天は二物を与えないって嘘だよね
はてさて、やってきました。冒険者ギルド。
今日も今日とて冒険者ギルドの玄関ロビーはざわざわがやがやと、多種多様な人種で賑わっております。
今日も良さげな依頼にありつくため、ギラギラと目を光らせている先輩冒険者さんたちは朝も早くからのご出勤ですな。
自分はと言えばそんな先輩冒険者さんたちの視界に入らぬよう、昨日と同じ大通りを挟んで少し離れた場所にてしばし待機であります。
自分はまだ、銅ランクの駆けだしッスから。薬草とか、ちょいちょい刈ってるくらいで生きていけますから。掲示板の混み具合が少し落ち着いてからで良いッスから。
朝一の掲示板競争は先輩方に譲りますから。
俺が目指すはパーティー募集掲示板ただひとつ。
依頼は昨日と同じ常駐依頼の薬草とゴブリンで十分だ。だから依頼掲示板には用はないのだ。
そう、先輩方に紛れて掲示板を覗く必要はないのだ。
とにかく仲間を、助け合い支え合える仲間をください。主に命を支え合える仲間を。
こう、ね、可愛い女の子とか、耳つきのにゃんにゃん娘とか贅沢は言わないからさ。
人相の悪いおじさんとか会話できるか不明な獣90%の人?でも文句は言わないから。
普通に普通の仲間を、背中からぐさりとやらない感じの仲間をぜひお願いいたします。
清き一票をぜひお願いいたします。
あぁ、しかしパーティーメンバー募集って何か資格とかいるのかしら。
中型免許とか石綿取扱責任者とかアーク溶接とかならあるけど、ちょっとはプラスになるかしら。
ならねぇだろうなー。なるわけねぇよなー。
何かしらの技がないとかダメとかないよな?
あったらやだな。昔やってたネトゲの特定の職業以外お断り!みたいな雰囲気ね。
そういう効率重視みたいなのがあったりね。
あるのかなー?ないと良いなー?
まぁ、見てみないことにはわからないんだけどさ。
しかし、先輩方が一段落するまでしばしの時間がかかるなぁ。市場を見て回るにはちょっと時間が足りないし、微妙なタイミングで来てしまったなぁ。
あのチョロ嬢様のせいだな。ちくしょうめが。
あんな朝っぱらから頼もう!なんてどういう教育を受けてやがんだ。お貴族様だからあれか、帝王学か。うん、じゃあ仕方ない。いや仕方ないことあるかぁ。
あぁ、どうするかこの帯に短し襷に長し的な時間。上手い暇つぶしを見つけねばせっかくのやる気が萎えちゃうぜ。
壁にもたれながら、はふう、とため息をつくと、近くの路地から籠を抱えた子供が出てくるのを見つけた。
今日もフードを深く被りつつ、道の端を目立たないように歩いている。
籠の中には昨日のお菓子だ。
あれに見えるはイケメン系菓子売りの少年だ。
丁度良いところに来た。よー、少年。会話のキャッチボールしようぜー。
「おはよう。昨日ぶり」
「え?あ、昨日の…。お、おはよう、ございます…」
なるべく爽やかに朝の挨拶を投げ掛けてみたが、イケメン系菓子売りの少年はやはりどこか怯えている様で、若干おどおどしている。
見知らぬ人に声をかけられたらそりゃおっかないだろうが、昨日も会ったじゃん。そのお菓子買ったじゃん。
俺、悪いおじさんじゃないよ?人相もそんなに悪くないと思うんだけどな?
「今日もお菓子を売りに?」
「う、うん。これが、僕の仕事だから…」
おい、こんな歳から仕事してるって偉くないですか?
確かな年齢はわからんが、十代になったばっかりって背格好ですぜ?
何か深い事情が?まさかあれか、お母さんが病に臥せってるとかそう言った類いの背景が?
どうしよう。こういうのって聞いて良いもの?
