清々しい朝とぼっち終了のお知らせ
朝、鳥の声と、朝日が射し込む感覚で目が覚めた。
ベッドの上で体を起し、力一杯伸びをして体を解す。
とても清々しい目覚めだ。
いやぁ、何だか凄くよく眠れたな。寝付きも良かったからか体調も万全だぞ。昨日の疲れが嘘のようだ。
レビさんが隣に寝ているからちょっと緊張していた気もするが、寝転がってみたら早かったな。
自分でも自覚がないくらいよほど疲れてたのかもしれない。
ふわぁ、とあくびをしながらふと視線をあげると、俺の頭の上にオプション先生がいつも通りの柔らかな光を放ちながら浮いているのに気が付いた。
その丸々しさは今日も健在だ。
いよっ!先生!今日も丸々しいね!
誉め言葉になるかはわからないがとりあえずよいしょしておこう。
あれ?でも昨日はランタンに入れっぱなしにして寝ちゃったような気がしたのだが、いつ出したのだろう。
寝ぼけて呼び出しちゃったのか?
それとも自分から俺の上に移動を?
あらやだ可愛らしい所もあるじゃないですか。
いやまぁ、オプション先生はいつだって素敵な丸々しさですがね。
そんな中、右手の手首に嵌まっている禍々しい腕輪を見て、見て昨日のあれこれが夢でなかったのだと思い知らされる。
まぁ、あれだけのインパクトのあるイベント。夢だとしても衝撃的に過ぎる。
奴隷だなんだもいろいろ受け入れて上手くやっていくしかないんだろうか。
呪いの首輪なんて、出来たら解除してあげたいところだが…。
死なないと外れないなんて言うんだもんな。
それはちょっと所じゃないくらい難しいな。
死にたくないでござる。死にたくないでござる。
出来ないのだから、それはもう仕方ないとしよう。
頑張って養って行こう俺。頑張ろう俺。
さてその問題のラビさんは、と逆側の壁際に設置されたベッドを見てみると、ラビさんが寝ているはずのベッドはもぬけの殻だった。
ずいぶん早起きだな。俺よりも早く起きて何処かへ出掛けていったのだろうか。
俺の奴隷になるとかかんとか、ややこしいことになってたからな。
先に起きてご主人様のために!とか何かやってるのかもしれん。
いや、まぁ、どうかはわからないけども。
もしかすると逃げ出してたりするのかもしれない。
何十年ぶりのお外だとか叫んでたしな。
やっぱり俺の奴隷をやるよりも自由に生きていく方が、レビさんにとって幸せだろうしな。
逃げてしまったのはもうどうしようもないよな。
あぁ、それなら昨日の夜にちょっとくらい手を出してても良かったかな、なんて思っちゃうぜ。
もったいないことしたなぁって。
据え膳食わぬは男の恥、って昔の偉い人も言ってたしな。
まぁ、レビさんが本気だったかは今となっちゃわからないけどな。
もし、一人で生きていこうとしてるなら、頑張っていって欲しいもんだ。
自分で自分の考えを笑いながらベッドから立ち上がると、レビさんが寝ていたベッドの陰に、レビさんが落ちているのを発見した。
えぇ……ビックリした。めっちゃ居るじゃん。全然逃げ出してたりしてないじゃん。
もしかすると逃げ出してたりしてるかもとか思ったりして、ちょっと罪悪感感じるわ。
ごめんな、レビさん。
それにしても凄い状態だ。
頭を下にして床に転がっているように見える。
凄く寝苦しそうな体勢だがそのままぐっすりと寝ているようだ。
大丈夫なのか?これ。
あー、なるほど?意外と寝相が悪い人なんだね?
ベッドから転げ落ちるほどに。
朝早くから何処かへ出掛けていったとか逃げ出してたりとか、そう言うレベルではなかったみたいだ。
うん、まぁ、そんな弱点があっても可愛らしくて良いと思いますよ。うん。
少し様子を伺っていたが、まだしばらく起きる気配もないし、こんな状態で放って置くのも可哀想なので、そっと抱き上げてベッドに寝かせてあげた。
お仕置きの時とは状況が違うからね。ちょっと抱き上げるくらいなら許容範囲だ。
基準は曖昧だけどね。
ま、まぁ、俺だって多少は女の子の扱いくらい心得てるからよ。
このくらいなら朝飯前ってもんよ。
正にな。正に朝飯前な。
ずり落ちたスカートの裾からのぞくおみ足が艶かしいわ、とか、わぁお肌真っ白で綺麗~、とか思ってないんだからね。本当なんだからね。
素敵な布地が見えてドキドキしてたりなんかしないんだからね。本当なんだからね。
さて、目の保養も出来たことだし、顔を洗ったり体を拭いたりしてこようかな。
顔洗って朝飯食べて、今日もしっかり働かねばな。
回復薬のレシピとか生活費とかのためにモリモリ稼がにゃならんからな。
レビさんを起こさないようにそっと部屋から出て、階下へ続く階段へ向かう。
開け放たれた廊下の窓から見える空は雲一つなく、青々とした空が広がっている。
あぁ、今日もいい天気だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
裏庭で顔を洗い体を拭いて、シャローネちゃんと挨拶を交わし、部屋に戻るとレビさんがベッドに腰掛けて呆けていた。
部屋に戻ってきた俺の顔を見て、「おはよう、ございます」と挨拶をしてきたが、その動きはずいぶんと緩慢なものだった。
俺も挨拶を返すが、返事はなく、レビさんは手を額に当てて顔をうつむかせている。
朝が弱いだけなのか。何かを考えこんでいるのか。
寝起きも良くないのかな?低血圧とかそういう体質?
