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頑張れ俺のストマック




「あら、中で待ってたんですか?外で待っていても良かったんですよ?」


冒険者ギルド正面ロビーの片隅に置いてある椅子に座る俺に、レビさんが近付いてきた。

冒険者登録は無事に済んだようだ。メドルテさんに任せておけば間違いはないとは思っていたけどさ。


「いやいや、はぐれたら困るし、依頼書掲示板も見たかったので、大丈夫ですよ」


空いていた隣の椅子にレビさんを座らせながら、俺は手に持っていた一枚の依頼書を手渡す。

鼻にダイレクトアタックを仕掛けてくる臭気の中を潜り抜けてなんとか確保してきた一枚だ。


「残ってたやつの中ではこれが良いかなぁと思ったんだけど、どうですかね」


レビさんに手渡した依頼書には「野生のぺルビの狩猟」という依頼が書かれている。


依頼内容・野性のぺルビの狩猟

依頼人・肉卸売り人 マンヨウ

推奨受注階級・銅2級程度

依頼対象・野性のぺルビ2頭以上 未解体の方が望ましい

報酬・ぺルビ1頭につき小銀貨1枚

期限・依頼書を貼り出してから5日以内

備考・解体はしなくて良いが、仕留めた時点での血抜き必須 頭数は多ければ多いだけ良い その分報酬は上乗せする 狩った物はそのまま店舗に納品すること 納品と引き換えに依頼達成書を渡す


こんな内容だ。


街の周りの森や山にいるぺルビを数頭狩ってきて欲しいという依頼だ。

しかも1頭丸々買い取ってくれるらしい。


家畜化が進められているとはいえ、そこそこ大きいと思われるマインエラの街。

街の周りの森や山にたくさんいるというぺルビではあるが、街中で毎日消費される肉の需要に供給が追い付いていない部分があるのかもしれない。

供給が滞れば食事の質も量も下がってしまう。それは困る。一消費者として困る。ベーコンすげぇ美味かったし。

そこで何でも屋冒険者ギルドの出番というわけである。


大棚の肉屋さんが、おう、ちょっとぺルビ狩ってこいよ、と言って依頼を出している感じなんだろうか。


ぺルビ狩猟という内容は一緒だけど、依頼している人の名前だけ違う依頼書が何枚か貼ってあったから、ぺルビの需要の高さが伺えるな。

しかも全身余すところなく使えるって凄いことよね。


「なるほど。報酬は少ないですが、解体しなくても良くて1頭丸々買い取ってくれるなら良い仕事かもしれないですね」


依頼書に目を通したレビさんが頷きながら言う。

そうなのだ。ぺルビの狩猟依頼は需要のわりに意外と報酬が安い。


お値段なんと小銀貨1枚。

魔物を狩って得る報酬としては安すぎませんかね?

羊1頭でスカーフと同じくらいってどうなの?スカーフが高いのか?


丸々1頭買い取ってくれることを考えれば手間がかからないとか良い部分もあるが、遠目から見た感じでもなかなかの大きさのぺルビを運んでくる大変さも考えなければならない。


その辺も供給の部分に響いてる気がするんだけど、あんまり報酬を高くすると採算がとれないとかそう言った理由なのかな。

仕方ないのかもね。お店側も生活がかかってるし、冒険者側だって生活がかかってるからね。

お互いWin-Winの状態にするなんて難しいしね。


「森で仕留められたとして、運ぶのも大変ですよね」


「どうやら狩ってきた獲物を運ぶ荷車を貸し出してくれる施設があるみたいです。そこに荷車を借りに行きましょう」


え?そうなの?初耳ですわ。

でもなるほど。1頭でもなかなかの大きさっぽいからね。荷車あったら便利よね。

しかも貸し出してくれるなんて良心的だなぁ。


「そんなサービスがあるんすね」


「ええ、ここの近くの倉庫で借りられるみたいですよ。有料ですけど」


そんなサービスと倉庫があったんだ。知らなかった。

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と申しますゆえ、わからないことって聞いていかないとダメですわな。

聞かないとわからないことってたくさんあるものね。

と言うかそれはどこ情報?メドルテさんは教えてくれなかったよ?

女性オンリーの情報とかですか?

いつの間に情報収集ですか?