ぐるりぐるりと頭を巡る深読みを表情に出さないように考え込んでいると、イケメン系菓子売りの少年からのアプローチが。
「お兄さん、良かったら今日も、お菓子買ってくれない?」
おずおずといった様子で抱えていた籠を差し出すイケメン系菓子売りの少年。
「おー、俺もそのつもりだったんだ。今日はちょっと多めに買っていこうかなともね。じゃあとりあえず10個おくれ」
「え?そ、そんなに?」
「あぁ、予想以上に美味かったぞ。焼き菓子だから今食べなくても後で食べるようにとっておけるしな」
腰のポーチから銅貨を5枚取り出して少年に手渡す。
少年は銅貨をポケットにしまうと、籠からぺルビ印の焼き菓子をまとめて取り出してくれた。
あ、入れ物ねぇや。どうしよ…、あジャーキーもどきが入ってた包みがポーチの中に入れっぱなしだったな。
それに包んで…、うん、もう少し入るな。
「おう、少年。もう6つもらおうじゃないか」
「あ、ありがとう。でも、そんなに食べるの?」
「1度にじゃないぞ。小腹がすいた時につまむものがあったら良いなと思うだろ?ポーチに入れておいて歩きながら食べたりするんだよ」
「そ、そっか。じゃあ、はい」
銅貨3枚でぺルビ印の焼き菓子を買い足してポーチにしまった。
よしよし、じゃらじゃらとしてた銅貨が少し減ったぞ。
今日のお昼はこれで十分だな。
ちょっとポーチがパンパンだが、ちょこちょこ食べてたらあっという間になくなるだろうからちょうど良いだろ。
「ありがとう、お兄さん。こんなに売れるなんて思ってなかった」
「おー、気にするなー。俺も好きで買ってるんだからな」
早速ペルビ菓子をひと口。
うん。サクッとした食感とほんのり香るミルクの甘み。うまいぜ。サクサク食べちゃうぜ。
「あ、その、お兄さんの名前って…聞いても…良い?」
ペルビ菓子をサクサクっと平らげ、二つ目にかじりつこうとしていたら、イケメン系菓子売りの少年からのクエスチョンだ。
俺の名か?俺の名は…なんて格好つけるでもないな。うん。
「俺か?俺はマオって言うんだ。つい最近この街にきたばっかりの田舎者だ、よろしくな。君の名前は?」
「あ、えと、ボクは…」
聞かれたならば聞き返さねば的な流れで聞き返してみたところ、ちょいと言い淀むイケメン系菓子売りの少年。
あれ、聞いちゃいけなかった感じすか?
いやしかし名前を聞き返しただけであるのだが。名前はNGすか?
あれか、キラキラネームみたいに名乗るのちょいと恥ずかしい名前だったりするのか。
そしたら聞くのはかわいそうだったか?
「あの、ボクは、レオン。レオンって言うんだ」
おい、何だよ。名前も格好いいじゃねぇかよ。どこぞの特殊部隊の一員みてぇじゃんかよ。
言い淀んでんなよ。胸張れ、胸。
顔も名前も格好いいとか天に何物与えられてんだよちくしょうめが。
「レオンか。格好いい名前だなぁ。よし、これからもよろしくな、レオン」
「う、うん、これからもよろしく。マオさん」
フードの奥でぎこちない笑顔で頬笑むレオン。
おい、レオンお前、そんな笑顔むけたらそこいらのマダムなんてコロッと落とせるだろうからよ、気を付けろ。
気を付けないとさらわれちゃうぞ。
「掲示板も空いてきたかな。じゃあそろそろ行こうかな。またなレオン」
「う、うん、また」
篭を抱えたレオンに別れを告げて、冒険者ギルドに突入であります。目指すはパーティーメンバー募集の掲示板。
良い求人があると良いな。
素人さんお断りみたいなのがないと良いな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いくらか人の姿も減ってきたロビー内に到着です。
辺りをさっと見回してみたところ、受付カウンターの前も掲示板の前は人もまばらになって風通しがよろしゅうございます。
多少匂いはこもっているけれどね。
はてさて、依頼掲示板に用はないからパーティー募集掲示板に直行しますかね。
「マオ様、おはようございます」
「おわはぁ」
くるりと振り返ると目の前にはダンディーな紳士がおはようございます。
ビックリした!ビックリした!気配がねぇよ!いつの間にだよ!心臓が口から飛び出るよ!
やめてくださいやめてください。死んでしまいます。
「お、おはようございます。メドルテさん」
「おはようございます。今日も依頼の受注でございますか?」
「はい。今日も薬草とゴブリンかなと思ってはいますが、その前にパーティー募集の掲示板を覗いていこうかなと思ってて」
「なるほど。それはようございます。良い仲間が見つかると良いですね。薬草は常に必要とされております。安定した供給がされるのはとてもありがたいことでございます」
「あ、はい、頑張ります」
「ご無理はなさらぬよう。それでは失礼いたします」
優雅に一礼したメドルテさんはスタスタといつものカウンターに戻っていく。
何だかずいぶん目をつけられている気がする。
一体何なんだ。怖いぞ。あれか?俺の下半身が狙われているのか?やめてくださいやめてください。
自分その気はないんです。女の子が大好きなんです。801に興味はないんです。
あ、もしかして昨日のライオン先輩が怯えてたのはそういうことか?
紳士なふりをして気に入った冒険者をマークし、ギルドの権力を笠にノンケな冒険者を捕って喰うギルド職員。怖いぞ、怖すぎる。
そら怯えて逃げるわ。仕方ないわ。危険が危ない。
毛皮があってもなくても関係ないのか。何でも行けちゃうタイプなのか。危ない。危険が危ない。
ここにいては色々まずいな。ささっと掲示板を見てさっさと逃走だ。
君子は危うきに近づかないのだ。
さぁ、掲示板よ。俺にパーティーを紹介してくれ!




