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ギルド退散の後のトラブル&トラブル




突き刺さる様に感じられる視線を避けながら冒険者ギルドを後にしてしばし。

裏口の方から聞こえた聞き覚えのあるような声の主は追ってきてはいないようだ。

気配のない追っ手とかいたらわからないけど、大通りの人混みの中では誰がそんな相手なのか見当がつくわけでもない。


宿までバレてる以上、何らかの手段を使っているとは思うけど、それを見抜く術なんて、ワタクシ持ち合わせがございませんことよ。

いざとなったら宿を変えるか、別の街に移動するしかないが、シャローネちゃんの魅惑の隙間や天然天使のラウラ嬢と離れるのは少し寂しい気がするな。

まぁ、命には変えられないから判断は誤らないようにしよう。

命は1つ。割れたら2つ。んなアホな。


身の振り方をあーだこーだと思案しながら、いつものように大通りを横切り、南区に入り、岩壁の止まり木亭に向かうちょっと手前の路地に差し掛かった所


「よう、兄さん。ちょっと良いかよ」


そんな台詞と共に脇道から姿を見せた見知らぬ男に道を阻まれた。

使い古されたというかあまり手入れのされていない軽装の金属鎧と、これまた使い古されているように見えてあまり手入れのされていない剣を腰に差した冒険者風の強面の男だ。

ボサボサの髪と無精髭が伸びた顔はちょっと考えてみても顔見知りになった記憶はない。

というかこんな強面の男と顔見知りにはなりたくない。


「は、え?どちら様で……」


情けなくもそんな声が出たところで、男が出てきた脇道から更に3人の男たちがこんにちわ。

更に更に後ろからも男の仲間らしき男たちが4人こんにちわ。

8人全員誰も彼も似たような出で立ちで強面だ。強面率が100%だ。凄い。シンクロ率100%だ。

誰も彼もニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺を取り囲む。

腰に差した剣の柄に手をやる者や、ナイフらしき物をちらつかせてる輩もいる。


あれ、これって、あれじゃね?

先輩冒険者による、ちょっとジャンプしてみろよ的なあれじゃね?

ポケットには特になにも入ってないけどな。


「兄さんよぉ、今日はめでたく昇級したみてぇじゃねぇか。良かったなぁ?」


と思いきや強面の口から出たのは祝福?のお言葉。


「は、はぁ、ありがとう、ございます?」


あれ?お祝い?え、でも、何このお祝い事じゃない雰囲気。


「俺らもよぉ、銅ランクの冒険者でなぁ。兄さんさえ良ければ、これからお仲間になるかも知れない野郎の昇級祝いに酒でも引っかけに行こうかっつう話になったわけなんだわ」


あれれ、お祝いパーティなの?パーティのお誘いなの?

誰も彼も見たこともないようなお顔の面々ばかりですけど、冒険者さんの繋がりってこういう風に広がって行くものなんでしょうかね?

確かに仲間は募集中だけど、ちょっと俺の方から遠慮したい気持ちで一杯です。

それにこんな風に取り囲まなくたって、もう少しやり方ってもんが……。


「兄さんの奢りでよ」


初めに出てきた男の言葉で周りの似たり寄ったりの男共が、ぎゃはは、と笑い声をあげた。


おう、やっぱりそっちですか。ですよねー。そうですよねー。そんな気がしてました。

やっぱりちょっとジャンプしてみろよ的なあれだったわー。うわー、いやー、マジかー。


「何ならカード振ってくれるだけで良いんだぜ?後はこっちで好きなようにやらせてもらうからよ」


カードを振る?カードってギルドカード?振ったところでなんの意味が?