俺が不思議そうに見ているのに気付いたのか、ふふんと得意気な顔をしたレビさんは紺色の髪からちょこっと飛び出している尖った耳をちょいちょい、とつつく。


え、何そのしぐさ。可愛い。とても可愛い。ちょこっと飛び出している耳とかいじくり回したい。

そのジェスチャーはあれですか?耳が良いとかそう言ったやつですかね。

なるほど。ざわざわがやがやの中からいろいろな情報を得ているんですね。さすがレビさんドヤ顔可愛い。


「さぁ、そうと決まれば行きましょう」


「うっす、行きますか。暗くなる前には帰ってこないとですからね」


「はい」


椅子から立ちあがり、レビさんから返された依頼書を腰のポーチにしまって俺たちは近くの倉庫とやらへ向かうことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ギルドを後にして数分歩くと、目的の倉庫に到着。

とても近い。

近いが、外観からしてなかなかの大きさの石材造りの倉庫だ。


ギルドと提携しているらしい商店の倉庫だそうだが、中には様々な道具が所狭しと並べられていて、それの整理をしたり運び出したりしている屈強な野郎共がいる。


荷車、つるはし、スコップ、ハンマー等々、使い古された道具の数々が並んでいる。

鉱山で使われる道具が多いように見えるのは土地柄もあるのかもしれない。


その倉庫の内部の様子を見て、俺は思った。


あぁ、これリース屋だな。

仕事で使う道具をいろいろとレンタルしてくれるあれだ。

凄いなぁ。この世界でもこんな商売が成り立つんだなぁ。持ち逃げとか転売とかされちゃったりしそうだが。

しないのかな。

あぁ、でもこの屈強な野郎共を見て持ち逃げとかしようと思っている輩は考えを改めるのかも知れない。

うん、どこぞの軍隊かよ?みたいな風貌だものね。とても怖い。


しかしそんな野郎共に臆することもなくレビさんはスタスタと入っていく。

レビさんのメンタルが鋼鉄すぎてヤバイ。小心者俺はついていくのでやっとの思いであります。

ひー、待ってー。


「すみません。こちらで荷車を借りられると聞いたのですが」


レビさんが話しかけたのはスキンヘッドで顔に大きな傷がある強面度120%のお方。

筋骨隆々で上背はレビさんより、いや、俺より大きく、2メートル以上あるように見える。

現に俺も見上げているしな。


何故っ。よりによって何故その人っ。

探せば他にも話を聞きやすそうな人がいるでしょうに。だのに何故っ。


「あん?荷車?お嬢ちゃん、誰かのお使いか?ここの道具を借りられるのは冒険者ギルドに登録してるやつだけだぞ?」


大きな体を折り曲げてレビさんの顔をのぞきこむ強面スキンヘッドさん。

圧が、肉圧が凄い。


「お使い、と言えばお使いかもしれません。けど私も冒険者なので、借りる資格はあると思いますが」


そんな強面スキンヘッドさんの迫力に気圧されることすらなく、ポケットから自分のギルドカードを取り出して見せながら言うレビさん。


動じない。全く動じないぜ。さすがレビさん。

俺?動じまくりスティだわ。膝が笑いかけてるのを必死に堪えてるレベルだわ。わはははは。


「おう、これはこれは。可愛らしい冒険者が来たもんだ。荷車の貸し出しか。何に使うんだ?それによって大きさも変わってくるが、お嬢ちゃんが出来そうな仕事で荷車を使うなんざ、何の仕事があったかな?」


ツルリとした頭を掻きながら強面スキンヘッドさんは荷車がまとめて置いてある方に目を向けている。


あぁ、この人、顔は怖いけど仕事はきっちりこなすタイプの人だな。

相手を見て先に仕事の内容を考えて、使う道具にある程度の予測をつけている。それってなかなか出来ないことよね。顔は怖いけど。


「ぺルビを運ぶための荷車を借りたいんです。人が引ける物で、大きければ大きいだけ良いのですけど」


「ぺルビィ?」


強面スキンヘッドさんが首を傾げながら再びレビさんの顔をのぞきこむ。


「お嬢ちゃんのギルドカードは銅5級だったよな?尻に殻がついたまんまのヒヨッコのお嬢ちゃんが一人でぺルビ狩りだぁ?そりゃあちょっと無謀じゃねぇか?」


じろりじろりとレビさんの様子を確認する強面スキンヘッドさん。

その様子たるや巨大な肉食獣が獲物をどこから喰ってやろうかと品定めしているようだ。恐ろしい。


し、心配してくれてるんですよね?恫喝してるわけじゃないですよね?食べようとしてるわけじゃないですよね。

体を折り曲げても小山みたいなんですけど?レビさんがもっとちっちゃく見えますよ?


