ギルド入会の手続き
ざわざわざわ。がやがやがや。
ということで、やって来ました本日2度目の冒険者ギルド。
しかも今回は遠めからじゃなく、しっかりと建物の前にいるぜ。
3階建ての石造りの建物って威圧感半端ないね。開け放ってある扉も重厚感半端ないしね。
いやぁ、凄いね。建物全体から活気が溢れ出してるね。
出入り口からも人が溢れ出てるね。
一般ピーポーお断り感も半端ないよね。
革の胸当てと布の服という序盤装備で入って良いもんか迷うレベルの威圧感が出てるよね。
だって、今でかい剣を背負ったゴリラみたいなおじさんが入ってったぜ。腕の太さが隣にいる綺麗なお姉さんの腰くらいあったぞ。
おっかねぇわ。美女と野獣なの?羨ましいわ。
あ、でも俺と同じような布の服を着たおじさんもいるぞ。
親近感、親近感。あ、でもちょっと肩身が狭そうだ。
何でや、堂々としてたら良いのに。何でそんなこそこそするんだ。
格差か。格差社会か。こんな異世界でも格差に苦しめられるのか。
くそう…。
しかし、俺は逃げないよ。頑張るよ。
ここで逃げ出してはゆっくりまったり暮らそう計画が進展しないからね。俺は頑張るぜ。
オプション先生見守っていてくれ。
さて、いざ突入ですよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルド内部に足を踏み入れると、人が集まっている場所特有の熱気が感じられました。
むわっ、て。むわっ、てきた。
熱気というか臭気?何かちょっと臭いがきつい?みんな風呂とか入って…あ、そうか、お風呂とか入らない感じが普通なんかな?
岩壁の止まり木亭にも風呂は無かったし、シャローネちゃんもお湯がどうとか言ってたもんな。
つまりはみんな体拭いてるだけか。たまに水浴びくらいはするんだろうけど、そりゃ臭気もむわっ、と来ますわ。仕方ない仕方ない。
綺麗なお姉さんの臭気なら、ちょっと興味津々ですけどね。あ、ゴリラさんのはノーサンキューです。
人の流れを妨げないようにその流れからちょいと外れ、ギルド内部を観察だ。
扉を入れば大きなエントランスがドーン。扉からエントランスを真っ直ぐ突っ切ると綺麗なお姉さん方が並ぶカウンターに行き当たりますな。
お姉さん方が並ぶカウンターの左側には2階に続く階段がある。カウンターの右側には何かの掲示板、掲示板とカウンターの奥にはどこかに続く通路が見える。
武装してたり、武装はしてないけど明らかに体がムキムキな人たちと、布の服の一般ピーポーさんの流れは、一旦扉から入って右側の壁際にある紙がこれでもかって貼り付けられた掲示板に向かっていく。
そこで大量に貼り付けられた紙を吟味した後、各々掲示板に貼られた紙を剥がし取り、お姉さん方が並ぶカウンターに向かっていく。
なるほどなるほど。掲示板がクエストボードでカウンターがクエスト受け付けカウンターね。分かりやすいね。ゲーム脳の賜物感バリバリだけど、気にしちゃいけない!
小綺麗な服装の人達は、右側の掲示板に向かうことなく2階に上がっていく。
1階と2階で何か違うんだろな。
お金持ちの人は2階で、冒険者は1階みたいな感じかね。
あれ、扉を入って左側にも受け付けカウンターとは違うカウンターがあるけど、こっちにはあまり人気がない。
何の違いがあるのかな?
こっちのカウンターじゃクエストは受けられないってことか?
あぁ、とりあえず仕事をもらうにはどうしたら良いか聞くところからだな。
登録からかな?どっちにしろ誰かに聞かなきゃわからないな。
誰に聞こうかな、と。
冒険者ギルドの職員的な感じの人に声をかけようと視線を巡らせて行くと、左側カウンターの奥に座るダンディズム溢れる白髪白髭でタキシードチックなお召し物のおじ様と目が合った。
何だろう、ダンディズムな熱視線がバリバリだわ?
何かしたかしら俺。
しばし見つめ合う俺とおじ様。
ぬお、よくよく見るとおじ様の熱視線がチラチラと俺の下半身に向かってる気がする。
いやいや、こちとらウホッなフラグも展開もノーサンキューなわけですが?
