々だぞー!俺はやるぞー!とアピールだ。


「でもどうしましょうかね。森を歩き回ったらばったり出くわしたりするのかな?」


ヤル気満々感を出してから、はたと気づいた。狩りってそんな簡単に行くものかしら?

狩人とかのドキュメンタリー見た記憶を掘り起こすと、弓矢とか鉄砲とか担いで何日も山や森を歩き回って、みたいなイメージがあるわけですが?

もしかしてゴブリンズみたいに向こうから襲いかかってくるのだろうか。

家畜化されているってことは大人しい魔物だったりするのでは?


あれ?どうしよう?

軽く受けた依頼だけど、その辺全く考えてなかったわ?

あれ?大丈夫か?


「大丈夫ですよ?今から呼びますから」


「……呼ぶ?」


そんな言葉に俺が首をかしげると、レビさんは親指と人差し指で輪っかを作りそれを咥えて


ピュィーーーーーーーーッ!!!!


森に、森の向こうに見える山々に響き渡るかと思うほどの指笛を吹いて見せた。


わぁ、すっごぉい。

こんな見事な指笛を見たのは初めてかもしれんね。

旅行で行った南の島のおじさんが見せてくれた指笛に勝るとも劣らねぇぜ。

して?指笛で呼ぶ?え、まさかぺルビを?ははは、そんなまさか、ご冗談を。


指笛を吹き鳴らした後、尖った耳に手を当てて何かを待つレビさん。

その姿には冗談の雰囲気は微塵も感じられない。

本気だ。本気と書いてマジだ。


しばし耳に手を当てていたレビさんは森の奥に目を向けて一つ頷いた。


やがて、森の中から何かの音が聞こえてくる。


ドドドド……。

ベーベーベーベー……。


ん?


ドドドドドドドド……。

ベーベーベーベーベーベーベーベー……。


んん?森の中から何かの音が?


ドドドドドドドドドドドドドドドド!!

ベーベーベーベーベーベーベーベーベーベーベーベー!!


なんぞ!?何の音ぞ!?

まさか!?ホントに!?


レビさんを見ると腰に手を当てて、控えめな胸を張り、もれなくドヤ顔である。


謎の地響きと何かの鳴き声がどんどん近付いてくる。


戸惑いながらも音が響いてくる方向の木々の間に目を凝らすと、森の奥から、土煙を上げながら毛玉の波が押し寄せてくるのが見えた。

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