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優雅な朝食とブルジョアジー再接近遭遇


グッドモーニング朝。

やたらと寝心地の良いベッドで大きく伸びをする。

はふう、とため息を吐きながら首を捻ると、しっかりと閉じた窓の隙間から光が射し込んでいるのがわかった。

通りに面した窓を開け放てば、岩山の向こうからのぼる太陽の光が見える。

今日もマインエラの街は快晴であります。


さてさて今日はパーティーメンバー募集の確認と再びの薬草採集を行う予定だ。

メドルテさんも言っていた。日々地道な活動をしていきませう、と。

命が軽いこの世界だ。だからこそ作戦は常にいのちをだいじに、だ。

そのためにはお互いがお互いをカバーできる仲間が必要だ。

一人ではどれだけ命を大事にするにしても限界があるからな。

まぁ、後ろからグサーとやられないように気を付ける必要はバリバリなわけだけど。


とりあえず冒険者ギルドに行くかー、と気合を入れると同時に腹の虫が自己主張だ。ぐるぐるぎゅーって。

よし、ギルドの前に朝食だ。1日の計は朝食にありだと誰かも言っていた。

しっかりと食べて英気を養わねば。


革の胸当てと剣を慣れないながらも装着し、ランタンを腰のベルトにぶら下げる。

視線を上にあげれば俺の頭上にほんわり漂うオプション先生。

さぁオプション先生、今日もいつものようにランタンの中に行きを潜める感じで、気配を消す感じでお願いします、と念じればオプション先生はギュッと小さくサイズダウン。

そしてそのままランタンの中に収まった。

今日はなんだかオプション先生の輝きも抑えめだ。


先生が収まったランタンを見つめながらふと思う。

いついかなる時でもこちらからオプション先生へのお願いは完璧に通じるが、オプション先生からのアプローチは全く無しだ。

この確認済不可思議飛行物体オプション先生の意思とかはあったりするんだろうか?

おおよそ見た限り思考回路を司る器官が見当たらないから、意思とかそういう物があるとは思えない。

しかし、こちらからのお願いに応じる様子を見るに、何らかの意思の力が作用しているはずだ。


うーん、あれかな。機械的反応なのかな?

命令に従うけど、命令がないとなにも出来ないよ的な。

ファミリアって言うくらいだからな。俺の意思に全て従ってくれるんだろう。

ありがたいね。愚痴も文句も言わず、身を呈して俺の身を守ってくれる献身的ファミリア。

俺だけのオプション先生。

大事にするから俺の事も大事にしてください。お願いします。


よし、朝から不思議な思考に陥ってしまったが、気を取りなおして美味い朝ごはんを食べに階下へ降りようではないか。

空っぽの薬草用リュックとちょっと変な色のついてしまった耳袋を小脇に抱え、いざ出陣であります。

すたたたーと階段を降りれば、シャローネちゃんと美味しい朝ごはんが待っているはずさー。


すたたたー。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



がやがやがや


「はーい!ペルビシチューお待たせしましたー!」

「はいはい!朝食セットですね!かしこまりましたー!」

「ありがとうございましたー!黒パンお持ち帰りですか!ありがとうございまーす!すぐご用意いたしますー!」


おおう、シャローネちゃんが店中を世話しなく駆け回っていらっしゃる。

洗練された身のこなしはちょっと狭い客席の合間を縫うように、舞うようにすり抜けている。その度ゆらゆらと揺れるポニーテールとしっぽが可愛い。

厨房の奥から次々と運ばれてくる料理を手にすると、迷うことなく注文されたであろうテーブルに素早くお届けである。その度深々とお辞儀をする事からちらりと見える胸元がセクシー。

しかしその動きたるやフロア内にシャローネちゃんが三、四人いるかのようだ。

まるで分身だ。いやマジで分身の術だ。

しかもそれぞれが物を持ったり、別の動きをしていたりする。実体のある残像だとう?そんなばかな。寝ぼけてるだけだろう。


ごしごしと目を擦ってみれば、ほら見ろシャローネちゃんは一人だ。

あれだな?単なる目の錯覚、おおう、また増えた。そんな馬鹿な。


ほけー、とシャローネちゃんの分身の術を眺めていると、分身の一人が俺に気がついたようだ。

一瞬、はっとした表情を浮かべたあとにこちらに向けられたキラキラと輝く笑顔が眩しい。


「あやっ!お客さんおはようございます!お仕事の前に朝食ですか!?今日の朝食セットは黒パンのアウクジャム添えとペルビシチューにペルビミルクですよ!」


「あ、えと、じゃあ、それお願いします」


「かしこまりましたー!銅貨5枚になりますねー!お好きな席にどうぞー!」


アウクジャムが何のジャムかはわからないが、シャローネちゃんのおすすめならば問題はないだろう。多分。

がやがやと賑わう食堂を見渡して空いてる席を探してみる。


む、裏口の近くの小さな席が空いているな。

一人だし、小さな席でも十分だ。あそこにしよう。


木製のテーブルについて腰のポーチから銅貨5枚を取り出すと、シャローネちゃんが流れるような動きでテーブルに朝食セットを置いてくれた。

早い。早すぎる。


「おまちどおさまでーす!朝食セットになりますー!」


キラキラと輝く笑顔のシャローネちゃんに戸惑いながらも銅貨5枚を手渡すと、さらににっこりと微笑んだシャローネちゃんは「ありがとうございました!ごゆっくりどうぞ!」と頭を下げたあと、厨房の方へ戻って行った。


あっという間の出来事過ぎてびっくりだ。

なんだろうか、素早さ的な部分に極振りみたいな感じなんだろうか?