いや、ちょっと意味がわかりませんが。あれか?冒険者のギルド用語的なあれですかね。

すいません。俺、冒険者になったばかりでそういうのわかんないんすよねー。


「おい、こら、何とか言えよ。びびってんのか?」


自分自身に降りかかっている事の非現実感に固まっていると、俺の背後にいた男が近付いてくるのが足音でわかった。


「いや、ちょっと待っ」


慌てて振り返るのと、背後の男が拳を振り上げるのはほぼ同時だった。

人と殴り合うことなんて、小中学校の時以来記憶がない。

荒事には無縁な人生だったのだ。

明らかに俺自身を目掛けて振るわれる悪意に、足がすくんだ。


殴られる。


そんな未来しか見えず、手で顔を庇いながら思わず目を瞑り歯を食いしばった。


ガッ!ゴッ!!という鈍い音が耳に響く。

あぁ、やっぱり目立つと変なものを呼び寄せるな。ラウラ嬢には先輩方からもう少し個人情報の大切さについて教え込んでもらわないとダメだな。

出来たら買取りカウンターは個室みたいにして防音しとかないとダメだよな。こんな結果を招きますもの。

そんなとこを考えながら歯を食いしばっていた。


が、いつまでたっても痛みが襲ってこない。

と言うか衝撃自体もない。


「……あれ?」


不思議に思いながら恐る恐る目を開けると、呆気に取られた顔をする強面の男達の姿が見えた。みんな一様にどこかを見ている。

男達の視線を辿ってみると、拳を振り上げていた男が路地の端に力なく倒れこんでいた。


身に付けている金属製の腹当てがべっこりと凹み、口から胃の内容物的な物を吹き出した状態で完全に脱力してぐったりとしたその様子から、意識どころか生命の有無さえわからない。

いや、しかしゴブリンの生命が危険なときの様子と比べるとだいぶ穏やかな感じを見ると、多分気絶している位ではないだろうか。

ビクリビクリとバイブレーションしていないし。


何がどうなってそうなったのか、状況を把握できない中視線を巡らせると、俺の傍らにオレンジ色の光を放つ球体がほわほわと浮いていた。

その輝かしいお姿は、もちろんオプション先生だ。

その「俺はやったぜ」的な雰囲気を放つ凛々しいお姿を見ただけで、ぐったりと倒れる男に何が起きたのか理解できてしまった。


ははーん、なるほどね?

飛びかかってきた前衛ゴブリンと同じような感じよね。きっと。


その厳めしい拳で俺にガツンと危害を加えようとしたところ、自動迎撃システム・オプション先生に物の見事に迎撃されたのだ。


しかし腐っても冒険者の先輩方。腕の方はたつはずでは。

オプション先生に普通に迎撃されてしまうのは如何なものなのか?

これはオプション先生が凄いということで良いのかな。先輩方がちょっとアレなだけか?


「てっ、てめえ!魔道士か!?」


「剣持って騙すなんざ(こす)い真似しやがって!!」


しばらく呆然としていたが、我に帰った強面の男達がわぁわぁと騒ぎだした。

剣を抜く奴や、ナイフを構える奴もいる。

完全にやる気だ。いや殺る気かもしれない。


ちょっと待って!何だか誤解してる部分が見え隠れしているけど!騙そうとする気なんて全くないんですが!?

と言うか先に手を出してきたのはそっちじゃないですか!


心中穏やかではない俺の周りで殺気立つ野郎共。

人気のない路地では誰かの助けも期待できないだろう。

そして前後を囲まれたこの状況。

しかも1対7、いやオプション先生含めて2対7だ。

戦力的に圧倒的不利。もしかしなくてもヤバイ。


「あーあ、おとなしくしてりゃ痛い目見ずにすんだのによぉ?バカな野郎だ。おい、カード振る腕1本残して動けなくしろ」


最初に出てきた男が鼻で笑いながら周りの男達に指示を出した。

このグループのリーダーなのだろうか。

それにしても指示が物騒だ。

動けなくしろってことはまだ殺すつもりはないみたいだが、カードを振るという行為をした後にどうなるかは嫌な予感しかしない。


いやいやいや、どうしようどうしよう。


混乱しながらも背後からの攻撃を避けるために、路地の壁に背を預けた。

もちろんオプション先生に迎撃された男が倒れているのとは逆側の壁だ。

そして腰にある剣を抜いて構えた。

これなら四方八方から一方的にボコボコにされる危険は減ったと思う。

後は男達がどれだけヤル気があるかだけだ。


「ちっ、何やってやがる。おい、同時にかかれ。一撃当てりゃ使い魔も維持できねぇだろ」


再びリーダーっぼい男からの指示に、左右から男達が剣やナイフを手ににじり寄る。

その刃物特有の鋭い切っ先と輝きに背筋に冷たいものが伝う。


いやいやいや、殺る気しかないじゃないですか。

金を盗られて殺られる未来か、殺られて金を盗られる未来しか見えないじゃないですか。

何でこう命の危険系のイベントがたくさん起きるんですかね?

