うやむやからの逃走。いざ、冒険者ギルドへ。
何故だか鼻息荒く仁王立ちする見知らぬお嬢様。
整った顔立ちに青い瞳に青い髪、青い髪を彩る髪飾りは素人目に見ても明らかに上等な物、同じくお洋服も細かい刺繍がしてあって高級感バリバリ、さらには小柄な割に偉そうな言葉遣い。
もしかしなくても位の高い感じのお嬢様と違いますか?
南区、中央区、西区と見てきたけどこんな上等な感じの人、あんまり見なかったぜ?
中央区のでかい店の前で見かけた馬車を乗り降りしてるような感じの人達だ。
うん、多分上流階級的な人種だ。ブルジョワジーだ。
そんなブルジョワジー感溢れるお嬢様の、若干涙目の青い瞳から発せられる熱視線は何故だか俺に向かって一直線。
ロックオン!ロックオン!狙い撃て!狙い撃て!
やめてください。死んでしまいます。
いや、どちらさんですか?まだこの世界で知り合いなんていないんだけど?何?ナンパ目的?そんなバカな。
そしたら何だ?フラグか?ブルジョワジーフラグか?
あらやだ、何か変なフラグが立ちそうだな。異世界人は消毒だ~!とか。いや無いか。えーと、どうしよう。
とりあえず、ブルジョワジーなお嬢様の出方を見ようか。下手に刺激しておかしなことになるのも困る。
強面のお兄さんとか出てきたら腰にぶら下げたランタンからオプション先生が火を吹くけどよ。
しかしそのいざこざで投獄フラグが立ちそうになったら全力で逃走だ。
この街を飛び出して、ターレシュタットとか王都辺りまで高跳ぶぜ。
俺は頑張るぜ。
「よ、ようやく私の方を向いたな、無礼なヒューマめ」
何ぞ声が震えているように聞こえたのは気のせいだ。そっとしておこう。きっと怒りに震えてるだけだから。泣いちゃいそうなわけじゃないはずだから。
刺激しない。刺激しない。
というか、無礼なヒューマって呼ばれても人違いですしおすし。
俺はマオ。ただのマオ。それ以上でもそれ以下でもないのですよ?
「えーと、俺に何かご用ですか?お嬢様」
「用件の前に、何故私の呼び掛けを無視した。答えろ」
え、何?構ってちゃん?無視されたら嫌なの~みたいな?ヤダわ~、そう言うのヤダわ~。
これだからお嬢様は。
答えろったって理由なんて1つしかないだろ。
「ヒューマと呼ばれても俺、そんな名前じゃないですし。そもそも俺はこの街に来てからまだ間もないし、知り合いなんていないから別の人に声をかけてるのかなと」
嘘偽りないぜ?本心からの言葉やで?これでいちゃもんつけられても困るぜよ?
「貴様はヒューマ族だろう。ならばヒューマ族をヒューマと呼んで何が悪い。貴様、ヒューマ族のくせに生意気だぞ。そもそも私は貴様の名前など知らない」
あ、ヒューマって俺の種族か。ヒューマンでヒューマな。安直安直ぅ。
タイタンの星の主人公の名前かと思ったわ~。っていうか生意気だぞって何よ。偉そうに。
何?種族で優劣があるとかそういった系?
上流階級特有の選民思想?ヤダ~怖~い。
「いや、名前がわからないからって種族名を呼ばれても反応出来なくないですか?周りを見ればヒューマ族なんてたくさんいますし。貴方も自分の種族がたくさんいるとこで、種族名呼ばれても自分が呼ばれてるかなんてわからないでしょ?」
そうだ、さっきのおばちゃんだってヒューマ族だし、市場をうろうろしてる人の大半は俺と同じヒューマ族だ。
厄介な事に巻き込まれないように遠巻きに野次馬野次馬してる人達だって大半はヒューマ族だ。
お嬢様の種族が何か知らんけど、自分の種族で呼ばれてるかなんて判断つかないだろ。
そもそも種族で優劣とかどうこうってのも何かやな感じだしな。ペンギンナイトを彷彿とさせるぜ。
人類皆兄弟。肌の色も人種も関係ないんやで!
