薬草ハンターから薬剤師へ?
「マオさんの今回の依頼達成報酬は合計で銀貨3枚と小銀貨1枚と銅貨45枚でした。ご確認ください」
ひょっ!?
ラウラ嬢の告げる薬草狩りの報酬の額に驚く小心者俺。
お、多くね?え?約1日働いたとはいえ岩壁の止まり木亭の宿泊費1週間分だよ!?
薬草そんなに刈ったっけ!? 1束銅貨5枚だよ!?
ゴブリンだって5体しか倒してないし、薬草以外に何かあったようには思えないぞ!?
何だ、一体何が高かったんだ?薬草がラウラ嬢の言う通り多かっただけか?
待て。これは何かの罠か?駆け出しの冒険者にちょっと高めの報酬を出してどうにかするとか?
いやしかし、冒険者ギルドにそれをする理由があるのか?
可能性が無いわけではない。無いわけではないが、駆け出しの冒険者を嵌める理由もない。
だったらあれか。普通に薬草が多かっただけか。
「え、えと、内訳をご説明しましょうか?」
報酬金額を聞いて固まった俺の様子を見て、ラウラ嬢がおずおずと言った感じで聞いてくる。
上目遣いあざと可愛い。あざといが、可愛い。仕方ない。
「すみません。よろしくお願いします。思ったより報酬が多かったのでびっくりしちゃって。やっぱり薬草が多かったんですかね?」
「えぇ、そうですね。薬草がセリチ草、クラウチ草合わせて51束で、銀貨2枚と小銀貨1枚と銅貨5枚になりますね。かなりの量でしたからこの額になりましたよ」
おぉ、51束か。多いな。頑張ったな俺。
リュックパンパンだったもんな。
道なき道をさ迷って、1日中薬草刈りまくった甲斐があったってもんだ。
いやしかし、1度森に入るだけでこれだけ稼げるなら、薬草ハンターで生きていけるんじゃ?
1週間に1回、森に分け入り薬草を刈るハンター。
うん。何か情けないな。いや、ちゃんとした仕事っぽいけどもう少し手に職つけたい気がする。
錬金術とかね。
あ、薬草刈りながら錬金術練習すれば良いのか。
うん、良いな。薬草ハンターから薬剤師へランクアップだ。ランクアップか?
いや、うん、素材の自給自足だ。地産地消だ。違うか。
そんなことより、残りの銀貨1枚と銅貨40枚は何だ?ゴブリンの耳じゃ計算が合わないぞ?
「それと、ゴブリンの討伐報酬が4体で銅貨40枚。ホブゴブリンの討伐報酬が銀貨1枚ですね。ホブゴブリンの討伐依頼は銅ランク1級の依頼の中でも難しい部類ですから、マオさんの依頼達成ポイントがかなり貯まりましたよー!」
ホブゴブリン?
聞いたことない単語ですけど、ナニソレ美味しいもの?
ゴブリン亜種的な?しかも銅ランク1級の難しい部類?
「冒険者になりたてなのにホブゴブリンを倒しちゃうなんて凄いですねー!銀ランクになっても苦戦する冒険者さんもいるって話ですよ?マオさんってどこかの兵士さんだったりしたんですか?」
うわ、やばい。倒したらちょっと凄い感じの奴か。
あ、あれか?マッチョゴブリンか?あれがホブゴブリンか?
確かに強そうだった。っていうか強かった。無茶苦茶ムキムキだったしな。
オプション先生のご加護がない一般ピーポーじゃ、出会い頭に頭かち割られる所だったもんな。
それなら銀貨1枚分くらいの価値はあるのかもしれない。
いや、命懸けで倒した魔物の価値が銀貨1枚?……割に、合うのか?
