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デカイ鳥。デカイゴブリン。



ということで現在、私、天幹真雄は南の森の前に来ております。

空が青いです。緑が眩しいです。小鳥のさえずりが耳に心地よいです。


ここに来るまでにまたいろいろありました…。


市場で適当なリュックサックを買い、ゴブリンの耳を入れる用の袋も買い、お昼に食べる黒パンとぺルビ肉のベーコンを買ったり。

意気揚々とカード決済で南門をくぐろうとしたら、ギルドカードにお金を入れるのを忘れていてクロフさんに笑われたり。

クロフさんに宿の紹介について礼を言いつつ現金で通行料を支払って、荒野を歩いていたら岩壁にぺルビの群れを見つけたり。

それを眺めながら森を目指していたら空からでかい鷲みたいな鳥が降りてきて岩壁のぺルビをぐわしっと鷲掴みして飛び去ったりしたり。


いろいろありました。


こえーよ。鳥マジでこえーよ。

翼広げて何メーターよ?でかかった~。人も連れ去られるレベルのでかさだった~。

思わずランタンからオプション先生を解き放ったわ。

俺を守ってぇ!!って切実に願ったわ。


その後はでかい鷲みたいな鳥に出会うことはなかったけど、荒野は怖いとこだと思い知ったわ。

隠れるところが無い分、上空からの脅威が半端無いぜ。


異世界は危険がいっぱいだね!頭の上にも気を付けないとね!

これから足を踏み入れる森の中も危険がいっぱいなはずだからね!気を付けないとね!

オプション先生お願いしますね!俺の命を守って下さい。お願いします!切実に!


「よ、よし。いざ薬草狩りじゃあ!」


ざっし!と森に足を踏み入れると、目の前の木の根元にセリチ草らしき草を見つけた。

風に吹かれて揺れる緑色の丸い葉っぱ、小松菜に似たそれは、メドルテさんに見せてもらった図鑑にのってたそれその物です。


……。薬草見っけ。


早速過ぎてビックリだわ。簡単過ぎやしないかい?入口すぎて気付かれないとかそういう系かな?

うん、まぁとりあえず、採集するか。


初エンカウントのゴブリンから得た戦利品のナイフを革の鞘から抜いて、木の根元に生えていたセリチ草を根を残して刈り取る。

これで1束になるんだろうか?

ひと掴み分だけど、大丈夫かな?うーん、まぁ良いか。採れるだけ採って後で清算してもらおう。


よし、気を取り直して森の中で薬草狩りじゃあ!


行くで行くで。俺は行くで。稼ぐで稼ぐで。俺は稼ぐで。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





薬草狩りを始めてしばらくたちましたが、今現在概ね順調でございます。

森の入口でセリチ草をゲットした後も、少し森の中に入ればちらほらと薬草が見つかった。

セリチ草は見つかりやすいし、クラウト草は情報通り日があまり当たらない岩陰とかに生えていたし、それほど苦労はしなかった。

ピアンタ草だけは未だ発見出来ないが、それを補うようにセリチ草クラウト草がもりもりと集まり、リュックサックの半分以上を占めている。


採り尽くさないようにある程度は残しているのだが、それでもこれだけ集まるならなかなか良い稼ぎになるんではないだろうか。

それにしては人気が無いように見えるな。何でだろうか?何か理由がありそうなものだが、気にしたら負けかな?


よし、気にしない気にしない。

俺は俺なりにやれることをやれるだけやるのだ。

そう、それで良いはずだ。よそはよそ。うちはうちの精神だね!

よぉし、おじさん薬草たくさん狩っちゃうぞ!頑張っちゃうぞ!


ナイフを鞘に戻し、気合を入れて立ち上がったその時、視界の端をオプションさんが高速で通りすぎた。


「おっ?」


俺が間抜けな声をあげるのとほぼ同時に、目の前の木に何かが音をたてて突き刺さった。


「お?」


木に突き刺さった物を見ると、それは世間一般で言われるところの矢と言われる物に見えた。

小刻みにバイブレーションする矢は、今まさににそこに突き刺さった物だと全身を使って自己主張している。


あ~と?矢?矢ってことは?ん?