しばらくするとおじ様がにっこりと柔らかい笑顔を浮かべて立ち上がり、おじ様前の席を指し示してくれた。
座れってことかな?丁度良かった。ウホッは怖いけど、こんな人の多いところなら大丈夫だろう。
良い機会だ。優しそうなおじ様にいろいろ聞いてみよう。
椅子に腰かけると、ダンディズム溢れるおじ様も椅子に腰を下ろし、またにっこりと微笑んだ。
「ようこそ冒険者ギルド、マインエラ支部へ。私、冒険者管理カウンターのメドルテと申します。我がギルド未登録の冒険者様かとお見受けしますが、今日はどういったご用件でしょうか」
わお、かなり丁寧な対応だわ。何かもっと厳ついおじさんが「おう、何の用だ」みたいなのイメージしてたけど、こんなダンディズムなおじ様ならこっちの方が似合うよな。
「初めてこの街に来たんですが、仕事を探していまして、何か簡単な仕事を紹介してもらえたらなぁ、と」
「なるほど。当冒険者ギルドの発注する依頼を受けたいということですね。失礼ですが、他支部での冒険者登録はございますか?」
ぬお、無いぞ。登録なんかしてない。この世界に来たのが昨日なんだから。
「いや、してないんですけど。どこかで登録してないとダメですか?」
「いえいえ、そんなことはございません。それでは冒険者の新規登録からと言うことでよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「かしこまりました。それではこちらに、お名前と出身地を記入して下さい」
お?紙が普通に出てきたぞ。インクと万年筆みたいなやつもだ。
冒険者ギルドみたいな大手ともなれば、紙もらくらく使えちゃうのかね。
でも、これは魔道具っぽくはないな?漢字書いて大丈夫な感じ?
メドルテさんがシャローネちゃんの二の舞にならへん?うーん?
万年筆を手に取りつつ、しばらく悩んでいると、メドルテさんが失礼、と声をかけてくる。
「よろしければ代筆をいたしましょうか」
おぉ、さすが、気が利くぞメドルテさん。
お願いしよう。多分漢字書いてもダメだし、ギリシャ文字みたいなのも書けないしな。
「お願いします」
「かしこまりました。それではお名前と出身地をお願いします」
「名前はマオ、出身地は…」
あ、どうしよう。地球、とか日本とか言ってもわかんないか。えーと、うーんと。そうだ、ちょっと遠い田舎の出身にしよう。
「出身地の方は?」
「えーと、アースって田舎の村の出身なんですけど」
「アース?…聞いたことありませんね…。この近辺の村ではないのでしょうか…?いやはや、勉強不足で申し訳ありません」
「いやいや、かなり遠くの東の方の小さな何の特産品もない田舎の村なので…。知らなくても仕方ないですよ。気にしないで下さい」
「恐れ入ります。それでは登録名はマオ様、出身地はアース、と。では続いて、こちらに手を置いてください下さい」
おぅ、何ぞ石板が2枚出てきたぞ。その1枚の石板の上に俺の名前と出身地の書いた紙を置いて、もう1枚の石板を重ねて置いた。
その石板の上に手を置けと。
どんな物なのかわからないけど、言われた通りにしておこう。
「はい」
ペタリと紙が挟まれた上に手を置くと、石板はぼんやりと光を放ち始めた。
しばらく発光が続いていたが、やがて光が消えるとメドルテさんが
「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
と促してくれた。
手を退けると、メドルテさんが上に重ねた石板を持ち上げた。
そこには俺の名前と出身地が書かれた紙ではなく、1枚の銅色のカードが置かれていた。
おぅ、マジック!メドルテさんはマジシャンだったのか!
いや落ち着け。違うな、あれか、魔道具ってやつか。
カードを見ると俺の名前が印刷されてるのが見えるもんな。
紙をカードに変える不思議魔道具だな。凄い。魔道具凄い。
「それでは、冒険者カードの説明をさせていただきます。こちらがマオ様の冒険者としての身分を証明する冒険者カードになります。こちらのカードは依頼を受ける時にも必要になり、依頼を達成した際の報酬の振り込み先としても使用されます。登録時の発行は無料ですが、紛失時の再発行には銀貨5枚の料金がかかります。盗難や紛失には十分にお気をつけください」
メドルテさんがカードを手渡しながらカードについての説明をしてくれる。
おぅ、意外に高いぞ冒険者カード。
無くさないように気を付けよう。
しかも振り込み先って何ぞ。依頼を受ける時に使うのはわかるけど、何か口座みたいなのが作られたのか?今ので?