まぁ、しばらくしたら、元気になるか。
窓を開けて日の光を取り込みつつ自分のベッドに腰掛けて、昨日は暗くなってきていてよく観察できなかったレビさんの姿をよく見てみる。
くせが強くパーマのようにもじゃもじゃした紺色の髪の毛、長さはショートカット?で首の中ほどまで。
即頭部の辺りの髪の毛の中からくるっと丸まって生えた角。羊かヤギっぽいが、髪の毛がもじゃもじゃだから羊系の可能性が高いかもしれない。
その角の下、もじゃもしゃの髪の毛の隙間から尖った耳がちょこんと自己主張している。
エルフ耳みたいなやつかな。うん、可愛らしい。
そして紺色の瞳と綺麗に整った顔立ち。まごうことなく美少女である。
白くて細い首には綺麗な顔立ちにはちょっと似合わない禍々した首輪が嵌まっている。
いやぁ、改めて明るいところで見るとその禍々しさが際立つね。めっちゃ禍々してるわ。
そう言えばとふと気付いた。今の彼女は昨日の夜に着ていたローブのような布を脱いでいた。
今の服装は髪の毛の色に合わせたのか同じ色のワンピースみたいな服、協会のシスターが着てる修道服みたいだけど、袖が七分くらいで袖口にかけてゆったりとしてる。
何て名前の服なんだろうね。ファッション関係詳しくないから上手く説明できんな。
足元は何かの革で作られたサンダルっぽい物を履いていたようだ。
昨日の夜、寝る前にベッドの脇に揃えて置いていた、が?無いな。
探してみたところ部屋の隅の方に別々に吹っ飛んでいた。
何がどうしてそうなったのか。寝相が悪いとかのレベルではない気がする。
俺の頭ではどうしてそんなことになったのか、ちょっと理解が及ばなかった。
足はさっき抱き上げるときにも見たが、ちゃんと人の足だ。羊かヤギっぽい角が生えてても蹄が付いてたりはしないみたいだ。
良かった。足舐めろとか言われて、蹄が付いた獣の足を、どーん、って出されたらいくらなんでも舐める勇気はなかったな。
ん?人の足だったら舐めるのか、って?言わせんな恥ずかしい。
身長はそんなに高くないな。
150cmちょっとくらい。
スレンダーな体型で、まぁお胸の方は控え目と言ったところか。
百何十年も引きこもってたらしいしね。あんまり運動とかしてなかったのかもね。わからんけど。
「何なんですか?朝も早くから人のことを舐め回すようにジロジロと。不愉快です。そういう視線は暗くなってからにしていただきたいですね」
わぁ、怒られた。不機嫌そうな感じがバリバリだぜ。
寝起きですものね。寝起き悪そうですものね。
それに目の前からジロジロジロジロ見てたらそりゃ怒られるか。
うん、そうですね。不躾でした。ごめんなさい。
「わかれば良いのです。そういう視線はもう少し暗くなってからにしてください。そうしたら答えてあげるのもやぶさかではありませんから」
はい。そうします。あ、でも暗くなってきてから以降を強調しないようによろしくお願いします。
「えーと、今日俺は朝御飯を食べたら、南門から外に出て、南の森で薬草採取の仕事をするつもりですが、レビさんはどうしますか?」
「薬草採取ですか?ずいぶん地味な仕事をするんですね?」
グサリ。朝も早くからいきなりのディスり具合。俺の精神にダメージが。いや、大丈夫だ。落ち着け。傷はまだ浅い。
しかし待て、薬草採取も大事な仕事だ。薬草がなかったら回復薬だって作れないんだからな。
そう、言うなれば俺は第一次生産者。大事な仕事だぞ。胸を張れ俺。
「薬草採取だって大事な仕事ですよ。それに地道にコツコツが成功のコツですからね」
「まぁ、確かに。ですがその使い魔がいれば、ドカンと一発大物狙いでも大丈夫そうですけど?」
「安全に行きましょう安全に。命は一つしかありませんから」
「全く、ご主人様は意気地無しですね。そんなだから昨晩も……」
聞こえなさそうでちゃんと聞こえるくらいの小声で言ってる……の部分は聞かなかったことにするぞ。
確かに意気地無しかもしれないが、ヤる時はヤる男だぞ俺は。ナニとは言わないが。ナニとは。
「まぁ、ご主人様が薬草採取とは言え、お仕事をなさると言うのなら、奴隷の身分の私はそれに付き従うしかありませんね。宿にいても何もできませんし。これでも多少は魔法の心得がありますから、少しくらいはお役にたてるのではないですかね」
何、だと。
「ほんとですか。そりゃ心強いな!」
やべぇ。ここに来てようやくのパーティーメンバーゲットだな!?