早い。早すぎる。


ま、まぁそれはそれとして、朝ごはんだ。

朝からしっかりと食べないと力が出ないからな。

一日の計は朝食にあるのだ。そうなのだ。


いただきます。


昨日一昨日と食べなれたペルビシチューを口に運び、味わう。

やはり美味いな。ペルビは美味い。

もう少し稼いだらステーキとかも頼んじゃおうかな。

シチューも良いけどステーキもね!


程よく煮込まれて柔らかくなったお肉を噛み締めながら、黒パンの上に塗られた黒いジャムを見つめる。

ぱっと見た感じの黒々さは、海苔の佃煮っぽい。黒パンが更に黒くなってやがる。おどろおどろしい色味だ。

ちょっと不安になりながらもちらりと周囲を見てみるが、周りの皆様は美味しそうに口にはこんでいらっしゃいます。

食べられない物ではないんだろうけども?


ええい、ままよ。


意を決してかぶりついてみると、海苔の佃煮のようなジャムから感じ取れたのは見た目に反して爽やかな甘味と酸味だった。

決して甘すぎない自然な甘味の中に爽やかな柑橘系の酸味が合わさって最強に思える。

美味い。美味いぞ、アウクジャム。原材料が何かはわからないけど。


ペルビミルクは完全に牛乳だ。飲んだ感じ味もそのままだ。

ペルビは羊っぽいから羊乳か?

何だか落ち着く素朴な味だな。


噛みごたえのある黒パンをもっしもっしと噛み締め、ペルビシチューをすすり、合間にペルビミルクを飲む。


くはー、なんだかとても有意義な朝食だ。

今日も頑張ろうって気分になる気がする。

いや、今日も頑張ろう。

仲間を探して薬草も刈るのだ。今日もしっかりと稼いでくるのだ。

頑張るぞう。


ペルビシチューをあらかた食べ終えて、黒パンもペルビミルクも残りわずかとなった頃だった。


カランカララン♪と出入り口の鐘の音が、がやがやとした喧騒の中でやけに大きく聞こえた気がした。


「頼もう!!」


喧騒に包まれていた食堂にやけに大きな声が響き渡る。

途端に静まり返る食堂。


「いらっしゃいませー!何名様ですか?」


続いて響くシャローネちゃんの声。

凄い。全く動じてないぜ。さすがシャローネちゃん。


「いや、私は食事に来たのではない。人を探しているのだが!」


「はぁ、人を、ですか」


シャローネちゃんの聞き返す声がいくぶんトーンダウンした様子。

お客さんじゃないからか?いや戸惑いからだろうか。

しかし、相手の声、何だかどこかで聞いたような?


「私の名はユーリアーネ・ブラウヒメル!ここに黒髪のヒューマが泊まっていると聞いた!そいつに用がある!案内してもらおうか!」


ざわめきが広がる食堂内。

ゆっくりと朝食をとっていた皆様が口々に「ブラウヒメル家のお嬢様だよ…」とか「お貴族様がこんなところに何のようだ?」等と囁きあうのが聞こえてきます。

貴族様かよ…。何か変なフラグが立つような気がしてやみませんよ?


それにしても黒髪のヒューマ?何だかどこかで聞いたような?

声の主を人と人の隙間からこっそりと覗きこむと、そこには昨日の朝に東区の市場で絡まれた青髪のチョロ嬢様のお姿が。


何ぃ!!昨日の今日で追いかけてきただとぉ!!フットワーク軽いなチョロ嬢様!

というか何故ここが!?どうやってバレた?

貴族様の不思議なネットワークか!?

金に物を言わせて手下に情報を集めさせる的な!

くそう!さすがはブルジョアジー!やることが汚い!


視線でバレないように頭を低くして人の影に隠れつつ、残りの黒パンを口の中でミルクでふやかして胃に流し込んだ。


ごちそうさまでした。


よし、朝食もすんだ。

さっさとギルドに向かいたいところだが…、とりあえずチョロ嬢様を回避することを考えなければ。

入口にはチョロ嬢様がいらっしゃるから…どうすれば…。


あ、裏口…。


「黒髪のヒューマといっても…。今お泊まりになってるお客さんのお話をするのは…あんまり…」


こっそりと裏口を開けて、よつん這いで脱出だ。

背後ではシャローネちゃんが困ったように呟いているのが聞こえたが、俺には何も出来ない。圧倒的無力っ!


ごめんよシャローネちゃん。助けてあげることはできない。

いつか、こう、どうにかなるからさ。

多分、きっと、恐らく。


さ、チョロ嬢様はスルーして、さっさと冒険者ギルドに向かわねば。

ブルジョアジーフラグはいらんのです。

偉い人にはそれが解らんのです。


戦略的撤退やむなしなのだ!

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