「な、何?…むぅ、確かに…一理…ある…」
俺の言葉に素直に頷くお嬢様。
案外聞き分けがよろしいようで?
「本当に気付いて欲しかったなら、服の裾を控え目に引っ張るとか、軽く体を叩くとか、俺の前に回り込むとか、貴方の方からいくらでもアプローチ出来たのでは?それをせずに、こちらが返事をしなかったといきなり怒り出すのは、紳士淑女のマナー上如何なものでしょう?」
「む、うぅぅ…確かに…淑女としての立ち振舞いでは…ないな…。くっ…」
意気消沈し俯くお嬢様。高級感バリバリのお洋服の裾をぎゅっと握り締めてらっしゃる。
おぅ、ちょっと可哀想になってきた。よし、このまま言いくるめて煙に巻いて逃げちゃうか。
お嬢様フラグはどう転ぶか予想がつかないからな。
誘拐疑惑とかかけられても困るし。
えーと、強面のお兄さん方が影から見守ってたりしてないよな。
辺りを確認だ。
うん、野次馬的市場の商人さんたちと買い物客しかいないな。
ならば、うやむや~にして、立ち去ろう。オプション先生の出番はなさそうだ。
三十六計逃げるに如かずの精神ばんざーい。
「しかし、何回も呼ばれていたのにも関わらず、気付かずに不快な想いをさせたことも事実。俺の方も悪い部分があったのは認めます」
「そ、そうか。ヒューマにしては殊勝な心がけだな。貴様、見所があるぞ」
ちょっと元気を取り戻すブルジョワジー系美少女。
やっぱり笑顔は可愛いね。あ、よく見りゃ耳が尖ってる。この子もエルフ的な種族か。
エルフはプライド高いイメージあるからな。納得。ガッテン!
「それはどうも。ならば、お互いに気持ちよく謝りあって、禍根を残さないようにすると言うのが、紳士淑女的に丁度良い落とし所だと思うのですが、いかがですか」
「そうだな。それが良い。名家の子女たるもの礼節は重んじる。時には素直に過ちを認める潔さも必要だ。今回は私にも無礼な所があったのは認めざるをえんからな。…すまなかった」
「いえ、こちらこそ申し訳なかったと思っています。今度からはきちんと周りにも目を向けたいと思います。そして今回は自分の足りない部分を再確認出来たと前向きに捉えようと思います」
「うむ、私もまだまだ未熟者だと言うことに気付かされた。もっと精進せねばなるまい」
「はい、お互いに頑張りましょう。それでは」
「あぁ、お互いに精進しよう。さらばだ」
爽やかに別れの挨拶を済ませて、そそくさと退散じゃ。
市場の喧騒に紛れてスタコラサッサー!
チョロいお嬢様で良かったね!チョロ嬢様だね!チョロ嬢様、サヨウナラ!また会う日まで!なるべくもう会いたくないけどさー!
いやー!こんなにうまくいくとは思ってもみなかったぜ!はっははー!