「いえいえ、大丈夫ですよ。一人ではないですし、そもそも一人でもぺルビくらいなら問題ありませんし」


「むう、そうかぁ?」


「はい。こちらの方と一緒なので」


レビさんのキラーパス。

強面スキンヘッドさんのターゲットが俺に飛んできた。

強面スキンヘッドさんのにらみつける。

俺のぼうぎょが下がった!


「ほお、二人組?かい?それにしたって、そんな装備でねぇ?」


強面スキンヘッドさんは俺の頭から足の先までじろりじろりとにらみつける。がりがりと俺のぼうぎょが下がっていくような感覚に襲われる。

居たたまれない。とてもとても居たたまれない。目付きが怖すぎるぞ。強面スキンヘッドさん。


「大丈夫です。こう見えて腕は立ちますから。気にしないでください。さ、早く荷車を貸してくださいな」


未だ体を折り曲げて小山のような体勢をしている強面スキンヘッドさんを急かすレビさん。

相変わらずレビさんのメンタルがヤバイ。オリハルコンとかヒヒイロカネとかそんなレベルじゃないですかね?


「お嬢ちゃんはこう言ってるが?あんたの方は大丈夫なんだろうな?」


強面スキンヘッドさんのにらみつける。

俺のぼうぎょはもう下がらない!


「え、えぇ、大丈夫です。問題ありません」


精一杯きりりとした表情を作って、強面スキンヘッドさんの顔を見ながら言う。

見つめるのは目ではない、鼻の辺りだ。

決して目は合わせないが、目をそらしているわけでもない。いつだったか面接を受ける時かなんかに習った技だ。こんなところで役に立つなんて思いもよらなんだ。

今の俺にはこれが精一杯である。いやマジで。


そして強面スキンヘッドさんが俺をにらみつけること数秒。


「二人してそう言うなら仕方ねぇ。俺がとやかく言うことでもねぇやな。さて、ぺルビが乗るぐらいの荷車か。見繕ってやるからちょっと待ってな」


ふう、と息を吐くと小山のように縮めていた体をぐぐっと伸ばし、強面スキンヘッドさんはのっしのっしと荷車がまとめて置いてある方に歩いていった。


はぁ、おっかなかったわ。何とか乗りきったって感じだ。

俺のストレスが半端ないです。

頑張れ俺のストマック。負けるな俺のストマック。


ほっと胸を撫で下ろしていると、強面スキンヘッドさんの後ろをレビさんがトコトコと付いて行くではないか。

待ってなって言われたじゃないですかやだー。レビさん待ってー。


「あん?待ってろって言ったがなぁ?」


付いてきていた俺とレビさんを見て、強面スキンヘッドさんがツルリとした頭を掻く。


ですよね。ですよね。俺もそう思います。

でもレビさんがね?そしたら俺残るわけにいかないじゃないですか。


「まぁ、良いか。そっちの兄ちゃんが引くなら、このくらいの荷車で良いんじゃねぇかと思うが」


強面スキンヘッドさんの指し示す所には俺が知っているリアカーと同じくらいの大きさの箱形荷台の両側に車輪が一つずつくっついた荷車が置いてあった。

荷台の大きさは縦120cm横80cmくらい、引手は鉄製で所々鉄で補強されてはいるが、引手がしっかりと固定された荷台も荷台の枠も車輪も木製だ。


うん、これ、リアカーだね?古き良き時代のあれだね?どこからどう見てもリアカーだね?