俺はもっとこう、のんびりほのぼの暮らせていけたらと思っているだけなのですが!

僕っ娘系神様が何らかの呪いみたいなのをかけてるとしか思えないぜ。

あのほら、トラブル体質みたいなバッドステータス系のスキルがついてたりとかするんだぜ。

わからないけど!


「っだらぁ!!」

「ぬえぇい!!」


僕っ娘系神様への疑いが高まりつつある中、野太い声と共に男達が左右から飛びかかってきた。

上段から大振りの振り降ろしと、ナイフによる刺突の同時攻撃だ。


くう!!オプション先生!!どうにか上手いことお願いします!!


震える膝に力を込めて、振り降ろされる剣を、構えていた剣の腹で受ける。

受け流して相手の体勢を崩して、なんて芸当が素人に出来るはずもない。

受け止めるので精一杯だ。


しかしそんな風に動きを止めれば、同時に迫っていたナイフが、俺の太股目掛けて突き出され、刺さる、ことはなかった。


俺の傍らに浮いていたオプション先生が謎の推進力で急加速。

ナイフを持つ手に直撃し、ナイフごと手を弾いたと同時に急速上昇、ナイフを振るった男の下顎を見事に捉えた。


重い音と共に男の顔が歪み、オプション先生の勢いに弾かれてバク宙をするように吹き飛ばされていく。

更に必死に剣を受け止めている俺の頭上から急降下したオプション先生は、俺の目の前の男の横っ面に残像が残る早さで突っ込んだ。


結果、数秒のやり取りで、地面に昏倒する男が新しく二人追加されることになった。

オプション先生は俺の正面でピタリと静止。

寄らば斬る、ならぬ寄らば叩く、と言った風情である。

しかしそんな威風堂々としたオプション先生に守られた俺の内心はガクブルである。


ひい、ひい、ひい、怖いよう怖いよう。

オプション先生が守ってくれるとは言え、明らかな敵意満載で迫り来る刃物は恐ろしいよう。

ゴブリンみたいな非現実的な生き物じゃなくて、身近な人間からの殺意なんて受けたことないもんよ。

怖いよう怖いよう。


「な、何だあの使い魔。普通じゃねぇぞ」


「この糞がっ!よくもやりやがったな!」


仲間がやられたことによって更に激昂する男達。


いやいやいや、待て待て待て。

やるもやらぬも、殺らねば殺られるじゃん。

これは胸を張って正当防衛と言えるやつじゃん。

襲い来る暴漢から身を守って何が悪い!

しかしこのままじっとしていては万が一ということもある。

ここは威嚇の1つでもして相手を追い払ったりしたいところだが……。


「おい!一気にかかるぞ!1発当てりゃ終わりだ!」


「「「おおっ!!」」」


このようにやたら一致団結した野郎共がヤル気満々の様子だ。

鋭い眼光に射抜かれながら、震えを隠しつつ剣を構える小心者俺。


そして各々の得物を振りかざし、強面の男共が俺に殺到する。

鋭い刃物の切っ先や、鈍い鈍器の輝きが路地裏の影に煌めいた。

それを一撃でも喰らえばどうなるやらわからない。多勢に無勢。結果は明らかなはずだった。


しかし、その結果を引っくり返す確認済み不思議飛行物体が、俺の傍らに音もなく浮いていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