現状を理解出来ない俺。視界の端で飛び交うオプション先生。俺の周りの木に、地面に次々と突き刺さる矢。


ようやく脳みそが現状を理解したその時、繁みからゴブリンの集団が飛び出してきた。

それぞれ手に粗末な武器を持ち、『ギャギャギャギャー!』といった声を上げながらの登場だ。


「うおぉ!?」


いきなりのエンカウントに慌てふためく小心者俺。

バックアタック!バックアタック!隊列を組み直せ!

待て!隊列も何も俺は1人だ!隊列なんかない!ロンリーウルフパーティーだ!落ち着け!落ち着け!

いや違う、1人と1球パーティーだ!


背中に背負ったリュックサックをもたもたしながら投げ捨て、腰にぶら下げた剣を慌てながらも何とか抜き放つとほぼ同時、先頭に立ち斬りかかってきたゴブリンが宙を舞った。

アッパー気味にオプション先生の体当たりが炸裂したようだ。


きりもみ回転しながら吹っ飛ぶゴブリン。1番前に居たからゴブリンAだな。

小柄とは言え人並みの大きさの魔物を軽々と吹っ飛ばすなんて、流石先生だ。そこに痺れる憧れる。


先陣を切った仲間が吹っ飛ばされるのを見て、ゴブリンB、Cの動きが乱れる。

宙を舞った仲間を見上げたのだ。


隙ありぃ!と直感的に反応する剣を持つ両手と体。

やらなきゃやられる。それは先制攻撃の矢の雨で確認済みだ。

ならばやるしかない。まだ死にたくない。死にたくないでござるゆえに。


俺から視線をはずしたゴブリンBの頭目掛けて、握りしめた剣を振りかぶって力一杯降り下ろす。

イメージは解体バールを石膏ボードに降り下ろす感じで。砕けぇ!必殺!解体バーァァルッッ!!いや、普通の剣か。


嫌な感触。


頭にもろに剣を受けたゴブリンBは、ざっくりと裂けた頭部からいろいろな液体、固体を撒き散らしながら地面に倒れ込んだ。


「うおぉ!つ、次ぃ!」


やっぱり石膏ボードとは感触が違いすぎる。

がつっとして、ぐちょっとした。やべぇ、想像以上に感触がやべぇ。グロい。視覚的にも感触的にもひたすらにグロい。夢に見そうだ。


ビビりまクリスティな小心者俺は軽く悲鳴をあげながら、残りのゴブリンにいろいろな液体の付着した剣の先を向ける。


『ギギィッ!』


オプション先生の華麗な防御と体当たり、そして俺の自己流剣術に恐れをなしたゴブリン共は警戒の色を濃くした。

奇襲でのゴブリン側のアドバンテージはもうない。

数のアドバンテージはバリバリだが。


目の前にいるゴブリンの残りは4匹。殲滅出来なくても2匹は倒したし、残りを追い払ってから耳を切り取れば常設依頼はクリア出来る。

やったね!オプション先生!

殲滅出来れば、6匹で銅貨60枚だ。宿代プラスアルファがゲット出来る。

無理はしたくないが、出来るなら殲滅したい所だ。


『ギャギャッ!』


繁みの中からゴブリンの鳴き声がする、が姿は見えない。

あっちはアレか、矢を撃ってきた奴等か。じゃあもう少しいるな。


でも、鮮やかに奇襲してみた割りに、隠れてるのに声を上げるとか、知能が高いのか低いのかわかんねぇなこれ。

ゴブリンってそんなもんなのか?

