第一話 魔法少女なんでしょ? ⑦
それにしても、今日は朝からいろんなことがあった一日だった。
真夜中の謎の妖精の訪問に始まり、内なる声のささやき、梨音との出会い……そして、またひとつ、いつもとは違う出来事があった。
梨音といっしょに教室へ向かう途中の廊下で、普段は言葉を交わしたこともないふたりから声をかけられた。
美月が知っているふたりだった。というより、校内で知らない者はいないほどの有名人だ。
梓川澪子と桐也の双子の姉弟。
ふたりとも超がつく美形で、しかもこの学園の理事長の孫。おまけに平安時代から続く由緒正しい家柄。
そのふたりが、廊下ですれ違うとき、美月の名を呼んだ。
「加藤さん?」
姉の澪子がにっこりと微笑む。腰まで届く黒髪、日本人形みたいに整った顔の造作。美月と同じ高校二年だが、とても背が高い。一七〇センチは確実に超えている。
「あ、はい?」
美月はドキマギする。同性の美月から見ても、澪子の美貌にあてられるとクラクラした。
「ぜひとも文芸部にいらっしゃってくださいね。歓迎しますわ」
「え? なんでそんなこと、知ってるんですか?」
「梨音さんから教えてもらいましたわ」
「は?」
梨音が、澪子と桐也に向ってヒラヒラと手を振る。
「さっき、あたしがふたりに教えてあげたの」
「……どういうこと?」
「わたしと桐也さんも文芸部員ですから」
「はい?」
「僕と澪子さん、梨音さんの三人で、文芸部です」
と、桐也。白い歯をのぞかせて快活に笑う。姉にも匹敵する、美貌の持ち主。おまけに身長はゆうに一八〇センチを超えているだろう。
「なんですと!」
思わず、すっとんきょうな声が出た。そういえば、澪子も桐也も、生徒会の推薦を固辞したのは、なにか部活に忙しいらしい、と聞いたことがあった。そんなことはないだろうと思っていたが……どうやら本当だったらしい。
「どうしておふたりが、そんな人気がない部活なんかに……」
口に出してから、よけいなことを言っちゃった、と思った。もう遅い。
澪子と桐也が、ふたりそろって小さく笑う。笑い方もいっしょだった。実に奥ゆかしい。
「来れば、わかりますわ」
と、澪子。梨音に目配せして、
「では、楽しみにしてます。失礼しますわ」
「失礼しますね」
そうして、だしぬけに到来した嵐は、美月を置き去りにして通過していった。
美月、呆然。美月の周囲で、いまのやり取りを目撃したほかの生徒が、ヒソヒソと言葉を交わす。
梨音はまったく平気だった。廊下の向こうへ歩み去っていく、双子の姉弟の背中に手を振って見送り、
「メンバーがすごいでしょ、うちの文芸部」
「…………」
美月はとっさに言葉を返せない。
梨音に問いただそうとしたとき、予鈴のチャイムが鳴った。
「じゃあ、そういうことだから」
梨音は陽気な口調で、
「文芸部の件、考えてといてね」
自分の教室に向かいながら、澪子は隣にいる弟に低い声で話しかける。
「どう思いますか、桐也さん?」
桐也はクスリと笑って、姉を見返す。
「梨音さんの言うとおりなら、彼女は魔法少女ですね」
「わたしもそう思いますわ」
「では、なおさら……」
桐也は顎に指をあてて、ウインクする。
「加藤さんには文芸部に入部してもらわないと……」
授業中。
教室の後ろの席にいる美月を盗み見て、梨音は自分の席で満足げに微笑む。
「わかってんだから。加藤さんも、魔法少女なんでしょ?」




