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レビアーマの暗躍




私の名前はレビアーマ・フールート。


聞くも涙語るも涙な魔生を送ってきた薄幸の美女です。


中級魔族の家に産まれ、何不自由なく育ち、才色兼備の子女として名を馳せ、魔王直属の部下として働いてきた私。

これからも様々な戦いや作戦に身を投じ、その中でいずれ素敵な男性と巡り合い、素敵な結婚をし、くんずほぐれつした後に、可愛い赤ちゃんを授かり、美しいまま老いて、子供たちに見守られながら死んでいくのだと、信じていた私。純真無垢だった私。


可哀想に、残念ながらそんな未来が訪れることはありませんでしたけれど。


そう、私はある日下された使命のために、200年にも渡る苦行を続けることになったのです。


世界中を長い時間をかけて巡り、探し続け、ようやく見付けた封印の地。

そこには魔神の封印を守る一族なんて愚かな人間もいましたが、私の敵ではありませんでした。

数人の生きの良い者をペットにしたのも良い思い出です。


その後、くそったれなほどに厳重に施された封印を打ち破るための術式を開発し、そのための儀式の準備も全力で、必死になって魔神復活に尽くしてきました。


途中、魔神の瘴気によってダンジョンが形成され始めてしまい、それ目当てに集まってきた人間共から魔神の間を隠すために結界を張り巡らせたり、ダンジョンを上手く作り替えて擬態させたりと、様々な苦労がありました。


そう幾百の針の穴を一度に全て通すような緻密な術式の構築作業と、術式を起動させるための膨大な魔力を人間共に気付かれないように少しずつ少しずつ溜めるという気の遠くなるような作業をたった一人で、孤独に続けてきたのです。

ですがそれも最適な方法が確立されてしまえば、あとはそれを維持するための根気がいるだけでしたが。


その途中、大事に大事に飼っていた人間が寿命で死んでしまって、本当に一人っきりになってしまい、寂しい思いをしました。

魔王見習いと名乗る人間に襲われたこともありました。


その度気持ちを奮い立たせ、使命に邁進しました。


ここ40年は何の山も谷もない退屈と暗闇に閉ざされた時間でしたが。


ですが退屈と言うことは、何事も起きないと言うこと。何事も起きない、と言うことは全てが順調に進んでいる、と言うこと。

そう全ては順調で、でも退屈で。


このままこうしてたった一人で魔神を復活させるのだな。

あぁ、同時に旅立った仲間たちはどうしているのだろう、私達に使命を下した魔王はどうなったのだろう、などと考えながらぼんやり過ごしていた私。


そんな退屈と暗闇に閉ざされた時間に終わりをもたらしたのは、つい数日前のとある出来事でした。


数十年の苦労が、後数年程で実を結びそうにな段階に達し、大きな安堵と少しずつ沸いてくる達成感に喜んでいたその時でした。


その数十年、いえ、計画発案時から数えれば200年にも及ぶ苦労の結晶。

私の生涯をかけたそれは、何処からか、本当に何処からか沸き出やがりました人間に、一瞬にして全くの無へと変えられてしまったのです。


茫然自失です。


始めは何が起きたのかさえわかりませんでした。


あれだけ積み上げてきた努力を、苦労を、時間を、一瞬にして消し去られるなんて。


こんなことが起きるなんて。


こんな呆気なく無意味な物にされるなんて。


そんな仕打ちを受けるくらいなら、50年ほど前に現れた魔王見習いを名乗る人間に殺されかけ、溜め込んでいた魔力を奪われたあの時の方がまだマシでした。


美しく、流麗でいて、雄々しい、圧倒的な力で捩じ伏せられたのですから。

今思い出すだけでも……ゾクゾクします。


強者は正義。弱者は悪。魔族の不文律です。その時殺されなかっただけありがたいと言ったものです。


しかし今回の出来事はどう考えても許しがたい物でした。

何の思惑もない塵芥な魔力しか持たない人間に、全てを台無しにされたのですから。


その人間が立ち去った後、私は我に返り、現状を再確認して、我を忘れました。


あぁ、私の数十年、私の生涯をかけた使命、全てを台無しにした憎き人間め、憎き使い魔めと。


私はその人間を追いました。数十年ぶりの外の空気といつの間にか作られていた街を楽しむ事もなく、数十年に及ぶ儀式の準備のために疲弊していた自らの魔力を振り絞り、気配を隠蔽されても追い縋り、追って追って追って、ようやく捕まえた憎き人間。