後ろの方で「あっ!?違う!用件がまだだ!貴様!待てぇ!!」とかいう声が聞こえた気がしたけど気のせいだわね。
うん、気のせい気のせい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ということでやって参りました。マインエラ北区の市場でございます。
南区と同じように庶民派の市場が立ち並んでいます。怪しげな商品は微塵も見当たりません。
この時間帯は朝方のかきいれ時を過ぎて、落ち着いた雰囲気が流れております。
市場のおばちゃん方もゆっくりと談笑してたり、朝御飯を食べたりしている。
このまったり感、良いね。
市場の中のベンチに座り一息。
中央区を囲う壁の向こうにそびえる塔を見上げると、塔のてっぺんで大きな時計が時を刻んでいる。
あれは街がでかくなるにつれて、やっぱり時間って大事だよね、って当時の領主様が導入した大時計らしいよ。
中央区の中央にビッグベンみたいなのが、建っているのだ。
その名も中央区大時計塔。
そのまんまの名前だけど、マインエラのどの区からも見えるし見映えが良いから、マインエラの自慢の1つらしいね。
決まった時刻になると塔の中にある鐘が鳴って、時刻をお知らせしてくれるんだってさ。
あ、朝も鳴ってたよ。朝御飯食べてるときにカラーンカラーン鳴ってたよ。
次に鳴るのはお昼かな。だいぶ離れた岩壁の止まり木亭でも聞こえるくらいだから、間近で聞いたらかなり大きな音なんでしょうね。
ビッグベンも鐘が鳴るとき近くにいる場合は、耳栓するって話だしね。
凄いなぁ。部品とかはこの街で作れるのかもしれないから安上がりかも知れんけど、あれだけの物をずっと維持するのは大変そうだ。
ああいう所にも魔道具的な物が使われてるのかもね。
当時の領主様って凄い人だったんだね。
さて、その大時計を見た感じ、現在時刻は10時半。冒険者ギルドが空くと思われるお昼時までおおよそ後1時間くらいかな。
市場を見て回るのも時間が潰れるようで、なかなか潰れない。
もう少しじっくり東区市場を見て回りたかったけど、あのお嬢様に絡まれる可能性を考えると避けざるをえないよな。
のんびり生きていくのに変なフラグはいらんのです。偉い人にはそれがわからんのです。
所持金も心許ないから買い物も出来ないしな。
いや、ゴブリン(仮)にやられた方の所持金が少なかったとかそういうことじゃなくてね?俺の描いたスケジュールが崩れてるってだけだからね?
魔石とやらをどうにかすれば多少の収入があるはずなんだよ。
そう、冒険者ギルドに行けば何とかなる!…はず。
だがなぁ、クロフさんのリアクションからして、魔石とやらは駆け出しの冒険者が持ってるのはちょっとおかしい部類の物らしいのが気になるよね。
オプション先生が蹴散らした有象無象がポコポコドロップした、普通の換金アイテムだと思ったんだけどね。
それを集めていけば武器でも防具でも買えちゃうよ、ってRPGの基本の話なはずなんだが。
そうはいかんざき、と言った風情である。
じゃあ他の駆け出しの冒険者はどうやって日々の生活費を稼いでいらっしゃるのかしらん?
魔石ではないとすると、やはりギルドに舞い込む依頼をこなすしかなさそうだよね。
それで、こう、キークエスト的なのをクリアーすると、次のランクに上がるための緊急クエストが出て、高難易度のそれをクリアーすると、ランクアップ!と、そういうことじゃないかな!
うん!僕、ゲーム脳!
もし冒険者にならず、他の職業に就くにしても、先立つものは必要だ。
ちゃんとした給料を貰えるようになるまでは時間がかかるし、時間がかかる分、宿代も飯代などの諸経費もたくさんかかるだろう。
ならば結局、冒険者ギルドに行かなくてはどうにもならないということなんだよね。
全ての道は冒険者ギルドに続いているな。
あ、待て?駆け出し?
俺さ、魔石の換金ばっかり考えてたけど、これって普通に駆け出し冒険者として依頼を受けたら良いんじゃないの?
それである程度地位を築いてから、魔石の換金なり、なんなりしたらまったく問題無いのでは?
………………。
おい。それで良いじゃんか。
下手コイタ~。無駄にじゃらじゃらある分、意識が魔石1色になってたわ~。
普通に新人です!簡単なお仕事ください!って行ったらえぇやん。あ~。アホか俺~。
いやしかし、そう考えたら何だかヤル気出てきたぞ。
やれることをやれるだけやって、異世界生活をゆっくり暮らせるように頑張ろう。
金稼いで、錬金術とか習って、森の奥とかでゆっくりまったり暮らそう。
おーし!何かビジョンが見えてきたぁ!
よし、そう言うことなら話は早い。
さっさと冒険者ギルドに行って、仕事を探してこよう。
バリバリ働いて金稼いで、のんびり暮らすぞ~!
今度こそ、いざ冒険者ギルドじゃあ!