魔道具凄い。
「報酬の振り込みについてですが、カードの中に依頼の達成報酬を振り込み、記憶させることができます。魔物の素材の売却金等はもちろん、嵩張る現金も各職業ギルドにお持ちいただければカードに振り込むことが可能です。カード自体が魔道具となり、マオ様の口座として機能するわけですね」
うお、凄いな冒険者カード。けど大丈夫なのか?落としたり盗まれたりしたらごっそり金抜かれるじゃん。
「この冒険者カードには所持者の魔力が登録されています。所持者が魔力を通さない限りカードの操作は出来ないようになっています。魔力の波長は個人個人違いますので、他人にカードを悪用されることは無いと言ってもいいでしょう」
うお、凄い。メドルテさん凄い。思考を読まれた。
「カードの中に記憶されている額はご本人様でしか確認出来ません。ご本人様でしたらカードを見つめるだけでいつでも確認していただけますし、カードの中に記憶されているお金は、そのカードのギルドでしたら簡単に現金化することが可能です。更にカード同士を認識させると現金を扱うことなく取引を行うことができます。これは冒険者カードはもちろん、他の職業ギルドのカードでも可能です。この街で言いますと、鍛冶、錬金術、商業ギルドのカードですね。また、街の門を通る場合の通行料金もお持ちのカードをかざすだけで支払うことができます。積み荷を積んだ荷馬車等の通行料金はなかなかの高額になりますから、現金を持ち歩きたくない旅商人等にもカードでの取引は重宝されていますね。ですが、一部の商店や、市場の出店等ではカードでの取引が出来ない場合も多々ございますので、多少の現金を持ち歩くことをお勧めします」
おぉお、身分証にクレジットカードに電子マネーにと、こんな小さなカードにいろいろと機能が詰まってるんだな。
高性能過ぎるんちゃう?それをタダであげちゃうなんて太っ腹過ぎるやろ。ギルド連中。
それだけ儲かってるんだろうなぁ。やり手だなギルド。当たり前か。
「とても便利なカードになりますが、いくつか注意点がございます。まず1つ目、登録者が犯罪を犯した、または犯したという疑いがかけられ、それがギルドに報告された場合、カードのあらゆる取引は封印されます。これは犯罪者の逃亡、犯罪行為自体を未然に防ぐためです。もちろんその情報をしっかりと精査した上で、封印の是非は決定されます。冤罪等で取引が封印されることはありませんのでご安心下さい」
うん、犯罪者の口座を凍結するのは現代でもやってたな。納得だ。
どうやって封印するのかはわからないが、何か秘密があるんだろうな。
冤罪はないって自信持って言えるのは凄いな。冤罪を防ぐための何かしらの手段があるんだね。
「注意点の2つ目はカードを紛失され、再発行した場合、カードに記憶されている金額の補償は一切ございませんのでご注意ください。これはカードに記憶されている金額はご本人様しか知り得ませんし、それを証明する手段が乏しいからです。そのため、1枚のカードに全財産を集めるのではなく、いくつかのギルドに登録してカードを複数枚持ち、それぞれのカードに財産を振り分けて紛失時、盗難時の被害を減らすといった手段をとられている方もおられます。商業ギルドには現金や貴金属、貴重な魔道具等を保管してもらえる金庫もございますので、そちらもご活用下さい」
無くしたカードの中に金貨100枚入ってたんだ!補償しろ!なんて言われても困るもんね。
そうするといくらお金持っててもカードを無くしたら一気に無一文か。
複数枚持つほど財産もないし、金庫に預けるような貴重品なんて持ってないからそっちはいいや。心の片隅に留めておくだけで。
とにかくカード無くさないように盗まれないように気を付けよう。うん。
「注意点の3つ目は、登録者に万が一の事が起こった場合、つまりは登録者が死亡した場合ですね。この場合、死亡した登録者のカードは一定時間の後に自動的に消滅します」
いきなりのスパイ映画ばりの自動消滅機能~!?
「これは登録者の生死を判別するための機能です。登録者からの魔力の供給が完全に途絶えた場合、登録されたギルドの方にカードの消滅と同時に魔法による通知が来ます。これは主に未開地等で行方不明になった冒険者の生死の確認の為に使用されます。冒険者の身内や、仲間の方々に活用されることが多いですね。行方不明になったとしても、通知が来ない限りは生きていると言えるわけですから、捜索隊を組むなり、通知が来ていれば諦めるなり出来ますので」
な、なるほど。生きてるのか死んでるのか確認のしようがない場所に行って行方不明になった人の安否確認が簡単にできるってのは凄いな。
つうかメドルテさんなかなかシビアだね。通知が来ていれば諦める、て。
いや、通知が来てれば死んでるんだから仕方ないのかな。
生きてるのか死んでるのかわからないまま待つよりは良いのか。…良いのか?
でも、魔法凄すぎない?現代でも出来ないことをあっさりとやりすぎじゃない?
こっちの世界、現代の機械文明より発達してんじゃないの?
あ、でもさ。無くしたらどうすんのかな?魔力の供給が出来なくなって、カード消えて、死亡通知とかならんの?再発行したらカードが2枚とかになっちゃったりしない?
「魔力の供給って言うのは、どうやってしてるんですか?カードを無くしたりしてカードに触れなくなったら魔力の供給も途絶えてしまうのでは?あと、再発行したら無くした方のカードはどうなるんですか?」
「カードへの魔力の供給方法は職業ギルド全体の重要機密になりますのでお教えできません。ですが、カードが遥か遠くにあったとしても、登録者が生存している限り魔力の供給は絶対に途絶えません。カードを再発行した場合は、再発行したカードに全ての機能が移りますので、紛失された方のカードの機能は全て失われ、ただの板切れに変わります。そもそも登録者以外にカードは使えませんから、他人のカードを持っていてもただの板切れ以上の価値はありませんが」
「そ、そうですか。わかりました」
重要機密事項来やがりましたよ。
職業ギルドの重要機密なんて、知ったら消されそうなレベルだな。
深入りは死を招くよね。気を付けよう。
「長らくカードについての説明をさせていただきましたが、ご理解いただけましたでしょうか?」
「あ、はい大丈夫です」
「それでは続いて冒険者ギルドの説明を行いたいと思いますが、お時間の方は大丈夫ですか?」
「は、はい、お願いします」
「かしこまりました。それでは説明を続けさせていただきます」
な、長くなりそうだ。
しかし、しっかりと聞いておかなくては…。