捕まえた瞬間は溢れんばかりの憎悪に身を焦がしていた私。

ですが『隷属の首輪の呪法』を跳ね返され、私の魂に刻まれた使命が上書きされたその時、何だかとてもスッキリとしたのを覚えています。


あぁ、何故あんなにも魔神の復活に拘っていたのか、何故あんなにも憎悪に身を焦がしていたのか、と。


魂が解き放たれた瞬間でした。

頭の中の靄が晴れ渡っていくようでした。


『隷属の首輪の呪法』を跳ね返されなければ、今頃その人間をダンジョンまで連れ帰り、好きなだけ嬲り物にして殺し、再び魔神復活の儀式を行うことだけを考えて生きていくことになっていたのでしょう。


それを防いでくれたことには感謝しても良いと、思っています。ちょっとだけ。

数十年の苦労を無駄にされた怨みは消えませんでしたがね。


さて、その人間は今となっては私のご主人様。


私の魂を捧げた『隷属の首輪の呪法』によって私はご主人様に魂を縛られてしまいました。


あぁ、何て可哀想な薄幸の美女。

魔神復活の奴隷から解き放たれたと思ったら今度は人間の奴隷です。

あぁ、何て可哀想な私。


運命の神は私にどれほど試練を課せば気が済むのでしょうか。

美人薄命とはよく言ったものです。

才色兼備、見目麗しく何でもこなす私に運命の神も嫉妬しているのでしょう。それならば仕方ありません。


ですが今回の試練は魔神の復活に比べれば簡単なものだと私は思います。


私の首に嵌まる呪いの首輪の解除の条件、それは私かご主人様のどちらかが死ぬこと。

この条件にしたのはある意味正解でした。


何故なら、隷属の首輪の呪法、解除の条件。

それは他ならぬ私自身の手で、簡単に満たせてしまうのですから。


塵芥の如き魔力しかないご主人様。

私が彼に殺される事など万が一にもあり得ません。

だからこそ、奴隷が主人に危害を加えられるように条件を緩めていたのです。


これは、勝てないとわかっていても向かってくる者を、力で捩じ伏せ、蔑み、いたぶることで快楽を得る、そんな私の仄暗い感性が起こした奇跡でしょう。


ご主人様を起こさないようにベッドからゆっくりと立ち上がります。


念には念を入れて、睡眠魔法をご主人様にかけ、軋む床の音を部屋の中全てを覆う遮音魔法で消し去ります。


ご主人様がすやすやと寝息をたてるベッドの脇に立ち、私は右手に魔力を集中させます。


ご主人様如きでは耐えられない程の魔力まで凝縮し、高めます。

あとは、これでご主人様の胸を撃ち抜くだけ。


それでこの使命ともお別れ。

晴れて私は本当に自由の身になれるのです。


数時間の間のご主人様。

数十年の時間を無駄にされた怨みも多大にありますが、魔王の使命から解き放ってくれた感謝も少しだけあるのです。

せめて、苦しまぬように一撃であの世へ送ってあげましょう。


ご主人様、いえ、マオ様。


短い間でしたが、塵芥のような人間の分際で、私の様な美女を奴隷に出来て幸せだったでしょう?

その幸せを胸に抱いたままで。

そしてそんな美女に手を出さなかったことを後悔したままで、どうぞ安らかに、お眠り下さい。








さようなら








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