と、とにかく殲滅するか追い払うかしないとな。

落ち着いて薬草狩りも耳狩りも出来やしないぜ。


いろいろな液体が付着した剣を握りしめながらゴブリン共を睨み付けていると、繁みの中から何かが飛来する。

それと同時に行動を起こすゴブリン達。

飛来する何かに直ぐ様反応するオプション先生。


飛来した何かをオプション先生が確実に弾き飛ばしていく。

それと同時に短い助走からジャンプして、文字通り飛びかかってくる前衛ゴブリンC。


そりゃ悪手じゃろ。


千手観音使いのおじいちゃんが脳裏にちらり。それと同時に飛びかかってくるゴブリンに向かって、俺はいろいろな液体が付着した剣を突き出した。


『ギャガァッ!』


鋭く尖った剣の先がズブリと緑色の皮膚を突き破りながら胸に突き刺さる。

やはり嫌な感触。ついでに滴るゴブリンの体液。

ぎゃー!ぎぼぢ悪い。


剣から滴るゴブリンの体液に顔をしかめていると、横合いからゴブリンDが棍棒を振り上げ、突っ込んでくる。


木の枝を適当に削った様にしか見えない雑な作りの棍棒。当たったら痛そうだ!回避!回避せよ我がボディ!


重力に引かれて落下し始めるゴブリンCの体から剣を引っこ抜きつつ体を捩るが、避けきれない気がしてならない勢いで棍棒が降り下ろされる。

剣で防御をしようとするが、間に合わない。 当たる。これは当たる。


痛い!


当たる前から心がそう叫ぶが、ゴブリンDの棍棒は、俺を捉える前にオプション先生によって防がれ、返す刀ならぬ返す体当たりがゴブリンDの顔面にめり込んだ。


叩きつけられるように後頭部から地面に倒れこみ、動かなくなるゴブリンD。

倒れ込んだゴブリンを見ると、オプション先生が直撃した部分が丸く陥没していた。

めり込んだ鼻やら口やらがオプション先生の体当たりの威力の凄まじさを物語る。


流石オプション先生強い!怖い!


無惨に息絶えたゴブリンCDを見て、ゴブリンEFは明らかに怯えているのがわかる。

そりゃ怖いよな。飛びかかったら一瞬でオプション先生に撲殺されるんだから。わかる。わかるよ。同じ立場なら俺だって怖い。


怯えるってことはやっぱりある程度の知能はあるんだな。

あまり高くはなさそうだけど。


『ギャギャッ!ギャッ!』


繁みからまた声がした。

来るか?ゴブリンABCDの成れの果てを見てもまだかかってくるか?

と身構えるが、ゴブリンEFは踵を返すと、繁みの中へ駆け込んで行った。


静寂が戻る森の中。


しばらく様子をみるが、ゴブリンが再び奇襲してきたりすることはなかった。

どうやら逃げ出したようだ。


不利ならば逃げ出すくらいの知能があるらしい。

逃げ出す知能があるならば、下手したら遠くから見張ってて、気を抜いたら再び強襲、と言った可能性もあり得るぞ。

厄介極まりないじゃんね。

どうしよう。


…とりあえず、耳狩るか。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





ゴブリンのバックアタックから数時間ばかり。

森の中は静かなもんです。

鳥の声と風が揺らす木々の音しかしません。


背負ったリュックサックは薬草でパンパンに膨れ、リュックサックの脇にぶら下げた耳袋には怪しい色の鮮血の染みがじわりじわり。


………、血抜きとかするべきだったんじゃろか…。


多分するべきだったんだろうね。次から、次からやるよね。

しかし、耳を狩るってのは初体験だったけどさ、吐き気を催すレベルの所業だね。

ヤバかった。それこそ夢に見るわ。うぷっ。


こみ上げるモノを我慢するためふと空を見上げると、木々の隙間から見える太陽は真上を通り越して、だいぶ西へ傾いていた。


あぁ、もうこんなに陽が傾いてる。

そろそろ街に戻らないと夜になってしまうな。夜は魔物が増えるイメージがバリバリだ。ゲームの知識だけど。

早く帰らないと、えーと、帰り道は岩山が無い方角の、あっちだな。さぁ帰ろう。

薬草も鞄いっぱいだ。宿代くらいは稼げると良いけど。

稼ぎが多かったらちょっと奮発してステーキでも食べちゃおうかな~。




がさり


おっ?


『グ?』


んっ?


『グオゥ!』


あれ、何、この、デカイ、ゴブリン?

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