なるほど、これなら引けるな。経験あるからね。あ、でもタイヤが木製だな。重そうだ。段差とかの衝撃がもろに来るタイプのやつだな。

ぺルビ乗っけたらどうなるやらだが、頑張ろう。おう。頑張るぞ男の子。


「この荷車だとぺルビなら3頭ぐらい積めるぜ。3頭積んで、兄ちゃんが引けるかはわからんが」


「だ、大丈夫です。頑張ります」


「まぁ、頑張れや。じゃあ貸し出しの手続きを…」


強面スキンヘッドさんが荷車を引き出し、俺がそれを受け取ろうとすると


「小さいですね。もう一回り大きいのを、せめて5頭、出来れば6頭以上積めるやつをお願いします」


レビさんがそんなことを言い出した。

動きを止める俺と強面スキンヘッドさん。


もう一回り?6頭以上?え?それを、引けと?

重、重くね?引ける、かな?いや、引ける引けないではない、引くのだ。そうだやる気の問題だきっと。頑張れ俺。頑張るぞ男の子。


「お嬢ちゃん……。言っとくが、ぺルビは銅5級にほいほい狩れるような魔物じゃねぇぞ?わかってんのか?」


「心配していただいてありがとうございます。ですが、私の言った通りの物をさっさと貸し出してくださいませんか?いい加減、時間の無駄です」


呆れた様子でレビさんを見る強面スキンヘッドさんの言葉に、笑顔ながら苛立ちが混じった声で返すレビさん。


うひいぃぃぃ、レビさぁぁぁん。なんてことをぉぉぉ。


ギロリ、とレビさんを見下ろす強面スキンヘッドさん。その視線を受けてなお、素敵な笑顔を絶やさない小柄な美少女レビさん。

その二人の雰囲気に気圧されて一人縮み上がる小心者俺。


そんな俺を置き去りに、しばしにらみ合う両者。

片や筋骨隆々の大男。片や小柄な美少女。

体格差は圧倒的。戦力差は圧倒的に思えるが、数百年生きているはずのレビさんがどれ程の実力の持ち主かわからない。

勝負の行方は!?


俺が一人、ハラハラドキドキしていると、やがて強面スキンヘッドさんは大きなため息を吐くとやれやれと首を振った。


「そうかいそうかい。ならもう何も言わねえ方が良いな。これより大きい荷車はこっちだ。そのまま持っていくなら付いてきな」


レビさんから視線を切った強面スキンヘッドさんは、引き出しかけた荷車を元の場所へ押し込むと倉庫の奥へと歩いていった。

それにスタスタと付いていくレビさん。

それを見送る小心者俺。


何だろう。俺、こういうストレスがない、のんびりした生活が送りたいだけなのですが。

胃が、胃がヤバイ。

頑張れ俺のストマック。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇






強面スキンヘッドさんとレビさんのバチバチ感が終了した後、大きな荷車は無事に借りることが出来た。


大きな荷車のリース代は1日銅貨30枚。


紛失、破損などした場合は修理代、新しい荷車の購入代を支払うこと。

転売、持ち逃げなどはしないこと。しようとしても、貸し出した道具には商会のマークが印字されているため、すぐにバレるようになっている。

それでももし、転売、持ち逃げなどが発覚した場合には街の処罰規定に則って相応の対処をする。

犯罪奴隷落ち等、厳罰が課せられるので心すること。

等々細かい話を強面スキンヘッドさん、もとい倉庫管理者のゴーベルゴさんが説明して、手続きまできっちりとしてくれた。

ゴーベルゴさん、強面スキンヘッドさんのことな。倉庫の中でもそこそこ偉い立場の人だったみたいね。

商会のお偉いさんから倉庫の管理を一任されてるんだって。

しかも元冒険者で、嫁さんをもらうときに引退してお堅い仕事に付いた愛妻家らしいよ。


レビさんにいろいろ言っていたのも、冒険者時代に新人が無理をして大怪我や死んでしまったりするのを見るのが辛くて、無理をしようとする新人を見るとつい口うるさくなってしまうのだそうだ。


レビさんについても心配であるようで。


「やる気があるのは悪くねぇ。だが、無茶はするな。これ以上は無理だと思ったら命が危なくなる前に、荷車なんざ棄ててお嬢ちゃんを抱えて逃げろ。荷車は金を出せばいくらだって買えるが、命は万金積んでも買えねぇ。だが命さえあれば金はまた稼げるし、何度でもやり直せるんだからな。男ならお嬢ちゃんをしっかりと守るんだぜ」