数秒か数分経っただろうか、俺は静かになった路地でそっと剣を鞘に戻す。

俺の周りには強面の男共が死屍累々といった様子で倒れていた。

一様に意識もなく倒れ伏すのは全てオプション先生にノックアウトされた男共だ。

先生にやられたゴブリンのようにバイブレーションしている輩はいないので誰も死んではいないはずである。


いやー、オプション先生が素晴らしすぎて震えるね。

しかも誰一人として殺してないって所も素晴らしすぎるよね。

「峰打ちじゃ」って台詞が聞こえてきそうだぜ。オプション先生には口ないけど。

よし、野郎共が目を覚ます前にとんずらするぜ。

逃げるぜ。俺は逃げるぜ。


死屍累々の路地から脱出し、岩壁の止まり木亭に足を向けようとしたところ


「あっ」


路地の角で誰かにぶつかってしまった。


俺よりもだいぶ小柄な人は、あっさりと体制を崩し、尻餅をついてしまう。

焦っていたとは言え注意散漫だった。申し訳ない。


「あぁあ、ごめんね。大丈夫?」


尻餅をついたその人は黒い布、ローブとか言われる物だろうか、しかし服というよりは大きな布を頭からすっぽりと被っている。

顔も隠れるくらいに布を被っているから視界が悪すぎて前もろくに見えてないのでは?とも思えるが、ぶつかったのは俺だ。謝りながらその人物に手を差し出す。


「………………」


その人は無言で俺が差し出した手を掴んだ。

子供みたいなとても小さな手だ。体格からして子供みたいだけど。


「いきなり飛び出して悪かったね。怪我はない?」


手を引いて立ち上がらせた人に聞いてみるが、返事はなかった。

何か小声でぶつぶつと呟いているようにも見えるけど、黒い布に隠れて表情がうかがえない。

小さな手が俺の右手をしっかりと掴んで離さないのがちょっと不気味だ。


「あの……?」


ちょっと不気味に思いながら顔をのぞきこむと、布の奥にあったのはずいぶんと可愛らしい女の子の顔だった。

そして彼女は


「ようやく捕まえましたよ。このすっとこどっこい」


苦々しげな声色と表情でそう呟いた。

途端、掴まれていた手から眩い光が立ち上る。


ぐわぁ!?目が!私の目がぁ!?何が起こっているの!?何がどうなって、何ケルビン!?というか誰!?あなた誰なの!?確実に人違いですからぁ!俺、あなたみたいな美少女の知り合いいませんからぁ!てか力つええ!手ぇ離れない離さない!なんなのなの!なんなのなのぉ!?


あまりの眩しさに自由な左手で顔を覆うが、眩しさは数秒か十数秒と言ったところで輝きが収まっていく。


やがて完全に輝きが収まった所で恐る恐る目を開けて、まだしっかりと俺の右手を掴んで離さない美少女の様子を伺ってみる。

いつの間にやら顔を覆っていた布が外れ、勝ち誇った表情を浮かべる美少女の姿がそこにはあった。

整った顔立ちに紺色の瞳と髪の毛、頭にはくるりと巻いた羊みたいな角。

どこからどう見ても知り合いにこんな人はおりません。

どう考えても人違いです。ありがとうございます。


困惑しまくりながら視線を美少女との接触部分に向けると、しっかりと掴まれている俺の手首には見慣れない黒々した腕輪がひとつ。


何処か禍々したそれは明らかに俺所有のアクセサリーではない。

しかもその禍々しさたるやどこぞの呪われし装備の類いとも思える。


なんじゃこりゃあーーーー!!

いつの間にこんな腕輪が!?あの眩しさ全開のあの間にか!?ナーウ!?ナーウ!ってやったら不思議なことが起こるあれなの!?

やべぇ。こんな禍々した腕輪とかやべぇ気しかしない。呪われた?俺、呪われた?


一人混乱の極みの境地に達していると、ようやく俺の右手から美少女の手が離れた。

慌てて右手を確保しながら美少女の方を見ると、先程の勝ち誇ったような表情から一変。

茫然驚愕呆気と言った色々な感情がこもった表情で俺の右手を見つめている。


「な、何故?それがそちらに?」


え?いや、ちょっと何言ってるかよくわかりませんね?


「ま、まさか!」


美少女が慌てふためきながらローブらしき布をはだけ、自らの首筋を確認する。

するとそこには俺の右手にはまっているのと似たような禍々しいアクセサリーが装着されていた。


ネックレス?いや、あのフィット具合からすると、首輪?と言った方がしっくりくるような?


その存在に自ら触れてしっかりと確かめた美少女は、茫然とした後、わなわなと震えだし


「どうしてぇええぇぇぇ!!!!????」


と絶叫し、泣き出してしまった。


いや、待て、こんな往来で。人聞きが悪い、人見がマズイ。

ちょ、待て待て、さっきの野郎共の騒ぎで人が集まって来てたのに更にほら、ほら見られてる。

何あれ?女の子泣かしてる?みたいなヒソヒソ話感がヤバイ。俺の精神力がヤバイ。


どうしよう。俺も今まさに泣き出したい。

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