しかも魔法使い枠!素晴らしい!素晴らしいぞ!レビさん万歳!
ようやくぼっちとおさらばだ!一人寂しく黙々と薬草を集める作業とおさらば出来る!
お互いがお互いをフォローしつつ、楽しくお喋りしながら薬草採取することが出来るぞ!やったぁ!
「え?何ですか?ずいぶん嬉しそうですね?」
「嬉しいに決まってるじゃないですか。レビさんが手伝ってくれるなんて、最高に嬉しいですよ。正に百人力だ」
「そ、そうですか?そんな、お世辞言っても何も出ませんよ?」
何を仰るやら。心の底から喜んでますわ。
首輪の効果で縛り付けてる部分は申し訳ない気持ちで一杯だが、俺を裏切らないっぽい仲間が出来たってことは俺の精神安定に多大な影響がある。素晴らしいことだ。
「お世辞なんてことないですよ!俺は今、レビさんと出会えて良かったと心底思っています!あぁ、良かった!ありがとう神様!」
思わず僕っ娘系神様に祈りを捧げる無神論者から僕っ娘系神様信徒になりかけている俺。
これはもう、僕っ娘系神様教を立ち上げるしかないな。
あれ?でも僕っ娘系神様はこの世界で奉られてるんだっけ?
仕方あるまい。時間があるときに教会を探してみよう。うん、ちゃんとお祈りをしに行かねばな。
「ふふん、なるほど?ご主人様がそこまで仰るなら、悪い気はしませんね。塵芥の魔力しか持たないご主人様が、いつ魔物達に襲われるともわからない森の中を一人でうろつくなど、自殺行為と言っていいですものね。これから私が側についている限り、大船に乗ったつもりでいると良いでしょう。薬草採取の間に魔物と遭遇することもあるでしょうから。私がしっかりと守って差し上げます」
寝覚めの不機嫌そうな様子から一転。
ずいぶんとご機嫌になったレビさんは、ベッドから立ち上がると些か控え目なお胸を張って仰った。
もれなくどや顔だ。可愛らしい。とても微笑ましい。ニヤニヤ…いや、ニコニコ笑みがこぼれてしまうぜ。
「よろしくお願いしますレビさん。頼りにしてますよ」
「ふふん、お任せです!」
「よし、そうと決まれば善は急げ。朝御飯を食べて、南の森へ行きましょう!」
「そうですね!行きましょう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから俺達は岩壁の止まり木亭でしっかりと朝御飯を食べた。
一日の計は朝食にあり、だ。
今日の朝食メニューは厚切りのぺルビベーコンと目玉焼きと黒パン、ぺルビミルクのセットだった。
程よく焼かれた目玉焼きと表面カリカリに焼かれたベーコンを黒パンに挟んで食べる。
これぞ王道のモーニングセットだな。ベーコンの塩気が効いていて朝だけどぺろりといけてしまう。美味しい。
レビさんも美味しそうに頬張っている。もれなく笑顔である。可愛い。とても可愛い。
ちなみに今日はちょろ嬢様の襲来はなかった。
パンをかじってる最中に思い出したわ。今日も来てたらどうしようかと焦ったわ。
まぁ、無事に来なかったので一安心だ。
レビさんと仲良く一緒に朝食を食べた後は、いつもの装備とオプション先生インランタンをしっかりと装着し、意気揚々と南門へと向かった。
昼食までに戻ってくるつもりなので、弁当の用意はなしだ。
多分昼前までに背負ったリュックがいっぱいになるだろうからな。
ゴブリンの耳用小袋がいっぱいになるのとどっちが早いかな。
いやぁ、今日からは一人ぼっちじゃないから足取りも軽いぜ。
仲間が出来たからな。心細くないぜ。テンションも上がっちゃうぜ。
隣を歩くレビさんの表情も明るい。
空も快晴。穏やかな陽気。
何もかもが薬草採取日和だな。全てが薬草を刈れと言っている様だ。
ゴブリンもダース単位で狩ってってやんよ。
今日は良い一日になりそうだ!ようし、バリバリ働くぞー!
と、思っていた俺を待ち受けていたのは
「南門はしばらく通行禁止だぞ」
という衝撃的なひと言だった。
オウ、出鼻を挫かれるとは、正にこの事か。