と、熱いお言葉をもらった。

ゴーベルゴさんめっちゃイイ人じゃないですか。

見た目で判断しちゃいけませんよね。ほんとにごめんなさい。


しかも正にその通りでございます。

いのちだいじに、が俺のメインの作戦でありますから。

レビさんにも無理はしないように言い含めますとも。

命は一つ。割れたら二つ。そんな馬鹿な。




そして今俺は、ガタガタゴトゴトと木製の車輪が石畳を滑る音を聞きながら北門への道を歩いている。

激しく荷車が行き交う大通りから一本外れた通りだが、人や荷車の往来はそこそこだ。

そんな、そこそこの往来をする人々はちらちらとこちらに視線を向け、通りすぎた後にひそひそと小声で何かをささやきあっていた。


その理由は明らか。


前に見た馬みたいな動物が引いていたのと同じくらいの、大の大人が一人で引けるかな?引けないかな?という程の大きな荷車を華奢で小柄な美少女が悠々と一人で引いているのだから。


そう、レビさんは大きな荷車を自ら引く気満々だったのだ。


レビさんは華奢で小柄な体には似つかない凄い力の持ち主だったようで、強面スキンヘッドさんが隆々たる筋肉を動員し、引っ張り出してきた大きな荷車を受けとると、涼しい顔をしてスイスイ引き出したのだ。


これにはゴーベルゴさんもびっくり。


「ギルドカードと見た目だけで判断するもんじゃねぇな。俺の目も鈍ったもんだ」


とレビさんに謝っていたくらいだ。


さすがレビさん。俺の手を掴んでた時も力強くて全然離れなかったもんね。わかります。


でもそうは言っても男の子。小柄な美少女だけにそんな力仕事をさせ続けるのは心苦しいことこの上無い。

倉庫を出てから何度か俺も手伝うよ、と言ってみてもレビさんは頑なにリアカーを引くのを代わってくれることはなかった。


「私一人で大丈夫ですから」と。


しかしそんな状況を知らない人の目には、過酷な労働を強いられている可哀想な美少女と、その隣を歩く手ぶらで身軽な搾取する側の俺、としかうつらないだろう。

ちなみに俺が背負っていたリュックは荷車の上である。


ひそひそ話もやむを得まい。


「あんな小さい子にあんな大きな荷車を引かせて、自分は手ぶらなんて、どういう神経してるのかしら」


「見てよあれ。男としてどうなの?」


「可哀想に。少しくらい手伝ってあげれば良いのに」


やむを……得まい。


やむを得ないことあるかい!これ以上の負担は俺のストマックに深刻なダメージを与えることこの上無い!


ちょっと恥ずかしいが、背に腹は変えられん。

胃に穴が開いてからでは遅いのだから。俺のメンタルが折れてからでは遅いのだから。


俺はおもむろに鉄で出来た引手を跨ぎ、引手の内側に入った。

そしてレビさんに並んで鉄製の引手を握る。

俺の引く力など微々たるものかもしれないが、これならば、大きなリアカーを仲良く二人で引いているように見える、はずだ。


「あらマオ様、私一人で大丈夫ですよ?」


不思議そうに俺の顔をのぞきこむレビさん。

そんな美少女に、俺は小さく首を振った。


「お願いだから、手伝わせて下さい」


心からの切なる願いは


「……そこまで仰るなら」


無事に届いたようだ。

これで誤解によるひそひそ話も落ち着くはずだ。





しかし今度は道すがらの屋台のおば様方に


「あら、仲良しで良いわねぇ」


「まぁまぁ、あんなに小さいのにお手伝いなんて微笑ましいこと」


「うちの旦那にも見習わせたいもんだよ」


などと優しい視線を向けられるようになり、別の居心地の悪さを感じ出すという状況に陥るのは予想外だった。


心なしかレビさんの横顔が赤い気がする。気のせいだろうか。気のせいかもしれない。

だがきっと俺の顔は赤いのだろう。

恥ずかしいからね。居たたまれないからね。


あぁ、北門まではもうすぐだ。頑張れ男の子。

頑張れ俺のストマック。負けるな俺のストマック。

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