「い、いやぁ、たまたまですよ。怪我して動けなかった所をチマチマ攻撃しただけです。全然凄くないですよ」
「いやぁ、それでも駆け出しでホブゴブリンに立ち向かおうって気概が凄いですよー!感心しちゃうなー!」
うおぉ、ラウラ嬢のよいしょが止まらねぇ。
やめてくださいやめてください。こんな場所でそんな褒められたら変なイメージが付いちゃう。
うおぉ、背中にチクチク視線を感じるぞ。
何?あいつホブゴブリン倒したくらいであんな褒められてんの?みたいな視線じゃないのこれ。
やめてくださいやめてください。注目なんてされたくないんです。
っていうかカウンターとテーブルが近くないですかね。少し距離があっても、ラウラ嬢の声のボリュームで喋られたら俺の内情筒抜けじゃないですかね。
やめてくださいやめてください。俺はひっそりと生きていきたいんです。
「あの、すみませんラウラさん、そろそろ良い時間なので宿に戻りたいんで、精算をお願いしても良いですか?」
腕を組ながら一人でうんうん頷いているラウラ嬢にお願い。
お金もらって早く帰りたいでござる。変な注目はいらんのです。
「あぁあ、そうですよねそうですよね。失礼しました。お疲れですもんね!ごめんなさい気が利かなくて!えと、それでは報酬は大板小現で良いですか?」
へいぃ?だいばんしょうげん?何?専門用語?ナニソレ美味しいもの?
聞かねば。わからない物はちゃんと聞かねば。
昔の人が言ってた。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
一生覚えてられるかは別の話だろなんて言っちゃいけない。
「す、すみません。だいばんしょうげん?って何ですか?」
「はぁっ!ご、ごめんなさい!つい、ギルド用語を!えーとですね、えーとですね、大板小現っていうのは、依頼達成報酬の大きい貨幣をカードに登録、小さな貨幣を現金でお支払いするって意味なんです。小銭はギルドカードが使えない所で細々使う事もあるので、いつからかそうやって支払われ始めたそうですよ!」
「あー、なるほど。そういう意味ですか。わかりました。ありがとうございます」
初心者に専門用語を使って焦っちゃうラウラ嬢可愛い。
ふむふむ、なるほど、大板小現な。この先も使いそうだ。聞いといて良かった。
確かに屋台とかカード使わずに買い物する場合もあるしな。
小銭がないと不安な場合もあるし、高額貨幣をポッケに入れて歩き回るのもおっかねぇもんな。
合理的なシステムである!!
「それじゃあ、大板小現でお願いしても良いですか?」
「はい!もちろんです!銀貨3枚はカードに登録、小銀貨1枚と銅貨45枚は現金でお支払いしますね!」
ラウラ嬢が俺のギルドカードに何やらゴニョゴニョとやると、前世でもよく見たレジ付近にある皿のようなもの(木製)にギルドカードと小銀貨1枚と銅貨45枚を乗せて差し出した。
「はいっ、カードに登録完了です!ギルドの方にも登録情報はありますが、基本的にギルド側の情報はお教えできません。報酬がちゃんと登録されているかは、報酬を受け取ったその場で確認してくださいね。後から登録されてない!って言われてもどうにもできませんからね!」
「了解です。確認…、…確認」
確認してと言われても何をどうすれば良いやらや。
ギルドカードを手に取って、自分の名前が書かれたカードの表面を見つめると、カードの表面にぼんやりと『銀貨:3』という文字が浮かび上がった。
うおぉ、ファンタジー。凄くファンタジーだ。いやでも凄くSFチックでもある。ハイテク過ぎて驚かざるを得ない。
魔法凄い。魔道具凄い。
「確認出来ましたか?」
「あ、はい。確認出来ました」
「それでは今回の手続きは以上になりますね。お疲れ様でした!マオさん、新人同士これから頑張りましょうね!」
「はい、これからよろしくお願いします」
両手をグッと構えて気合を入れるラウラ嬢に答えて頷くと、ラウラ嬢の笑顔が弾けた。
