俺の見せ場?そんなものは初めからなかったんや。
鬱蒼と繁りまクリスティな繁みの中から、やたらと筋骨隆々なゴブリンさんがこんにちは。
背丈は俺と同じくらい、175cm余りだろうか。数時間ばかり前にオプションさんに粉砕されたひょろひょろゴブリンとは一線を画すムキムキボディ。歴戦の猛者感を匂わす鋭く殺る気満々の眼光。下顎から空に向かってそびえ立つ牙。血管浮き出る手には刃こぼれまみれのやたらデカイ剣。身に纏うのは股間をギリギリ隠す程度の腰みの1つ。
こいつ、違うぞ!今までのゴブリンとは違う!
雑魚とは違うのだな!雑魚とは!
『グオオオォォォッ!!』
マッチョゴブリンは雄叫びをあげると俺に向かって突進、手に携えたやたらデカイ剣を軽々と振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。
あ、ヤバい。
背筋がぞっとした次の瞬間に脳天唐竹割りコースで振り下ろされた剣は、オプション先生に弾かれて俺のすぐ脇の地面に着弾した。
振り下ろされた勢いそのままに地面にめり込むゴブリンソード。
凄まじい威力だ。
刃こぼれまみれの剣と言えどこの勢いで振り下ろされた物が直撃したらどうなるか、想像して背筋に走りまくる悪寒。
おぉ、死ぬ。あっさり死ぬぞこれは。命がヤバい。
だが、生まれ変わって3日もたたずに死ぬのをあっさり受け入れるわけにはいかない。
死にたくない。まだ死にたくないでござる。
バイブレーションする膝に力を込めてマッチョゴブリンと距離を取ると、リュックを放り投げて腰の剣を抜く。
倒せなくても足にでも傷をつけられれば逃げられるかもしれない。
諦めたらそこで試合終了だって先生も言ってた。
行くぞオラァ!オプション先生!ヘルプをお願いします!
ゴシャッ!!
乾坤一擲、飛び込もうとした矢先、再び俺に向けて躍りかかってきたマッチョゴブリンの鋭い牙がそそり立つ下顎に、オプション先生の体当たりが炸裂した。
往年のボクシングマンガのワンシーンの如く、宙を舞うマッチョゴブリン。
剣を構えながら唖然と見上げる俺。
視界の端には残像を残しながら宙を駆けるオプション先生。
オプション先生の体当たりを受けたマッチョゴブリンは、空中で2回転して地面に着地、いや、叩きつけられた。
初対面魔物のゴブリンを思い出させる感じで、首が向いちゃいけない方向に曲がっている気がする。
ビクリビクリとバイブレーションする様子が、生命が危険な状態を醸し出しているのも類似しているぞ。
うん、マッチョゴブリンの生命は風前の灯だ。
マッチョゴブリンの唐突な登場と、あまりにも俺の見せ場の無い戦闘、そしてオプション先生の万能具合に俺は
「…おう…」
この世界に来てから何度目かの小さなため息をもらすのだった。
小さなため息をつきながら思い出してみれば、オプション先生がいなかったらゴブリンソードを振り下ろされた時点で死んでたな、と今更ながら震えが来た。
いや、オプション先生がいなかったら数時間前のゴブリン集団の奇襲どころか、昨日のダンジョンの中で死んでたんだが。
今日この数時間でこの世界の死亡フラグの乱立具合を再確認した次第である。
死ぬぜぇ。気を抜いたらあっさりと死ぬぜぇ。
どこぞの死神さんもびっくりだわ。
一般の駆け出し冒険者さんたちはやはりパーティーを組んでの冒険者活動なんだろうな。
見張りと採集の役割分担だ。
そうじゃなきゃ指先1つならぬ矢玉1本で天に召されるこの弱肉強食の世界を生き残れない。
いや、前の世界でも矢が頭に刺さったら普通に死ぬが、そんな死に方は身近にはなかった。
しかしこの世界では日常生活のちょっとしたことも死亡フラグになり得る。
剣も魔法も弓矢も牙も爪も、そこら辺の石だって上手く使えば命を刈り取る形になるし、酒場の冒険者と揉めるだけで殺られそうだ。
命が軽いっ。圧倒的軽さっ。死にたくない。死にたくないでござる。
これからはオプション先生のご加護だけにすがるのではなく、自分なりに自衛の手段を模索しながらの冒険者活動を行うことを誓います。
切にパーティーメンバーを募集したい所存であります。
信用の出来る人なりパーティーなりを見つけてパーティーを組んでもらうしかない。
後は街に引きこもって細々と生きていくか…。
ぬう、それはちょっと切なすぎるな。もう少し良い案がないか検討してみないとな。
とりあえず比較的安全な街に戻ってゆっくりじっくり考えよう。
さてさて、とにもかくにも帰らねば。
マッチョゴブリンの耳を切り取って、よくよく血を抜いてから耳袋にイン。
放り投げたリュックを回収して、うっすら見える獣道を辿って森を脱出だ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰り道はでかい鳥が降ってきたり、マッチョゴブリンに襲われるということもなく、無事にスムーズに帰ってくることが出来た。
しかしマインエラに着く頃には太陽は岩山に隠れようかという、夕暮れになっていた。
暗くなる前に帰ってくることが出来て良かったぞ。
夜の冒険はもう少しこの世界に慣れてからでも遅くない。
命を大事にだ。既にかなり命を大事にしてない気がするが、気のせいだ。きっと気のせいだ。
さて、俺の護衛を続けていてくれたオプション先生には再びランタンの中に収まってもらうことにしよう。
ちょっと窮屈であるとは思うけど、無駄なフラグの乱立を防ぐために、我慢していただこう。
オプション先生をしまっているときに、いきなり矢とか射たれたら死ぬからな。
自動防衛システムオプション先生は、常に腰のランタンでスタンバイしていただく方向で行こう。
マインエラ南門に近づいていくと、門番はクロフさんではなく、普通の人間、ヒューマ族って言ったか、だった。
遅番の人に交代とかしたんだろうね。
現金で通行料を払って南門をくぐり、夕暮れに染まるマインエラの街並みを眺めながら冒険者ギルドに向かう。
朝とは違う雰囲気が漂う街並み。
何だかノスタルジックな感じがどこか心地よいぞ。
所々にある軽食の出店が良い味を出してる。
帰り道に買い食いして帰るかな。
とりあえずは冒険者ギルドで薬草の納品とゴブリンの耳の換金だ。
さて、幾らになるのかな~?
あぁ、パーティーメンバーの募集も確認しないとな。




