第一話 魔法少女なんでしょ? ⑤
「あれ、石野さん?」
少女は、美月と同じクラスの石野梨音だった。クラス替えで初めて同じクラスになったから、会話したことはほとんどない。丸顔の、つぶらな瞳がかわいい美少女で、ショートボブの髪型がよく似合っている。
梨音が呼びかけてきたからか、心のなかの声は沈黙をたもっていた。もう話しかけてこない。
梨音が美月の顔をジッと見つめる。もしかして、わたしの顔になにかついているんだろうか、と思っていたら、梨音がかわいらしく小首をかしげた。
「市長さんってなに?」
「はい?」
「加藤さんが言ったんじゃない。こんな往来の真ん中でさ。市長さんがどうのこうのって」
「あう……」
美月、いきなりのピンチ。こんなとき、作家の冴子だったら、いとも簡単に言い逃れのセリフを口にするんだろうな、と益体もないことを思う。
「その……来月の市長選挙、誰に投票しようかなって……」
「投票って、あたしたち、高校二年だからまだ選挙権ないよ?」
「…………」
かえって墓穴を掘っただけだった。泣きそうになる。無理やり、話題の転換を試みた。
「あ、そうそう。今度、剣神社に行ってみようかなー、とか思ったりして……」
「あたしの家に?」
「え?」
「剣神社って、あたしの家だから。あたし、剣神社の宮司の娘」
ついぞ知らなかった。彼女がそんな家柄の出身だったとは。
「よかったらいつでもお参りにきて。安産祈願で有名だからさ、うちの神社」
(……って、わたしが安産祈願をしたいように見えんの?)
なんという天然な女の子だろう。美月もひとのことを言えないが。
「それよりも、こんなところにいたら遅刻するよ」
と、腕時計を確かめながら、梨音。
「そうだね。うん、遅刻はマズいわー」
「じゃあ、こっちの道ね」
「……な?」
ありえない。
梨音が指さしたのは、十字路の右の道。美月がいつも自転車で往復している道とは違う道だった。




