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冒険者ギルドの裏口入場




薬草満載のリュックを背負い、やって来ました冒険者ギルド裏口。

正面側の道路とはいくぶん狭めの道路に面した裏口は、正面の綺麗な雰囲気とは違うややくすんだ感じの佇まいだ。

扉の重厚感は正面と変わらないのだがなんと言うか、滲み出る雰囲気がアウトロー感満載だ。

入り口の扉とか床辺りのくすみは血の跡とかじゃないですよね。違いますよね、はははは。


俺のイメージする冒険者ギルドにだいぶ近いのは喜ぶべきなのだろうか。

かなりの勢いでファンタジーしてる。


顔に傷がある粗暴な先輩に絡まれたりしないかしら。おい、ちょっとジャンプしてみろよ的な。いや、多分大丈夫なはずだ。多分、きっと、恐らく。

では若干の不安を抱きながらの入場であります。


ギィコンと言った音をたてながら重厚な扉を引いて中を覗いてみると、中は広々としたロビーになっていて、いくつかのテーブルと椅子が置いてあるのが見えた。

テーブルにつき談笑する冒険者達でがやがやとにぎわうロビーに足を踏み入れて、素早く壁際に寄り辺りを見回すと、壁際に受付カウンターと同じ作りのカウンターが目に入る。

カウンターの中では見目麗しき女性陣が、カウンターにやってくる冒険者達を華麗にさばいていた。


おう、あれに見えるは買い取りカウンター的なやつだな。

何事かのフラグの立たぬ内に目立たないように素早く薬草を納品して退散しよう。

あ、でもパーティーメンバー募集の掲示板も見たいところだな。

目立たないように気配を消すイメージで活動だ。スニークスニーク。





「あの~、薬草とゴブリンの耳の納品をしたいんですが、ここで良いですか?」


無事、絡まれたりすることなくカウンターに辿り着き、手の空いていそうな受付嬢にトーキング。

緑色の髪をしたファンタジーで素敵で可愛いお嬢さんだわ。


「はい、こちらで大丈夫ですよ。薬草とゴブリンの討伐部位ですね。かしこまりました。品物をカウンターの上にどうぞ」


「良かった。このリュックとこの袋なんですけど」


「はいっ、お預かり…しま…、お、多い…ですね?」


カウンターにどすりとリュックを置いたところ、薬草でぱんぱんなリュックを目の当たりにした緑髪の受付嬢から多いとのご指摘。

え、マジですか。


「お、多いですかね?取り尽くさないように、残し残し摘んできたつもりなんですけど…」


やべぇ、変なフラグ立つんじゃねぇだろうな?やめてください。やめてください。死んでしまいます。


「あ、いえ、違うんです、そういう意味じゃなくって。私、ちょっと前に受付に入ったばかりなので、実を言うとまだあまり慣れてなくて。ベテランの冒険者さんって1日でこんなにたくさんの薬草を採って来れるんだな~、凄いな~って思いまして」


わたわたと手を振る受付嬢ちゃん。可愛い。変なフラグは立たない様子。良かった。

しかしなんだろね?この世界の女の子はみんな愛嬌たっぷり過ぎて萌えるわ。萌えまくるわ。

頭とかいろいろ撫で回したい。


「そ、そうですか。いやいや、ベテランなんてとんでもない。俺も今日から冒険者になったばかりで、他の人がどのくらい薬草を採ってこれるのかわからないんですが、多いですかね?採れるだけ採ってきたんですが」


「多いと思いますよ~!2日前に薬草採取の冒険者さんを担当した時は、この半分もありませんでしたから!今日冒険者になったばかりで、初めての依頼なのにこれだけ集められるなんて凄いですよ!私、ラウラって言います。最近入った者同士、仲良くしてくださいね!」