眩しい。眩しすぎる。
闇に隠れて生きてきた俺には眩しすぎる笑顔だ。直視できない。いや、そんなに隠れて生きてきたわけではないが。
「じゃ、じゃあそろそろ帰ります」
「はいっ!お疲れ様でした!」
笑顔が眩しすぎるラウラ嬢に背を向けて、出入口の方へ歩き出そうとした時、気付く。
何人かの冒険者がスッと俺から視線を外した。
先程から感じている視線は気のせいではなかったようだ。
周りのテーブルに座る冒険者の先輩方からちらちらと視線を向けられていたのだ。
中にはちらちらとどころか堂々と見てくる先輩冒険者さんもいらっしゃる。
何よ。何だよ。何なのよ。
何の視線?怖いなー怖いなー。嫌だなー嫌だなー。
パーティーメンバー募集掲示板も見てみたかったが、この状況で見に行けるほどの精神力は持ち合わせがないぞ。
ならばする事はただひとつ。
帰る。俺は岩壁の止まり木亭に帰るぞ。ジョージョー!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もうすっかり暗くなった道をてくてく歩いていく。
馬車が通れるような通りには街灯が並んでいるので、暗がりで襲われるなんて心配はしなくても良さそうだ。
いやー、今日は頑張ったなー。
初めての冒険者ギルドと初めての依頼と初めての戦闘と。
内容が濃すぎてもうお腹いっぱいっスよ。
もう部屋に戻ってゆっくりまったりしたいですよ。
疲れたのよ~。精神的に疲れたのよ~。ふかふかベッドが呼んでるのよ~。
ガシャーーーン!!!
目の前の建物の扉から人らしき物体が激しい音と共にこんばんは。
人らしき物体は飛び出した勢いをそのままにゴロゴロゴロゴロー、と通りを横断して反対側の建物の壁にぶつかって停止した。
停止した状態で見ればちゃんと人だ。男だ。ちょっと耳が尖ってたり、毛深かったりするけど、とりあえずは人だ。
だが停止した状態からの復帰の様子は見られない。
しかしオプション先生に吹っ飛ばされた輩の断末魔の様子とはだいぶ違うので、生きているはずだ。多分、きっと、恐らく。
うぉい!何だよ!バイオレンスがほどばしるわ!
もうお腹いっぱいだっつったろ!
俺はもう帰って寝るんだよ!
よくよく聞けば男が面白おかしく飛び出してきた建物の内部からは怒号と何かが壊れる音がひっきりなし。
なるほど、酔って気が大きくなった野郎共が乱闘騒ぎの真っ最中ってやつか。
そういうことなら問題ない。
さっさと立ち去るのが吉。君子危うきに近寄らず、ってやつだ。
壁に寄りかかってぐったりする男の前をさささーっと通り抜け、ちらっと乱闘騒ぎがどんなもんかと興味本意に建物の中に目を向けると、眼前には謎の飛来物。
「うわっ!?」
驚いて声をあげた瞬間、謎の飛来物はオレンジ色の球体に砕かれていた。
オレンジ色の球体はもちろんオプション先生だ。
俺を守って!と言うお願いは未だ有効だったらしい。
お腰につけたランタンから飛び出して謎の飛来物(恐らくコップ)を迎撃したオプション先生は、ほんわりとした光をそのままに俺の傍らに謎の飛行能力で留まった。
ありがとうありがとうオプション先生。
オプション先生がいなかったらもう何度この世からサヨナラバイバイしてたかわかりません。マジで。
これからも俺の事を、精神的にも物理的にも守り続けていただきたいことこの上ないです。
そんなありがたいオプション先生ではありますが、街中ではちょっと窮屈な思いをさせねばならないのは心苦しくあります。
しかし、街の住民に変な威嚇ととられても困るのです。
ささ、オプション先生、誰かに見られる前に再びランタンインでよろしくどうぞ。
オプション先生がランタンの中に収まったのを確認し、いざ岩壁の止まり木亭。
これ以上トラブルに巻き込まれる前に引きこもるのだ。
シャローネちゃんに美味しい夕飯を作ってもらうのだ。
さぁさぁ帰るぞ。俺は帰るぞ。