あらやだ、積極的な娘っ子だわ。仲良くしてくださいね、なんて可愛い物言いもポイントが高いでございますよ。

こちらこそ末長く仲良くしていただきたいことこの上ない。


「こちらこそよろしくお願いします。俺はマオって言います。まだまだ新人で、冒険者ギルドのことや街のこともいろいろ教えていただけると助かります」


「はいっ、任せてください!それでは、とりあえず薬草と討伐部位の確認をしますね。マオさんのギルドカードもお預かりします」


「あ、はい。お願いします」


「はい、確かに。それではテーブルに座ってお待ちください。確認が終わったらお呼びしますね~」


「了解です」


リュックと耳袋をラウラ嬢に預け、誰も座っていない壁際のテーブルの椅子に腰かけた。

がやがやとにぎわうロビーで1人ポツリと座っているのは寂しいものだが、知り合いがいない状況では致し方がない。

ラウラ嬢が手早く確認を済ませてくれるのを願うしかないな。


あ、今のうちにパーティーメンバー募集掲示板を見に行くといった手もある。いやしかしラウラ嬢からの呼び出しがいつ来るかわからない状態で、席を外すわけにもいかないぞ。

そんなに長くかかるわけでもないはずだ。しばらくは待つしかないか。


はふぅ、とため息と共に緊張感が抜け、テーブルに上半身を寄りかからせると


「おう、お前新人か?」


そのタイミングを見計らったかのようにテーブルの対面にどかりと誰かが腰かけた。

誰や、と顔をあげてビックリ。


そこにあったのは金属製の鎧に包まれた人間の胴体の上に乗る、たてがみ凛々しいライオンの顔だった。


「ううぇっひ」


ショッキングな映像に変な悲鳴をあげた俺の対面に座ったライオンは、手に持ったジョッキの中身を飲みながらこちらへ視線を向けている。

ぶはぁ、と酒臭い息が漏れる口には肉食獣特有の鋭い牙が見え隠れ。非常に恐ろしい。

よくよく見ると、ジョッキを持つ手や、鎧に包まれた体はしっかりと人の形をしている。

多少毛深かったり爪が鋭かったりするが、おおよそ人間だ。頭以外。

体は人間、頭はライオンなーんだ?スフィンクス!いやあれは逆だ。


「おい、聞いてるか?」


テーブルの木目を見ながら現実逃避しかけた我が脳みそにライオンさんからクエスチョン。

あぁ、はいはい、聞いてます。


「は、はい。聞いてます」


「そうか。で?お前新人だろ?」


「あ、はい。今日冒険者になったばかりです。マオって言います。よろしくお願いします」


俺の返事と挨拶を聞いて、ライオンさんはふふんと笑う。

どこに笑える要素があったんだろう?


「俺はスファンジェ。ランク銀1級の冒険者だ。まぁ有り体にいやぁ先輩ってやつだな」


おぉ、ライオンさんは銀ランクか。さすが百獣の王だな。あれ、でも銀ランクって銅の上だよな?あんまり凄くないのか?いやしかし、どの程度で銅から銀になるのかもわからん。それに銀ランク1級って言えば、次はもう金ランクだ。もしかしなくてもなかなかの実力者の可能性が高い。

ここは大人しく後輩としての立場で振る舞った方が良さそうだ。


「そうなんですね。新人で素人の俺が銀ランクの冒険者さんと差し向かいになるなんて、何だか恐れ多いです」


「くっくっく、お前新人の割にはわかってんじゃねぇか。この街にも冒険者は数多くいるが、銅から銀にランクアップ出来る奴は一握りだ。更にその上に上れるのは数えるほどしかいねぇ。その内の1人が俺だ」


ドヤッという擬音が聞こえてくるレベルで、鋭く尖る親指の爪で自分を示すスファンジェ先輩。

凄い自信だ。自信に満ち溢れていらっしゃいます。さすが百獣の王。あ、顔だけね。


「お前、見たところ何の混じりっ気もない単なるヒューマだろ?しかも仲間がいるようには見えねぇ。俺の経験から言えばお前みたいな手先口先だけの種族が1人でうろうろしてたら、あっという間に魔物の餌になるのがオチだろうな」


ちょ、おいおい。初対面でいきなり人の種族をバカにしちゃうタイプの先輩ッスか。ないわ~。激しくないわ~。

人の生まれをとやかく言っちゃうのは良くないだろ。つうかこの挑発めいた話はどこに着地するんや。


「そこで、だ。その新人のヒヨッコに、この俺様が直々に冒険者とは何かと言うことを教えてやっても良い」


…ん?何だ?ライオン先輩はツンデレ系チュートリアル先輩なのか?

口は悪いけど実は良い人で、すぐ死んじゃいそうな新人に戦いの基本を教えてやるぜ的な?

どうしようかな。ライオン先輩がそういう人なのであれば是非ともご教授いただきたい所だ。しかし、そういう人でなかった場合が厄介だ。

今朝方のメドルテさんの言葉が警戒心をもりもりと膨れあげさせている。


「俺も忙しい身だが、後輩の身を心配する先輩心って所だな」


続く言葉に警戒心がちょっと薄れる。

何だよライオン先輩。意外と良い奴かよ。

一人身は寂しく思っていたところだし、冒険者のノウハウを教えてくれると言うのであれば是非ともお願いしたい。

むう、ここはチュートリアルを受けておくか。


「そうですか、じゃあ、その、是非お願…」


「おや、マオ様ではありませんか。見るに何事もなく依頼をこなされたご様子。ご無事で何よりでございます」


俺のお願いしますを遮って声をかけてくる誰か。

振り返ってみるとそこにはかっちり紳士服のメドルテさん。

やぁ、朝方ぶり。


「あぁ、メドルテさん。えぇ、何とか無事に帰って来ましたよ。と言っても薬草を刈ってくるだけでしたけど」


「薬草収集とは言え、依頼は依頼でございます。何事もなく無事に帰って来る事が何よりも大事でございます。努々お気をつけください」


「そうですね。気をつけます」


確かに。勝って兜の緒を締めよ、といった言葉もある。オプション先生がいるとはいえ安全に気を配らねば。

命はひとつ。割れたらふたつ。んなアホな。

頷く俺から視線をはずすメドルテさん。

目線の先にはライオン先輩だ。


「そちらは銀ランク1級のスファンジェ様とお見受けしますが、マオ様とはお知り合いでございますか?」


対面に座るライオン先輩に水を向けるメドルテさん。

するとライオン先輩は急に挙動不審な様子になる。


「いっ、いや、その、単に見ねぇ顔がいるなーってことで声かけてみただけなんスよね!だから顔見知りとかじゃ全然ないわけで!あ、急用を思い出した!じゃあな、頑張れよ新人!」


幾分慌てた様子で立ち上がったライオン先輩は飲みかけのジョッキをそのままにバタバタと立ち去って行った。

あ、あるぇー?ツンデレチュートリアルは何処へ?

どう見てもメドルテさんの登場からの様子がおかしいことこの上なかった。

メドルテさん、犯人はあなただ!というかメドルテさん、あなた何者!?


「おやおや、急用とは。銀1級の冒険者様はお忙しいようですな」


「そ、そうですね。えと、メドルテさんはどうしてここに?」


「私は当ギルドの職員でございます。ギルドにいるのは当たり前のことではございませんか」


いや、うん。そうなんだろうけどさ。そうじゃないんだ。

何かいろいろ聞きたいところもあるけど、聞きづらいような気がする。

気のせいか。いやしかし。


「マオさーん。銅ランクのマオさーん。計算が終わりましたよー」


穏やかな笑みを浮かべるメドルテさんを前に1人思い悩んでいると、カウンターの向こうのラウラ嬢からのお呼びがかかった。

緑色の髪を揺らしながらキョロキョロしている。可愛い。


「おや、マオ様。初めての依頼達成報酬でございますね。おめでとうございます」


「あ、いや、はい。ありがとうございます」


「駆け出しの冒険者は地道にコツコツと実績と鍛練を積むことが大事でございます。まずは無理をせずに、しっかりと準備を整えることから始めるとよろしいかと思います。老骨からの苦言ではございますが、努々お忘れなきよう。それでは失礼いたします」


ピシッとしたお辞儀を披露したメドルテさんは、優雅に踵を返すとスタスタと受付フロアへと続くと思われる通路に消えていった。

ジェントル感が凄すぎんで。


「マオさ~ん?いませんか~?あれ~?」


ラウラ嬢の声に我に帰る俺。

いかん、行かねば。俺の報酬が没シュートされてしまう。

いや、されるかは知らんけど、されないとも限らん。


「は、は~い。今行きます」


さあ、初めての報酬だ。一体いくらになるのだろう。

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